- ✓ 網膜疾患は加齢、生活習慣病、遺伝など多様な原因で発症し、早期発見・早期治療が重要です。
- ✓ 加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、網膜剥離は特に注意すべき代表的な網膜疾患です。
- ✓ 治療法は疾患の種類や進行度によって異なり、定期的な眼科検診が予防と早期介入に繋がります。
網膜疾患は、眼の奥にある光を感じる組織「網膜」に異常が生じる病気の総称です。視力低下や視野異常など、さまざまな視覚障害を引き起こす可能性があり、放置すると失明に至るケースも少なくありません。
加齢黄斑変性とは?

加齢黄斑変性(Age-related Macular Degeneration: AMD)は、加齢に伴い網膜の中心部である黄斑に障害が生じ、視力低下を引き起こす疾患です。特に欧米では失明原因の第1位であり、日本でも患者数が増加傾向にあります[1]。
加齢黄斑変性の主な症状とは?
加齢黄斑変性の初期症状としては、ものが歪んで見える「変視症」や、視野の中心が暗く見えたり欠けたりする「中心暗点」が挙げられます。また、視力低下や色の識別能力の低下を感じることもあります。これらの症状は片方の眼から始まることが多く、もう片方の眼が補ってしまうため、自覚しにくい場合も少なくありません。実臨床では、初診時に「読書中に文字が歪んで見える」「まっすぐな線が波打って見える」と相談される患者さんも少なくありません。
加齢黄斑変性の原因と種類
加齢黄斑変性の主な原因は加齢ですが、喫煙、高血圧、高コレステロール、遺伝的要因などもリスク因子として知られています[2]。加齢黄斑変性には大きく分けて2つのタイプがあります。
- 滲出型(しんしゅつがた)
- 網膜の下に新生血管と呼ばれる異常な血管が発生し、そこから血液成分や水分が漏れ出すことで黄斑が障害されるタイプです。進行が早く、急激な視力低下を招くことが多いです。日本人の加齢黄斑変性の約9割がこのタイプと言われています[3]。
- 萎縮型(いしゅくがた)
- 網膜の細胞が徐々に萎縮していくタイプです。進行は比較的緩やかで、急激な視力低下は少ないですが、徐々に視機能が低下していきます。
加齢黄斑変性の診断と治療法
診断には、視力検査、眼底検査、光干渉断層計(OCT)による網膜断面の精密検査、蛍光眼底造影検査などが用いられます。特にOCTは、網膜の浮腫や新生血管の活動性を評価する上で非常に有用です。
治療法はタイプによって異なります。
- 滲出型加齢黄斑変性:主に抗VEGF薬の硝子体注射が中心となります。VEGF(血管内皮増殖因子)は新生血管の成長を促進する物質であり、この働きを阻害することで新生血管の活動を抑え、網膜の浮腫を軽減します。定期的な注射が必要となることが多いですが、視力維持や改善に高い効果が期待できます[4]。その他、光線力学療法(PDT)やレーザー光凝固術が選択されることもあります。
- 萎縮型加齢黄斑変性:現在のところ確立された治療法はありませんが、ルテインやゼアキサンチンなどの抗酸化作用を持つ栄養補助食品の摂取が、進行を遅らせる可能性が示唆されています[5]。
臨床の現場では、抗VEGF薬注射によって多くの患者さんの視力が改善し、日常生活の質が向上するケースをよく経験します。しかし、治療を中断すると再発するリスクがあるため、根気強く治療を続けることが重要です。
糖尿病網膜症とは?
糖尿病網膜症は、糖尿病の三大合併症の一つであり、高血糖状態が続くことで網膜の血管が障害され、視力低下や失明に至る可能性のある疾患です。日本における失明原因の上位を占めており、糖尿病患者さんにとって最も注意すべき合併症の一つです[6]。
糖尿病網膜症はなぜ起こる?
糖尿病網膜症は、高血糖によって網膜の細い血管が傷つき、詰まったり、もろくなったりすることが原因で発症します。血管が詰まると網膜への酸素供給が不足し、これを補うために新生血管という異常な血管が生じます。この新生血管は非常にもろく、破れて出血したり、網膜剥離を引き起こしたりするリスクがあります。
糖尿病網膜症は初期段階では自覚症状がほとんどないため、糖尿病と診断されたら症状がなくても定期的な眼科検診が不可欠です。早期発見が治療の成功に大きく影響します。
糖尿病網膜症の進行段階と症状
糖尿病網膜症は、その進行度合いによって大きく3つの段階に分けられます。
- 単純糖尿病網膜症:初期段階で、網膜の細い血管に小さな瘤(毛細血管瘤)ができたり、点状の出血が見られたりします。自覚症状はほとんどありません。
- 増殖前糖尿病網膜症:血管の閉塞が進み、網膜への酸素供給がさらに不足します。網膜の広範囲にわたって虚血状態が広がり、新生血管が発生する準備段階に入ります。視力低下を自覚することもあります。
- 増殖糖尿病網膜症:新生血管が網膜や硝子体(眼の内部を満たすゼリー状の物質)に発生し、破れて硝子体出血や牽引性網膜剥離を引き起こす危険性が高まります。この段階になると、急激な視力低下や失明のリスクが非常に高くなります。
また、どの段階でも黄斑部に浮腫が生じる「糖尿病黄斑浮腫」を合併することがあり、これが視力低下の主な原因となることもあります。
糖尿病網膜症の治療法
治療の基本は、血糖コントロールの徹底です。糖尿病網膜症の進行を抑えるためには、HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)の目標値を達成し、血圧や脂質異常症も管理することが重要です。実際の診療では、内科の主治医と連携し、全身状態を総合的に管理することが重要なポイントになります。
眼科的な治療としては、進行度合いに応じて以下の方法が選択されます。
- レーザー光凝固術:酸素不足に陥った網膜にレーザーを照射し、新生血管の発生を抑制したり、既に生じた新生血管を退縮させたりします。特に増殖糖尿病網膜症の進行予防に有効です。
- 抗VEGF薬硝子体注射:糖尿病黄斑浮腫や新生血管の活動性が高い場合に、眼内に抗VEGF薬を注射し、浮腫の軽減や新生血管の退縮を促します。加齢黄斑変性と同様に、定期的な注射が必要となることがあります。
- 硝子体手術:硝子体出血が吸収されない場合や、牽引性網膜剥離が生じた場合に、眼内の出血や増殖膜を除去し、網膜を元の位置に戻す手術です。
| 治療法 | 主な対象 | 期待される効果 |
|---|---|---|
| レーザー光凝固術 | 増殖糖尿病網膜症 | 新生血管の退縮、進行予防 |
| 抗VEGF薬硝子体注射 | 糖尿病黄斑浮腫、新生血管 | 黄斑浮腫の軽減、視力改善 |
| 硝子体手術 | 硝子体出血、牽引性網膜剥離 | 出血除去、網膜復位、視力改善 |
網膜剥離とは?

網膜剥離は、眼の奥にある網膜が眼球の壁から剥がれてしまう重篤な疾患です。放置すると網膜の機能が失われ、永続的な視力障害や失明に至る可能性があります。緊急性の高い眼科疾患の一つです。
網膜剥離はなぜ起こる?
網膜剥離にはいくつかの種類がありますが、最も一般的なのは「裂孔原性網膜剥離」です。これは、網膜に穴(裂孔)や亀裂が生じ、そこから液化した硝子体(眼球内部を満たすゼリー状の物質)が網膜の裏側に入り込むことで、網膜が剥がれてしまう状態を指します。
裂孔が生じる原因としては、加齢による硝子体の液化・収縮、強度近視、眼の外傷、アトピー性皮膚炎などが挙げられます。特に、加齢に伴い硝子体が網膜から剥がれる「後部硝子体剥離」の際に、網膜との癒着が強い部分で網膜が引っ張られ、裂孔が生じることがよくあります。
網膜剥離の主な症状とは?
網膜剥離の主な症状は以下の通りです。
- 飛蚊症(ひぶんしょう):眼の前に虫や糸くずのようなものが飛んで見える症状です。網膜の裂孔形成や硝子体出血によって生じることがあります。
- 光視症(こうししょう):眼を閉じた時や暗い場所で、光が走るように見える症状です。網膜が硝子体に引っ張られることで刺激され、光として感じられます。
- 視野欠損:網膜が剥がれた部分に対応する視野が欠けて見えます。カーテンがかかったように感じることもあります。網膜剥離が黄斑部に及ぶと、急激な視力低下を招きます。
これらの症状は、網膜剥離の進行を示唆するサインであるため、飛蚊症や光視症が急に増えたり、視野に異常を感じたりした場合は、速やかに眼科を受診することが重要です。臨床の現場では、飛蚊症や光視症を訴えて来院された患者さんが、詳細な検査の結果、網膜裂孔や網膜剥離の初期段階で見つかるケースをよく経験します。早期発見が視機能温存の鍵となります。
網膜剥離の診断と治療法
診断には、散瞳(瞳孔を広げる)して行う眼底検査が不可欠です。網膜の隅々まで詳細に観察し、裂孔や剥離の範囲を確認します。必要に応じて、OCTや超音波検査も行われます。
治療は、網膜剥離の種類や進行度によって異なります。
- 網膜光凝固術(レーザー治療):網膜に裂孔が生じているものの、まだ網膜剥離に至っていない段階(網膜裂孔や網膜円孔)であれば、レーザーで裂孔の周囲を焼き固めることで、剥離への進行を予防できます。外来で比較的短時間で行える治療です。
- 網膜復位術(手術):既に網膜剥離が進行している場合は、手術が必要です。主な手術方法には以下の2つがあります。
- 強膜バックリング術:眼球の外側にシリコン製のバンドを縫い付け、眼球を内側にへこませることで、剥がれた網膜を眼球壁に押し戻す手術です。
- 硝子体手術:眼内に細い器具を挿入し、硝子体を除去したり、増殖膜を剥がしたりして、網膜を元の位置に戻します。剥がれた網膜の下に溜まった水を吸引し、眼内にガスやシリコンオイルを注入して網膜を固定することもあります。
網膜剥離の手術は成功率が高いですが、術後の視力回復は剥離の範囲や期間、黄斑部の障害の有無によって異なります。特に黄斑部まで剥離が及んでいた場合、視力回復には限界があることもあります[7]。
その他の網膜疾患
網膜には、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、網膜剥離以外にも様々な疾患が発生する可能性があります。ここでは、代表的なものをいくつかご紹介します。
網膜静脈閉塞症とは?
網膜静脈閉塞症は、網膜の静脈が詰まることで、網膜からの血液の排出が滞り、網膜出血や浮腫を引き起こす疾患です。高血圧、高脂血症、糖尿病などの生活習慣病がリスク因子とされています[8]。閉塞した血管の場所によって、網膜中心静脈閉塞症と網膜静脈分枝閉塞症に分けられます。
- 症状:突然の視力低下、視野の欠損、ものが歪んで見える(変視症)など。
- 治療:網膜浮腫に対しては抗VEGF薬硝子体注射やステロイド薬硝子体注射、レーザー光凝固術などが選択されます。基礎疾患の管理も重要です。
網膜色素変性症とは?
網膜色素変性症は、網膜の視細胞(光を感じる細胞)が徐々に変性・脱落していく進行性の遺伝性疾患です。若年期から発症し、ゆっくりと進行します。
- 症状:初期には夜盲(暗い場所で見えにくい)が特徴的で、進行すると視野が狭くなる(求心性視野狭窄)や視力低下が生じます。最終的には中心視力も失われることがあります。
- 治療:現在のところ根本的な治療法は確立されていませんが、進行を遅らせるための対症療法や、低視力者向けの補助具の活用、遺伝子治療や再生医療の研究が進められています。
黄斑円孔とは?
黄斑円孔は、網膜の中心部である黄斑に穴が開く疾患です。加齢による硝子体の変化が主な原因とされ、硝子体が黄斑を引っ張ることで穴が開くと考えられています。
- 症状:ものが歪んで見える(変視症)、中心部の視力低下、中心暗点など。
- 治療:硝子体手術が主な治療法です。手術によって黄斑の牽引を解除し、円孔を閉鎖することで、視力の改善が期待できます。治療を始めて数ヶ月ほどで「以前よりも文字が読みやすくなった」とおっしゃる方が多いです。
黄斑上膜とは?
黄斑上膜は、黄斑の表面に薄い膜(線維組織)が形成される疾患です。この膜が収縮することで網膜を引っ張り、しわや浮腫を引き起こします。加齢に伴って発生することが多いです。
- 症状:ものが歪んで見える(変視症)、視力低下、二重に見える(複視)など。初期には自覚症状がないこともあります。
- 治療:自覚症状が軽度で視力低下が少ない場合は経過観察となりますが、視力低下や変視症が進行する場合は、硝子体手術で膜を除去することで症状の改善が期待できます。
まとめ

網膜疾患は多岐にわたり、それぞれ異なる原因、症状、治療法を持ちます。加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、網膜剥離は特に注意すべき代表的な疾患であり、早期発見と適切な治療が視力を守る上で極めて重要です。糖尿病網膜症のように初期には自覚症状が少ない疾患も多いため、定期的な眼科検診が予防と早期介入に繋がります。視力低下や視野の異常、飛蚊症や光視症などの症状に気づいた場合は、速やかに眼科を受診し、専門医の診断を受けるようにしましょう。
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オンライン診療を予約する(初診料無料)よくある質問(FAQ)
- 日本眼科学会:加齢黄斑変性
- Age-Related Macular Degeneration: An Overview. J Clin Exp Ophthalmol. 2011; 2(4): 1000185.
- 日本眼科医会:網膜の病気
- Anti-VEGF therapy for neovascular age-related macular degeneration: an update. Eye (Lond). 2022 Mar; 36(3): 467–477.
- Lutein, Zeaxanthin, and Meso-Zeaxanthin for Age-Related Macular Degeneration. Nutrients. 2021 Mar; 13(3): 833.
- 日本眼科学会:糖尿病網膜症
- Retinal detachment: a review of the current literature. J Ophthalmic Vis Res. 2014 Apr-Jun; 9(2): 200–209.
- 日本眼科学会:網膜静脈閉塞症

