肺がんの家族歴と遺伝的要因を整理する
家族歴を運命と考えず、誰が・何歳で・どのがんだったかを診療に役立てます。
親・きょうだい・子など一親等の家族に肺がんがあると、集団として肺がんリスクが高いことが報告されています。ただし、遺伝的要因だけでなく、喫煙・受動喫煙や生活環境の共有も関係し、家族歴があるから必ず発症するわけではありません。家族のがん種と発症年齢を記録し、検診・症状受診・遺伝相談の必要性を個別に確認します。[1][2]
家族歴はリスクの手掛かりで、発症の予言ではありません
家族歴と肺がんをまとめた84報のメタ解析では、家族に肺がんがある集団でリスク上昇が示され、複数の家族、若い年齢で発症した家族、地域や喫煙状況などで関連の大きさが異なりました。研究は集団の傾向を示すもので、個人が何歳で発症するか、発症しないかを決める検査ではありません。[1]
肺がんには喫煙との関連が強い種類も、非喫煙者に起こる種類もあります。家族歴がない方にも発症し、家族歴がある方の多くが必ず発症するわけではありません。家族歴を不安の材料だけにせず、環境改善、検診、症状時の受診を相談する材料として使います。[2]
呼吸器内科では「家族にがんがいますか」だけでなく、血縁関係、肺がんか別のがんか、診断された年齢、喫煙歴が分かるかを確認します。分からない項目があっても構いません。家族歴は画像や症状と合わせて考え、単独で診断や検査間隔を決めるものではありません。
血縁関係・がんの種類・発症年齢を分けて記録します
親、きょうだい、子は一親等の血縁者です。祖父母、おじ・おばなども、複数人に同じがんや関連するがんがある場合は記録します。可能なら「肺がん」「中皮腫」「転移性肺腫瘍」を混同せず、診断名を確認します。原発が別の臓器で肺に転移したがんは、肺がんの家族歴とは同じではありません。
家族が診断されたおおよその年齢、病理の種類が分かればメモします。ただし、家族に詳しい情報を無理に求めたり、本人の同意なく診療記録を取得したりする必要はありません。自分の喫煙・受動喫煙、職業曝露、居住環境、過去の肺疾患も別の欄にまとめます。
若年発症や複数の血縁者、特定のがんの組み合わせは相談の手掛かりになりますが、家族構成や共有環境も異なります。医療者が家系図と本人の病歴を合わせて評価します。
共有する喫煙環境や職業・住環境も確認します
家族は遺伝情報だけでなく、家庭内の受動喫煙、食習慣、地域の大気環境、職業・住居などを共有します。家族歴との関連を調べた研究でも、遺伝要因と環境要因の両方が関係し得るとされています。家族に肺がんがいた場合は、本人の喫煙歴だけでなく、子どもの頃を含む家庭内喫煙も振り返ります。[1]
共有環境の可能性があっても、誰かを責めるための情報ではありません。現在の家庭を屋内禁煙にする、職場の粉じん対策を確認する、検診結果を保管するなど、今後変えられる行動へつなげます。家族全員が同じ検査を受けるべきだと決める前に、年齢と個別のリスクを相談します。[3]
腫瘍の遺伝子検査と、遺伝する体質の検査は目的が違います
肺がんと診断された方の腫瘍で行う遺伝子検査は、治療薬を選ぶためにがん細胞の変化を調べることが主な目的です。EGFRなどの変化が見つかったからといって、それだけで家族全員が同じ変化を生まれつき持つという意味ではありません。腫瘍で起きた変化と、血液などで調べる生殖細胞系列の変化を区別します。
遺伝性腫瘍が疑われるかどうかは、若年発症、複数のがん、家族内の分布、腫瘍検査の結果などから専門家が判断します。市販の遺伝子検査だけで肺がんリスクや検診間隔を決めず、必要なら遺伝カウンセリングを利用します。検査には、結果が本人や血縁者へ与える意味、分からない結果が出る可能性、費用や個人情報の扱いがあります。

家族歴があっても、症状と公的検診の考え方を分けます
家族歴だけで全員が同じ年齢から毎年CTを受けるとは限りません。自治体の肺がん検診の対象を確認し、年齢、喫煙歴、家族歴、職業曝露を医師へ伝えます。検診の利益だけでなく、放射線被ばく、偶発所見、偽陽性による追加検査なども含めて考えます。[4]
血痰、続く咳、以前と違う息切れ、胸痛、理由の分からない体重減少、検診の要精密検査がある場合は、家族歴の有無にかかわらず診療を受けます。家族歴がないから様子を見る、家族歴があるからすべて肺がんと考える、のどちらも避けます。
若年発症や複数のがんがある家系は、相談の適否を確認します
家族に若い年齢で肺がんを発症した方がいる、複数の一親等血縁者に肺がんがある、本人や家族に複数種類のがんがある場合は、その情報を主治医へ伝えます。遺伝診療部門への紹介が必要か、腫瘍の検査結果を追加確認するかを相談します。紹介されないことが「遺伝要因が絶対にない」という意味でもありません。
相談前に、家族関係、がん種、診断年齢、自分の検診結果を一枚にまとめます。結果を家族へ共有する範囲は、本人の意思とプライバシーを尊重します。不安が強い場合は、検査を急ぐ前に、何が分かり、何が分からないのか、結果で医療がどう変わるのかを確認してください。
よくある質問
親が肺がんなら、自分も必ず肺がんになりますか?
必ずではありません。家族歴はリスクの手掛かりですが、喫煙・受動喫煙などの環境と複数の要因が関係します。
EGFR変異は子どもに遺伝しますか?
腫瘍で見つかるEGFR変異の多くは、がん細胞で後から生じた変化です。家族への遺伝を調べる検査とは別なので、結果の種類を主治医に確認してください。
家族歴があれば、若いうちからCTを受けるべきですか?
一律には決まりません。発症年齢、血縁者の人数、喫煙・曝露歴、症状を伝え、検査の利益と不利益を相談します。
参考文献
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