機能性ディスペプシアの症状・検査・治療ガイド
「異常がないのにつらい」を出発点に、受診、検査、治療、生活の整え方を順に確認します。
機能性ディスペプシア(FD)は、胃もたれ、少量で満腹になる感じ、みぞおちの痛み・焼ける感じが続き、症状を説明する明らかな病気が見つからない状態です。気のせいではありません。出血や体重減少などを先に確認し、必要な検査、薬、無理のない食事・生活調整を組み合わせて、症状と生活への影響を見直します。
胃の不調でも、出血や強い胸痛は先に対応する
すぐに救急相談・119番
突然の強い腹痛や胸の圧迫感、冷汗・息苦しさ、吐血、黒い便にふらつきを伴う場合。意識が遠のく、動けないほどつらい場合は119番へ。
当日〜早めに対面受診
黒い便、飲み込みにくさ、繰り返す嘔吐、水分が取れない、意図しない体重減少、貧血、症状の進行。急速な悪化では救急受診を検討します。
予約して消化器内科へ
胃もたれやみぞおちの痛みを繰り返す、食事・仕事・睡眠に支障がある、市販薬が繰り返し必要な場合。
FDは、危険な病気を症状だけで除外できる診断名ではありません。過去にFDと言われていても、新たな出血、体重減少、つかえ、繰り返す嘔吐があれば、以前と同じ症状として片づけず再評価します。緊急性があるときは食事記録や市販薬より受診を優先してください。[1][2]
胃の働きと感じ方の不調で、見た目とつらさは一致しない
FDは、胃が食物を受け入れて広がる働き、胃から先へ送る動き、刺激を感じる敏感さ、胃・十二指腸と脳の情報のやり取りなどが関わる病気です。すべての患者さんで同じ異常が起きているわけではなく、一つの検査で全ての仕組みを説明できるわけでもありません。[1][4]

胃カメラは潰瘍やがんなどを探す大切な検査ですが、正常だから症状が存在しないという意味ではありません。反対に、胃もたれがあるという理由だけでFDとも断定できません。症状の経過、診察、必要な検査を合わせて判断します。[2]
消化器内科の診察では、「胃がつらい」を、食べ終えた後の重さ、食べ始めてすぐの満腹感、みぞおちの痛みに分けて確認します。検査の写真と生活の困りごとは別に整理し、「昼食を食べ切れる」「仕事中に休む回数が減る」など本人に意味のある目標を相談します。
食後の症状とみぞおちの痛みを分け、重なりも確認する
- 食後愁訴症候群(PDS)
- 食後のつらいもたれ、通常量を食べ切れないほど早く満腹になる症状が中心です。
- 心窩部痛症候群(EPS)
- みぞおちの痛みや焼ける感じが中心です。食事との関係は人によって異なります。
- 両方ある場合
- 二つの型が重なることがあります。型を決めただけで薬を自動的に選ぶものではありません。
- 別の症状が中心
- 胸やけ・酸っぱい液の逆流、下痢・便秘、強い嘔吐などは別の病気や併存症も評価します。
症状の型は相談の手がかりですが、原因を確定する検査ではありません。胸やけや呑酸が中心なら逆流性食道炎など、排便に伴う腹痛が中心なら過敏性腸症候群なども検討します。複数の病態が重なることもあります。[4][3]
FDの症状は日によって変動し、胃もたれが目立つ時期と痛みが気になる時期があるため、受診した一日の状態だけでなく、普段の経過も伝えます。「食べられた量」「食後に休む必要があったか」など、本人が比べやすい項目を一つか二つ選ぶと、治療前後を振り返りやすくなります。記録を細かく続ける負担が大きければ、診察で言葉にして伝える方法でも構いません。[2]
治療は一つに決めつけず、対象・根拠・注意点で選ぶ
酸分泌抑制薬など
- 対象
- 症状と背景に応じて検討
- 根拠
- 国内ガイドライン・PPIの系統的レビュー
- 注意点
- 効果は限定的。製剤ごとの適応と副作用を確認。
アコチアミド・六君子湯など
- 対象
- 食後のもたれ・食事量の低下など
- 根拠
- 国内ガイドライン。アコチアミドは食後症状の比較試験
- 注意点
- 薬ごとに対象が異なる。漢方も副作用と成分の重複に注意。
食べ方と栄養の調整
- 対象
- 量・速さで症状が変わる方など
- 根拠
- 一般的助言の根拠には限界。低FODMAP食に小規模試験
- 注意点
- 過剰な制限を避ける。食事量・体重減少時は栄養相談。
心理的な支援
- 対象
- 症状への不安や生活への影響が続く場合
- 根拠
- 系統的レビューは改善を示唆。研究の方法・質は不均一
- 注意点
- 気のせいという意味ではない。費用・利用できる施設も確認。
国内ガイドラインは酸分泌抑制薬、アコチアミド、六君子湯を初期治療の選択肢としています。ただし、ガイドライン上の選択肢と、その製剤の国内承認効能・保険適用は同じ意味ではありません。薬剤ごとの適応、併存症、副作用、本人の希望を確認します。[1]
PPIには系統的レビュー、アコチアミドには食後症状を対象にしたランダム化比較試験があります。一方で、全員が改善するわけではなく、効かないことだけで胃酸がさらに多いと判断することもできません。心理的な支援も胃腸症状への対処を助ける可能性がありますが、研究には方法や質のばらつきがあります。[5][6][7]
危険な症状、検査、治療目標、再評価の順に進める
- 警告症状と背景を確認
年齢、体重変化、家族歴、服用薬、症状の始まり方を確認します。
- 必要な検査を選ぶ
胃カメラ、ピロリ菌検査、血液検査などを目的に応じて選びます。全員へ同じ検査一式を行うわけではありません。
- 生活への影響と目標を決める
食べられる量、症状の頻度、欠勤・睡眠への影響を整理し、薬と続けられる生活調整を相談します。
- 効果と負担を同じ物差しで見直す
再診の目安を決め、改善した症状と残る症状、副作用を確認します。悪化や警告症状が出れば予定を待たず相談します。
検査で大きな異常がないことを確認した後も、治療の反応を見ながら診断を見直す余地を残します。繰り返す検査が役立つ場合と、同じ検査より栄養支援や治療調整が役立つ場合を分けて考えます。[1][2]
初診で全ての原因や治療が決まらないこともあります。例えば胃カメラを受ける方と、症状や背景から直ちには行わず経過をみる方では、次の受診までに確認する内容が異なります。「今回は何を根拠に判断したか」「どの変化で検査を追加するか」を共有し、不安が残る場合は説明を求めてください。検査の正常という結果と、その後の相談先・再診の計画をセットにして確認することが大切です。[1][2]
症状・検査・薬・食事の詳しい解説へ進む
まだFDと診断されていない方は、症状と受診目安から確認してください。診断済みで治療に困っている方は、薬や生活のページから必要な情報を選べます。
胃もたれ・胃痛と似た病気を整理
四つの主な症状、GERDとの違い、診察で伝えること。
詳しい解説を読む →胃カメラが正常なときの考え方
検査の目的、ピロリ菌、検査前の準備と再評価。
詳しい解説を読む →薬の選び方と効かないときの見直し
薬ごとの根拠・適応・注意点、診断に戻るタイミング。
詳しい解説を読む →栄養を守りながら食べ方を調整
一律禁止を避けた食事調整と低FODMAP食の研究。
詳しい解説を読む →食事の工夫は一律の禁止食リストではなく、症状との関係と栄養の確保を両立することが大切です。2026年の小規模試験では食後症状に低FODMAP食が有用な可能性が示されましたが、対象が限られ、全患者さんの標準食とする根拠ではありません。[8]
よくある質問
受診前に症状が何か月も続くのを待つ必要がありますか?
必要ありません。診断基準の期間は受診を待つ指示ではありません。食事や生活に支障があれば早めに相談し、警告症状があれば期間に関係なく受診します。
診察では何を持参すると役立ちますか?
お薬手帳、過去の胃カメラやピロリ菌検査の結果、症状と食事の簡単なメモが役立ちます。記録を完成させるために受診を遅らせる必要はありません。
良い日と悪い日があっても相談してよいですか?
構いません。悪い日だけでなく、食べられた日や楽だった状況も伝えると、生活への影響と変動が分かりやすくなります。
診察に家族が同席してもよいですか?
本人が希望する場合は、医療機関へ確認して同席を相談できます。食事量や体重の変化を共有する助けになりますが、本人の困りごとと希望を中心に伝えましょう。
参考文献
- Evidence-based clinical practice guidelines for functional dyspepsia 2021. Journal of gastroenterology. 2022. PMID: 35061057. 日本語版:機能性ディスペプシア診療ガイドライン2021
- British Society of Gastroenterology guidelines on the management of functional dyspepsia. Gut. 2022. PMID: 35798375.
- Second Asian Consensus Report on Functional Dyspepsia (2025): Updated Recommendations. Journal of gastroenterology and hepatology. 2026. PMID: 41656163.
- United European Gastroenterology (UEG) and European Society for Neurogastroenterology and Motility (ESNM) consensus on functional dyspepsia. United European gastroenterology journal. 2021. PMID: 33939891.
- Proton pump inhibitors for functional dyspepsia. The Cochrane database of systematic reviews. 2017. PMID: 29161458.
- A placebo-controlled trial of acotiamide for meal-related symptoms of functional dyspepsia. Gut. 2012. PMID: 22157329.
- The Effects of Psychological Interventions on Symptoms and Psychology of Functional Dyspepsia: A Systematic Review and Meta-Analysis. Frontiers in psychology. 2022. PMID: 35465581.
- Low Fermentable Oligosaccharides, Disaccharides, Monosaccharides, and Polyols Diet vs Traditional Dietary Advice in Postprandial Functional Dyspepsia: A Randomized Clinical Trial. Clinical gastroenterology and hepatology : the official clinical practice journal of the American Gastroenterological Association. 2026. PMID: 42297316.
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