- ✓ 腰痛の多くは原因が特定できない非特異的腰痛であり、安静にしすぎないことが重要です。
- ✓ 赤信号兆候(レッドフラッグス)がある場合は、内臓疾患など重篤な病気が隠れている可能性があるため、速やかな医療機関受診が必要です。
- ✓ 市販薬は一時的な痛みの緩和に有効ですが、根本的な解決には生活習慣の改善や専門医の診断が不可欠です。
腰痛は、多くの人々が経験する一般的な症状であり、その原因は多岐にわたります。世界中で障害の原因として最も多く報告されているのが腰痛であり、その生涯有病率は60〜70%に達するとされています[1]。この記事では、腰痛の主な原因から、適切な対処法、市販薬の選び方、そして医療機関を受診すべき症状について、薬剤師の視点から詳しく解説します。
骨・筋肉・神経が原因の腰痛(整形外科系)とは?

骨・筋肉・神経が原因の腰痛とは、脊椎、椎間板、筋肉、靭帯、神経といった身体の構造的な問題に起因する腰の痛みを指します。これらは一般的に「整形外科系の腰痛」として分類され、腰痛全体の約85%は原因が特定できない非特異的腰痛であるとされています[2]。
非特異的腰痛とは?
非特異的腰痛は、特定の病態や損傷が画像診断などで確認できない腰痛のことで、腰痛の大部分を占めます。多くの場合、姿勢の悪さ、長時間の同一体勢、運動不足、ストレスなどが複合的に関与していると考えられています。調剤の現場では、「レントゲンを撮っても異常がないと言われたのに痛みが続く」という相談を受けることが多いです。このような場合、筋肉の緊張や関節の機能不全が原因である可能性が高く、適切な運動やストレッチ、姿勢の改善が推奨されます。
特異的腰痛の主な原因と症状
特異的腰痛は、特定の診断名がつく腰痛です。代表的なものには以下のような疾患があります。
- 腰椎椎間板ヘルニア: 椎間板の一部が飛び出し、神経を圧迫することで、腰の痛みだけでなく、お尻や足への放散痛、しびれ、筋力低下などを引き起こします。特に前かがみになったり、座ったりすることで症状が悪化することがあります。
- 腰部脊柱管狭窄症: 加齢などにより、脊柱管(神経が通るトンネル)が狭くなり、神経が圧迫されることで起こります。特徴的な症状は、歩行中に足の痛みやしびれが生じ、少し休むと改善する「間欠性跛行」です。
- 脊椎分離症・すべり症: 脊椎の一部が分離したり、ずれたりすることで、腰の不安定性や神経症状を引き起こします。スポーツ選手や成長期の子どもにも見られることがあります。
- 変形性脊椎症: 加齢に伴う脊椎の変形により、骨棘(こつきょく)が形成され、神経を刺激したり、関節に炎症を起こしたりして痛みを引き起こします。
- 筋・筋膜性腰痛: 長時間の不良姿勢や過度な運動などにより、腰部の筋肉や筋膜に炎症や硬直が生じることで起こる痛みです。特定の動作で痛みが増強することが多いです。
これらの整形外科系の腰痛は、レントゲンやMRIなどの画像診断、神経学的検査によって診断されます。適切な診断に基づいて、薬物療法、理学療法、神経ブロック注射、場合によっては手術などの治療が検討されます。
内臓の病気・その他の原因による危険な腰痛とは?
内臓の病気・その他の原因による危険な腰痛とは、腰部に痛みを引き起こすものの、その根本的な原因が脊椎や筋肉などの整形外科的な問題ではなく、内臓疾患や全身性の疾患、精神的な要因などにある腰痛を指します。これらの腰痛は、放置すると重篤な結果を招く可能性があるため、「レッドフラッグス(赤信号兆候)」として特に注意が必要です[3]。
レッドフラッグス(赤信号兆候)に注意
服薬指導の際に「腰痛がなかなか治らない」と質問される患者さんが多くいらっしゃいますが、その際には必ずレッドフラッグスの有無を確認しています。以下の症状が一つでも当てはまる場合は、速やかに医療機関を受診し、専門医の診察を受けることが重要です。
- 発症年齢が20歳未満または55歳以上
- 安静時にも痛みが続く、夜間痛が強い
- 原因不明の体重減少
- 発熱、悪寒、倦怠感などの全身症状
- がんの既往歴がある
- ステロイド使用歴がある
- 麻痺、筋力低下、感覚障害などの神経症状(特に両足にわたる場合)
- 排尿・排便障害(失禁や尿閉など)
- 外傷後の腰痛
内臓疾患が原因の腰痛
内臓疾患が原因で腰痛として感じられることがあります。痛みの特徴としては、体勢を変えても痛みが軽減しない、発熱や吐き気などの他の症状を伴うことが多い点が挙げられます。実際の処方パターンとして、腎臓結石や尿路結石による腰痛で、強い痛みを訴える患者さんには鎮痛剤が処方されることが多いです。
- 内臓体性反射
- 内臓の異常が、脊髄を介して体性神経に影響を及ぼし、体表の特定の部位に痛みや不快感として現れる現象です。腰痛の場合、腎臓や膵臓などの内臓疾患が原因で腰に痛みを感じることがあります。
具体的な内臓疾患としては、以下のようなものが挙げられます。
- 腎臓・尿路系の疾患: 腎盂腎炎、尿路結石、腎臓がんなど。背中から腰にかけての痛み、血尿、発熱などを伴うことがあります。
- 消化器系の疾患: 膵炎、胆石症、胃潰瘍など。特に膵炎は、背中から腰にかけての強い痛みを引き起こすことがあります。
- 婦人科系の疾患: 子宮内膜症、子宮筋腫、卵巣嚢腫など。月経周期に関連して腰痛が悪化することがあります。
- 血管系の疾患: 腹部大動脈瘤、解離性大動脈瘤など。突然の激しい腰痛や腹痛を伴う場合があり、緊急性が高いです。
その他の原因による腰痛
内臓疾患以外にも、以下のような原因で腰痛が生じることがあります。
- 心因性腰痛: ストレス、うつ病、不安障害などが原因で腰痛が慢性化することがあります。痛みの感じ方が過敏になったり、痛みが長引いたりする特徴があります。
- 感染症: 脊椎炎、化膿性脊椎炎など。発熱や全身倦怠感を伴うことが多く、抗菌薬による治療が必要です。
- 腫瘍: 脊椎腫瘍、転移性脊椎腫瘍など。安静時にも痛みが続く、夜間痛が強いといった特徴があります。
これらの腰痛は、専門医による詳細な検査と診断が必要です。自己判断せず、疑わしい症状がある場合は速やかに医療機関を受診しましょう。
腰痛の応急処置・市販薬・受診先とは?

腰痛が発生した際の応急処置、市販薬の選び方、そして適切な医療機関の受診先を知ることは、痛みの軽減と早期回復のために非常に重要です。特に急性腰痛の場合、適切な初期対応がその後の経過に大きく影響することがあります[4]。
腰痛の応急処置とセルフケア
急な腰痛に見舞われた際、まずは以下の応急処置を試みてください。
- 安静にしすぎない: 以前は安静が推奨されていましたが、最近の研究では、可能な範囲で日常生活を続ける方が回復が早いとされています[2]。ただし、激しい痛みがある場合は無理をせず、一時的に楽な姿勢で過ごしましょう。
- 温めるか冷やすか: 急性期の炎症が強い場合は冷却が有効なこともありますが、慢性的な腰痛や筋肉の緊張による痛みには温める方が効果的なことが多いです。温湿布やカイロ、入浴などで腰部を温めると血行が促進され、筋肉がほぐれやすくなります。
- ストレッチ・軽い運動: 痛みが落ち着いてきたら、無理のない範囲で軽いストレッチやウォーキングを始めましょう。特に体幹を支える筋肉を強化する運動は、腰痛の予防にもつながります。
激しい痛みやしびれ、麻痺などの神経症状がある場合は、自己判断で無理な運動をせず、速やかに医療機関を受診してください。
市販薬の選び方と注意点
薬局での経験上、市販の腰痛薬は様々な種類があり、患者さんがどれを選べば良いか迷われることが多いです。主な市販薬には、内服薬と外用薬があります。
内服薬
- 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs): イブプロフェン、ロキソプロフェンなどが代表的です。炎症を抑え、痛みを和らげる効果があります。胃腸障害の副作用に注意が必要です。
- アセトアミノフェン: 比較的副作用が少なく、胃への負担が少ないとされています。NSAIDsが使えない方や、軽度から中程度の痛みに適しています。
- 漢方薬: 芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)など、筋肉のけいれんを和らげる効果が期待できるものもあります。体質に合わせた選択が重要です。
外用薬
- 湿布薬(貼付剤): 痛みのある部位に直接貼ることで、有効成分が皮膚から吸収され、炎症や痛みを抑えます。温感タイプと冷感タイプがあります。
- 塗り薬(ゲル、クリーム、スプレー): 湿布薬と同様に、局所の炎症や痛みを和らげます。広範囲に塗布しやすいのが特徴です。
市販薬を使用する際は、必ず添付文書をよく読み、用法・用量を守ってください。また、他の薬との飲み合わせや持病がある場合は、薬剤師や医師に相談しましょう。
腰痛の受診先は?
腰痛で医療機関を受診する場合、まずは整形外科が一般的です。しかし、レッドフラッグスに該当する症状がある場合や、内臓疾患が疑われる場合は、内科や消化器内科、婦人科など、適切な専門科を受診する必要があります。どの科を受診すべきか迷う場合は、かかりつけ医や総合病院の総合診療科に相談するのも良いでしょう。早期の診断と治療が、腰痛の慢性化を防ぎ、生活の質を向上させる鍵となります。
症状の掛け合わせ(腰痛+〇〇)とは?
腰痛は単独で現れるだけでなく、他の症状と組み合わさることで、その原因や重症度が大きく異なることがあります。症状の掛け合わせを理解することは、適切な診断と治療に繋がる重要な手がかりとなります。薬剤師として患者さんから症状を伺う際、腰痛に加えてどのような症状があるかを確認し、緊急性の判断に役立てています。
腰痛+足のしびれ・痛み
腰痛に加えて、お尻から足にかけてのしびれや痛みが現れる場合、神経の圧迫が強く疑われます。これは坐骨神経痛とも呼ばれ、以下のような疾患が考えられます。
- 腰椎椎間板ヘルニア: 椎間板が神経を圧迫することで、片側のお尻から足にかけての痛みやしびれが生じます。咳やくしゃみで症状が悪化することもあります。
- 腰部脊柱管狭窄症: 歩行時に足のしびれや痛みが生じ、前かがみになったり座ったりすると症状が和らぐ「間欠性跛行」が特徴的です。
- 梨状筋症候群: お尻の深部にある梨状筋が坐骨神経を圧迫することで、お尻や太ももの裏側に痛みやしびれが生じます。
これらの症状がある場合、神経学的検査や画像診断(MRIなど)が必要となります。神経の圧迫が強い場合は、筋力低下や排尿・排便障害を伴うこともあり、早期の専門医受診が推奨されます。
腰痛+発熱・倦怠感
腰痛に加えて発熱や全身倦怠感がある場合、感染症や炎症性疾患、あるいは悪性腫瘍の可能性も考慮する必要があります。薬局での経験上、このような症状で来局された患者さんには、市販薬で様子を見るのではなく、すぐに医療機関を受診するよう強く勧めています。
- 腎盂腎炎: 腎臓の感染症で、高熱、悪寒、腰や背中の痛み、排尿時の痛みなどを伴います。
- 化膿性脊椎炎: 脊椎に細菌が感染して炎症を起こす病気で、発熱と強い腰痛が特徴です。
- 悪性腫瘍(がんの転移など): がんが骨に転移した場合、腰痛とともに発熱や体重減少、全身倦怠感が見られることがあります。
腰痛+腹痛・吐き気
腰痛と同時に腹痛や吐き気が現れる場合、内臓疾患が原因である可能性が高いです。特に、痛みの場所や性質によって疑われる疾患が異なります。
- 尿路結石・腎結石: 突然の激しい腰痛(疝痛)とともに、脇腹から下腹部にかけての痛み、吐き気、血尿などを伴うことがあります。
- 膵炎: 上腹部の激しい痛みから背中や腰に放散する痛み、吐き気、嘔吐などが特徴です。
- 婦人科系疾患: 子宮内膜症や卵巣嚢腫などが原因で、下腹部痛と腰痛が同時に現れることがあります。月経周期と関連がある場合が多いです。
これらの症状の組み合わせは、緊急性の高い疾患を示唆している場合があるため、速やかに医療機関を受診し、適切な診断を受けることが重要です。
まとめ

腰痛は非常に一般的な症状であり、その原因は多岐にわたります。多くは原因が特定できない非特異的腰痛ですが、中には内臓疾患や神経の重篤な圧迫など、速やかな医療介入が必要な「レッドフラッグス」を伴う場合もあります。急な腰痛に見舞われた際は、無理な安静を避け、市販薬で一時的に痛みを和らげることも可能ですが、症状が改善しない場合や、しびれ、麻痺、発熱、体重減少などの異常を伴う場合は、自己判断せずに速やかに医療機関を受診することが大切です。適切な診断と治療、そして日頃からの姿勢や生活習慣の改善が、腰痛の予防と早期回復に繋がります。
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- Nebojsa Nick Knezevic, Kenneth D Candido, Johan W S Vlaeyen et al.. Low back pain.. Lancet (London, England). 2021. PMID: 34115979. DOI: 10.1016/S0140-6736(21)00733-9
- Chris Maher, Martin Underwood, Rachelle Buchbinder. Non-specific low back pain.. Lancet (London, England). 2018. PMID: 27745712. DOI: 10.1016/S0140-6736(16)30970-9
- Adnan S Kabeer, Humza T Osmani, Jugal Patel et al.. The adult with low back pain: causes, diagnosis, imaging features and management.. British journal of hospital medicine (London, England : 2005). 2023. PMID: 37906065. DOI: 10.12968/hmed.2023.0063
- Nathan Patrick, Eric Emanski, Mark A Knaub. Acute and chronic low back pain.. The Medical clinics of North America. 2014. PMID: 24994051. DOI: 10.1016/j.mcna.2014.03.005
- イブプロフェン(イブプロフェン)添付文書(JAPIC)
- ロキソニン(ロキソプロフェン)添付文書(JAPIC)
- アセトアミノフェン(アセトアミノフェン)添付文書(JAPIC)

