胆道と膵臓は、消化器系において重要な役割を担う臓器であり、これらの臓器に異常が生じると、消化吸収機能の低下だけでなく、重篤な全身症状を引き起こすことがあります。胆道は肝臓で生成された胆汁を十二指腸へ運ぶ経路であり、膵臓は消化酵素や血糖値を調節するホルモンを分泌する臓器です。
胆道・膵臓の疾患は、良性疾患から悪性腫瘍まで多岐にわたり、その症状も腹痛、黄疸、発熱など様々です。早期発見と適切な治療が、患者さんの予後を大きく左右するため、これらの疾患に関する正確な知識を持つことが非常に重要となります。
胆石症・胆嚢炎とは?その症状と治療法

胆石症は胆道内に石(胆石)ができる病気であり、胆嚢炎は胆嚢に炎症が起こる病気です。これらはしばしば関連して発生します。
胆石は、胆汁の成分が固まってできる結石で、コレステロール結石と色素結石に大別されます。胆石が存在しても無症状のことも多いですが、胆石が胆管に詰まると激しい腹痛(胆石疝痛)、発熱、黄疸などを引き起こすことがあります。特に、胆石が胆嚢の出口に詰まることで胆汁の流れが滞り、細菌感染を合併すると急性胆嚢炎を発症し、右季肋部痛や発熱、吐き気などの症状が現れます。
診断には、腹部超音波検査が最も簡便で有用であり、CT検査やMRI検査(MRCP)も用いられます。治療は、症状の有無や重症度によって異なります。無症状の胆石であれば経過観察が選択されることもありますが、症状がある場合や急性胆嚢炎を発症した場合は、手術による胆嚢摘出術が標準的な治療法となります。内視鏡的治療(ERCP)は、胆管に詰まった胆石を除去する際に用いられ、特に急性胆管炎を合併している場合には緊急で実施されることもあります[2]。実臨床では、胆石疝痛で夜間に救急搬送される患者さんが多く見られます。特に食後に症状が悪化するケースが頻繁にあり、脂肪分の多い食事を摂った後に症状が出やすいという患者さんの声もよく聞かれます。
膵がんとは?早期発見の難しさと最新治療
膵がんは、膵臓に発生する悪性腫瘍であり、早期発見が非常に難しいがんとされています。
膵がんの初期症状は非常に非特異的で、腹痛、背部痛、食欲不振、体重減少、黄疸などが挙げられますが、これらの症状が現れた時には病状が進行していることが多いです。膵臓は体の深部に位置しているため、早期の段階で画像診断で見つけることが困難であることも、早期発見を難しくしている要因の一つです。また、がんの進行が速く、転移しやすい性質を持つことも、膵がんの予後を厳しくしています。
診断には、CT、MRI、超音波内視鏡(EUS)などの画像検査が重要です。特にEUSは、膵臓の病変を詳細に評価し、組織を採取するのに非常に有用です。近年では、人工知能(AI)を用いた画像診断の補助も研究されており、診断精度の向上が期待されています[4]。治療の基本は外科手術ですが、発見時に手術が可能なケースは限られています。手術が難しい場合には、化学療法や放射線療法が行われます。近年では、免疫チェックポイント阻害剤などの新しい治療薬の開発も進められていますが、依然として治療成績の向上が課題とされています。日常診療では、「なんとなく胃の調子が悪い」と相談される方が、精密検査の結果、膵がんが見つかるケースをよく経験します。特に糖尿病の急な悪化や新規発症は、膵がんのサインである可能性があり、注意が必要です。
膵炎とは?急性膵炎と慢性膵炎の違い

膵炎は、膵臓に炎症が起こる病態であり、急性膵炎と慢性膵炎の二つに大きく分けられます。
急性膵炎は、膵臓が自己消化酵素によって急激に炎症を起こす病気で、主な原因は胆石とアルコールの過剰摂取です。突然の激しい上腹部痛、背部への放散痛、吐き気、嘔吐、発熱などが典型的な症状です。重症化すると、多臓器不全を引き起こし、命に関わることもあります。診断は、血液検査での膵酵素(アミラーゼ、リパーゼ)の上昇と、CTなどの画像検査で炎症を確認することで行われます。治療は、絶食、輸液、鎮痛剤の投与が基本で、重症例では集中治療が必要となります。内視鏡的膵管ドレナージ術が有効な場合もあります[1]。
一方、慢性膵炎は、膵臓の炎症が長期間にわたって続き、膵臓の組織が線維化し、機能が徐々に失われていく病気です。主な原因は急性膵炎と同様にアルコールの過剰摂取ですが、自己免疫性膵炎など他の原因もあります。症状は、持続的な腹痛や背部痛、消化不良による下痢、体重減少、糖尿病の発症などです。診断には、画像検査に加え、膵機能検査が行われます。治療は、禁酒、食事療法、膵酵素補充療法、鎮痛剤の投与が中心となります。痛みが強い場合には、神経ブロックや内視鏡的治療が検討されることもあります[3]。臨床経験上、急性膵炎を繰り返す患者さんの中には、慢性膵炎へと移行するケースが少なくありません。特に、飲酒習慣のある患者さんには、症状が落ち着いても禁酒の重要性を繰り返し説明しています。
膵嚢胞性疾患(IPMN等)とは?その種類と経過観察の重要性
膵嚢胞性疾患は、膵臓に液体が貯留した袋状の病変(嚢胞)ができる疾患の総称であり、その中でもIPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)は特に重要な疾患です。
膵嚢胞性疾患には、偽嚢胞、漿液性嚢胞性腫瘍、粘液性嚢胞性腫瘍、IPMNなど様々な種類があります。これらの嚢胞の多くは良性ですが、一部の嚢胞、特にIPMNや粘液性嚢胞性腫瘍は将来的に悪性化する可能性があるため、注意が必要です。IPMNは膵管の細胞から発生し、粘液を産生する腫瘍で、主膵管型、分枝膵管型、混合型に分類されます。主膵管型や分枝膵管型でも嚢胞が一定の大きさ以上の場合、悪性化のリスクが高いとされています。
多くの場合、膵嚢胞は無症状で、他の疾患の検査中に偶然発見されることがほとんどです。診断には、CT、MRI(MRCP)、超音波内視鏡(EUS)が用いられ、嚢胞の大きさ、形状、内部構造、膵管との交通などを詳細に評価します。悪性化のリスクが高いと判断された場合は、外科的切除が検討されますが、リスクが低い場合は定期的な画像検査による厳重な経過観察が重要となります。外来診療では、「健康診断で膵臓に影があると言われた」と訴えて受診される患者さんが増えています。これらの嚢胞の多くは良性ですが、悪性化の可能性を考慮し、個々の患者さんのリスク因子を評価した上で、適切なフォローアップ計画を立てることが臨床現場では重要なポイントになります。
その他の胆道・膵臓疾患にはどのようなものがある?
胆道・膵臓には、胆石症、膵がん、膵炎以外にも多種多様な疾患が存在し、それぞれに特徴的な症状と治療法があります。
胆道系の疾患としては、胆管がん、総胆管結石症、原発性硬化性胆管炎、IgG4関連硬化性胆管炎、胆道ジスキネジーなどがあります。胆管がんは膵がんと同様に予後が厳しい悪性腫瘍であり、総胆管結石症は胆石が胆管に詰まり、黄疸や胆管炎を引き起こします。原発性硬化性胆管炎は、胆管の炎症と線維化が進行する慢性疾患で、肝硬変へと移行するリスクがあります。IgG4関連硬化性胆管炎は、自己免疫疾患の一つで、ステロイド治療が有効な場合があります。
膵臓系の疾患としては、自己免疫性膵炎、膵管狭窄、膵仮性嚢胞、膵内分泌腫瘍などがあります。自己免疫性膵炎は、自己免疫反応によって膵臓に炎症が起こる疾患で、ステロイド治療によく反応します。膵仮性嚢胞は、急性膵炎の合併症として生じることが多く、感染や破裂のリスクがある場合はドレナージが必要です。膵内分泌腫瘍は、インスリノーマやガストリノーマなど、ホルモンを過剰に分泌する腫瘍で、症状は分泌されるホルモンによって異なります。実際の診療では、これらの稀な疾患が診断に至るまでに時間を要することも少なくありません。特に、原因不明の腹痛や黄疸が続く場合には、詳細な検査と専門医による鑑別診断が不可欠です。
最新コラム(胆道・膵臓): AIと内視鏡治療の進展

胆道・膵臓疾患の診断と治療において、近年、人工知能(AI)の活用と内視鏡治療の技術革新が注目されています。
AIは、画像診断の分野でその威力を発揮し始めています。CTやMRI、超音波内視鏡(EUS)の画像解析にAIを導入することで、微細な病変の検出精度が向上し、診断の見落としを減らすことが期待されています[4]。特に膵がんのような早期発見が難しい疾患において、AIが医師の診断を補助するツールとして、その役割はますます重要になるでしょう。また、内視鏡治療の分野では、ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)やEUS-FNA(EUSガイド下穿刺吸引術)といった手技が、診断だけでなく治療においても不可欠なものとなっています。近年では、これらの手技の安全性と成功率を高めるためのデバイス開発や、より低侵襲な治療法の研究が進められています[1]。例えば、胆管狭窄に対するステント留置術や、膵仮性嚢胞に対する内視鏡的ドレナージ術など、開腹手術を回避できる内視鏡治療の選択肢が増えています。筆者の臨床経験では、内視鏡治療の進歩により、患者さんの身体的負担が大幅に軽減され、早期の社会復帰が可能になったケースを数多く経験しています。特に高齢の患者さんや合併症を持つ患者さんにとって、低侵襲な内視鏡治療は大きな福音となっています。
まとめ
胆道・膵臓の疾患は、その種類が多岐にわたり、症状も非特異的なものが多いため、早期発見が難しい場合があります。しかし、早期に適切な診断と治療を行うことで、予後が大きく改善される可能性があります。胆石症や膵炎などの良性疾患から、膵がんや胆管がんといった悪性疾患まで、それぞれの病態に応じた最適な治療法が選択されます。近年では、内視鏡治療の進歩や人工知能(AI)の活用により、診断精度や治療効果の向上が期待されています。腹痛や黄疸、体重減少など、気になる症状がある場合は、自己判断せずに速やかに医療機関を受診し、専門医の診察を受けることが重要です。
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- Shomei Ryozawa. Pancreato-hepatobiliary endoscopy: Intervention for pancreatic diseases.. Digestive endoscopy : official journal of the Japan Gastroenterological Endoscopy Society. 2022. PMID: 34431144. DOI: 10.1111/den.14091
- James W Ostroff. Endoscopic and radiologic management of pancreatic and biliary tract diseases.. Seminars in gastrointestinal disease. 2004. PMID: 14719772
- . Endoscopic therapy of biliary tract and pancreatic diseases. Guidelines for clinical application.. Gastrointestinal endoscopy. 1991. PMID: 2004677. DOI: 10.1016/s0016-5107(91)70665-2
- Po-Ting Chen, Dawei Chang, Tinghui Wu et al.. Applications of artificial intelligence in pancreatic and biliary diseases.. Journal of gastroenterology and hepatology. 2021. PMID: 33624891. DOI: 10.1111/jgh.15380

