RESPIRATORY MEDICINE / LUNG CANCER
肺がんは、早期には症状がないこともあり、咳や血痰だけで診断できる病気でもありません。症状が続くときの受診、画像と組織による確定診断、組織型・病期・全身状態・本人の希望を組み合わせた治療選択を、患者さんと家族の判断順に整理します。
最初に要点
肺がんが心配なときは、症状だけで自己判定せず、症状があれば受診、症状がなければ対象年齢・リスクに応じた検診と分けて考えます。確定には細胞や組織の検査が必要です。治療は一律ではなく、非小細胞肺がんか小細胞肺がんか、病期、遺伝子変化などの性質、体の状態、希望を確認して決めます。強い息苦しさ、意識の変化、大量の喀血は救急要請を優先してください。
会話が難しいほどの呼吸困難、唇が紫色、意識がぼんやりする、大量の血を吐く、急な強い胸痛は119番の対象になり得ます。少量でも血痰が出た、息苦しさや胸痛が新しく出た場合は早めに医療機関へ相談します。
肺がんでみられる症状と、症状がない場合
肺がんは早期には症状がみられないことが多く、健診や別の目的で撮影した画像から見つかることがあります。症状が出る場合には、治りにくい咳、痰、痰に血が混じる血痰、胸の痛み、動いたときの息苦しさ、動悸、発熱などがあります。ただし、肺がんだけに特有の症状はありません[公1][公2]。
咳・痰・血痰
原因がはっきりしない咳や痰が2週間以上続く、以前からの咳の性質が変わる、少量でも痰に血が混じるときは、放置せず内科や呼吸器内科へ相談します。血液を多量に吐く、血で気道が詰まりそう、呼吸が苦しい場合は救急です。「喫煙していないから肺がんではない」と自己判断しないことも大切です。
息切れ・胸痛・発熱・声の変化
息切れや胸痛、発熱は肺炎、気胸、肺塞栓、心疾患などでも起こります。声のかすれ、顔や首のむくみ、体重減少、強いだるさが続く場合も受診のきっかけになります。症状の組み合わせ、始まった時期、進み方、日常生活への影響を記録すると診察で役立ちます。
咳や血痰は肺がん以外でも起こる:鑑別の考え方
咳・痰・発熱では、かぜ、気管支炎、肺炎、喘息、COPD、結核、間質性肺炎などを検討します。血痰では気管支拡張症や感染症、強い咳による気道粘膜の出血も候補です。息苦しさや胸痛では心不全、狭心症、肺塞栓、気胸など時間を急ぐ病気もあります。症状だけで「肺がん」または「肺がんではない」と切り分けることはできません。
診察で整理する情報
医師は、症状の期間と変化、喫煙・受動喫煙、職業上の粉じんや石綿への曝露、既往歴、家族歴、服薬、過去の画像と今回の画像を確認します。画像に影があっても、炎症、瘢痕、良性結節などの可能性があります。必要な検査は影の位置や大きさ、症状、全身状態で変わります。
肺がんの原因・リスク因子
最大の予防可能なリスク因子は喫煙です。国立がん研究センターは、日本人の肺がんリスクについて、喫煙者は非喫煙者より男性で約4.4倍、女性で約2.8倍、受動喫煙でもリスクが20〜30%程度高くなるとしています。ただし、肺がんは喫煙歴がない人にも生じます[公6]。
喫煙・受動喫煙
たばこの煙には発がん物質が含まれ、吸った量や期間が増えるほどリスクが高くなります。禁煙に遅すぎるということはなく、禁煙後は時間とともにリスクが低下します。治療前後の禁煙は、手術後の肺炎など合併症を減らすためにも重要です。電子たばこや加熱式たばこを「安全な代替」と決めつけず、禁煙外来や薬剤師などの支援を利用します。
職業曝露・肺の病気・家族歴
石綿などへの職業曝露、肺結核、COPD、間質性肺疾患などはリスクと関連します。勤務歴や居住歴、同居者の喫煙、過去の肺疾患を医師へ伝えてください。一つのリスク因子だけで発症を説明できない場合も多く、責任を本人の生活だけに帰すことはできません。
予防と検診:症状がある人は検診を待たない
予防の中心は禁煙と受動喫煙の回避
肺がんを完全に防ぐ方法はありませんが、喫煙を始めない、禁煙する、受動喫煙を避けることが基本です。作業現場での粉じん・石綿対策は勤務先の安全衛生手順に従います。「この食品やサプリメントで肺がんを防げる」とする広告には注意し、食事は特定成分に偏らず、体力と持病に合わせて整えます。
住民検診と低線量CT
症状がない人の住民検診では、対象年齢や方法が定められています。2026年4月時点のがん情報サービスは、40歳以上の年1回の肺がん検診として胸部X線を案内しています。一方、低線量CTは喫煙リスクの高い集団で利益が示されていますが、偽陽性、過剰診断、放射線被ばく、追加検査の不利益も含めた適切な体制が必要です[2][公7][公8]。
肺がんの検査と確定診断
画像検査:胸部X線からCTへ
肺がんが疑われると、まず胸部X線や胸部CTで影の位置、大きさ、形、周囲のリンパ節などを確認します。過去の画像があれば比較が重要です。画像は疑いを絞る検査であり、それだけでがんを確定できるとは限りません。
細胞・組織を採取する検査
確定診断には、痰の細胞を調べる喀痰細胞診、気管支鏡検査、皮膚から針を刺す経皮的針生検、胸腔鏡などから、影の場所と安全性に合う方法を選びます。気管支鏡では気管支内を観察し、洗浄液や組織を採取します。出血、気胸、鎮静薬の影響などのリスクがあるため、抗凝固薬・抗血小板薬、アレルギー、呼吸機能を事前に確認します[公3]。
広がりと治療適性を調べる検査
病期を判断するため、造影CT、脳MRI、PET、骨シンチグラフィなどを必要に応じて組み合わせます。すべてを全員に行うわけではありません。腎機能、造影剤アレルギー、糖尿病薬、体内金属、閉所への不安などを伝え、検査前の指示を確認してください。
肺がんの種類とバイオマーカー検査
非小細胞肺がんと小細胞肺がん
肺がんは大きく非小細胞肺がんと小細胞肺がんに分かれます。非小細胞肺がんには腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんなどがあり、腺がんが最も多い組織型です。小細胞肺がんは増殖が速く、転移しやすい特徴があります。組織型によって治療の考え方が大きく異なるため、病理診断が重要です[公2]。
遺伝子変化・PD-L1などを調べる理由
非小細胞肺がんでは、病期や組織型に応じて、がん細胞の遺伝子変化やPD-L1などを調べ、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の候補を判断します。検査できる項目と必要な組織量、結果までの期間は施設・検体・病状で変わります。組織が十分に得られない場合などに血液を使う検査を検討することがありますが、陰性でも変化がないと断定できない場合があります。
病期(ステージ)は何を表すか
非小細胞肺がんでは、原発巣の大きさや周囲への広がり(T)、リンパ節転移(N)、遠隔転移(M)を組み合わせ、0期からIV期に分類します。小細胞肺がんでもTNM分類を用い、治療を考えるうえで限局型・進展型という区分を使うことがあります。病期は治療方針を考える共通言語で、本人の努力や「重さ」を評価する言葉ではありません。
病期だけでは治療は決まらない
同じ病期でも、がんの位置、組織型、遺伝子変化、肺・心臓・腎臓・肝臓の機能、日常生活の状態、年齢だけでは表せない体力、本人の希望で選択肢が変わります。検査中に病期の見立てが変わることもあります。診断時点の情報と確定後の情報を分けて説明してもらうと理解しやすくなります。
治療はどう決めるか:5つの確認軸
非小細胞肺がんか小細胞肺がんか、さらに病理学的な種類を確認します。
肺・リンパ節・ほかの臓器への広がりから、局所治療と全身治療の組み合わせを考えます。
遺伝子変化やPD-L1など、薬の候補選びに必要な検査結果を確認します。
肺機能、臓器機能、併存症、日常生活動作、治療に耐えられるかを評価します。
期待する利益と不利益、通院、仕事、介護、費用、妊娠・生殖への影響も共有します。
標準治療は、現時点で有効性と安全性のバランスが最も確認されている治療です。ただし、選べる治療が一つとは限りません。目的が治癒、再発予防、病勢の抑制、症状の緩和のどれなのかを確認し、治療しない場合を含む比較を聞きます。セカンドオピニオンは担当医への不信を意味せず、診断や選択肢を理解する手段です。
非小細胞肺がんの主な治療
手術
早期の非小細胞肺がんでは手術が中心です。肺葉切除、区域切除、部分切除などから、がんの位置・大きさと肺機能を踏まえて選びます。手術後に再発予防の薬物療法を追加する場合があります。肺炎、空気漏れ、不整脈、血栓などの合併症があり、手術前後の禁煙、呼吸訓練、早期離床が重要です[公4]。
放射線治療
手術が難しい早期がんでは定位放射線治療などを検討します。局所進行がんでは薬物療法と放射線治療を組み合わせる場合があります。照射範囲に応じて咳、食道炎、皮膚炎、放射線肺臓炎などが起こり得ます。発熱、空咳、息苦しさが出たら時期にかかわらず担当医へ連絡します。
薬物療法
細胞障害性抗がん薬、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬を、組織型、遺伝子変化、PD-L1、病期、全身状態に応じて単独または組み合わせて使います。薬の候補、治療間隔、評価時期、副作用と連絡基準は治療ごとに違います。「新しい薬ほど自分にもよい」とは限らず、承認範囲と検査結果を確認します。
小細胞肺がんの主な治療
小細胞肺がんは増殖が速く、診断時に広がっていることが多いため、薬物療法が治療の中心になります。限局型では放射線治療を組み合わせる場合があり、ごく早期で条件が合えば手術を検討することもあります。進展型では薬物療法を中心に、症状や転移部位へ放射線治療を使うことがあります[公5]。
脳への転移と放射線の説明を確認する
脳MRIでの評価や、脳への放射線治療を検討する場面があります。期待できる利益だけでなく、疲労、脱毛、認知機能への影響など起こり得る不利益も確認し、年齢だけでなく全身状態と希望を含めて決めます。
治療の副作用と、すぐ連絡する症状
薬物療法の副作用は薬ごとに異なる
細胞障害性抗がん薬では、吐き気、食欲低下、口内炎、下痢、脱毛、白血球・赤血球・血小板の減少などがあります。分子標的薬では発疹、下痢、肝障害、間質性肺疾患など、免疫チェックポイント阻害薬では免疫が正常な臓器を攻撃する副作用が起こり得ます。どの症状が、いつ起こりやすいかは薬ごとに違い、個人差があります[公4]。
発熱・新しい空咳・息苦しさは早めに連絡
発熱、悪寒、新しい空咳、息苦しさ、酸素飽和度の低下は、感染症、放射線肺臓炎、薬剤性肺障害などの可能性があります。治療中は解熱薬で様子を見る前に、病院から渡された連絡基準に従います。強い下痢、尿量低下、黄疸、広がる発疹、筋力低下、意識の変化も緊急度を確認してください[公10]。
副作用を我慢しない
副作用を早く共有すると、支持療法、休薬、減量、薬の変更などで安全に治療を続けられる場合があります。自己判断で抗がん薬を中止したり、次回まで隠したりしません。体温、症状、食事・水分、排便、服薬を簡潔に記録し、24時間の連絡先と休日夜間の対応を治療開始前に確認します。
療養中のセルフケアと支持療法
体力を保つ:食事・水分・活動と休息
食欲低下や息切れがあるときは、一度に多く食べることにこだわらず、少量を分けて摂り、体重変化を記録します。水分制限がある人は主治医の指示を優先してください。活動は「頑張る」より、息切れや疲労を観察し、休息を挟んで続けることが大切です。必要に応じて栄養士、理学療法士、歯科、緩和ケアへ相談します。
緩和ケアは終末期だけではない
緩和ケア・支持療法は、診断時から、痛み、息苦しさ、咳、だるさ、不眠、不安、家族の負担、仕事や費用の悩みを軽くするために利用できます。がん治療と並行して受けられます。全国のがん相談支援センターは、患者本人だけでなく家族やその病院に通っていない人も、無料・匿名で利用できます[公12]。
禁煙は治療後も続ける
診断後の禁煙は、治療の合併症や新たながんのリスクを減らすうえで重要です。診断後に禁煙した人の予後がよい可能性を示す観察研究のまとめがありますが、個人の結果を保証するものではありません[3]。ニコチン依存は意志の弱さではなく治療対象であり、支援を受けてください。
避けたい行動
- 血痰や長引く咳を「たばこのせい」「風邪の残り」と決めて受診を先延ばしにする
- 検診の予約があるからと、症状が出ていても診察を待つ
- 処方薬を自己中止・増減し、市販薬やサプリメントを無断で重ねる
- 「がんが消える」とうたう食品、民間療法、未承認治療に標準治療を置き換える
- 発熱や息苦しさを隠し、治療を続けるために副作用を我慢する
- 家族だけで治療を決め、本人が大切にしたい生活を確認しない
受診目安:救急・当日・早めの予約を分ける
会話困難な呼吸困難、唇の紫色、意識障害、大量の喀血、突然の強い胸痛や失神。迷う場合は地域の救急相談やQ助を利用します[公13]。
少量でも続く血痰、急に悪化する息切れ、治療中の発熱・空咳・下痢・発疹、食事や水分が取れない、尿が極端に少ない。
原因不明の咳・痰が2週間以上続く、声のかすれ、胸痛、体重減少、検診で要精密検査となった、過去画像から影が大きくなった。
症状の軽い変化、服薬の困りごと、仕事・費用・家族の不安、妊娠や生殖への希望。次回まで待ってよい基準をあらかじめ確認します。
診察・治療説明で確認したいこと
- 診断は画像上の疑いか、病理で確定しているか
- 組織型、病期、遺伝子変化、PD-L1など、判明している結果と未確定の結果
- 治療の目的、期待できる利益、主な不利益、治療しない場合
- ほかに標準的な選択肢があるか、セカンドオピニオンの時期
- 副作用で病院へ連絡する数値・症状、夜間休日の連絡先
- 通院頻度、入院、仕事、運転、食事、感染対策、費用への影響
- 痛み、息苦しさ、不安、家族支援を誰に相談できるか
肺がんを理解するためのテーママップ
元のMedWP計画にある個別テーマは未公開です。存在しないURLや「#」リンクは作らず、公開まではこのピラー記事内で全体像を確認できます。
肺がんのよくある質問(FAQ)
たばこを吸わなくても肺がんになりますか?
胸部X線で異常がなければ肺がんではありませんか?
肺がん検診は胸部X線と低線量CTのどちらを受ければよいですか?
遺伝子検査が陰性なら分子標的薬は使えませんか?
緩和ケアを受けると、抗がん治療は終わりですか?
治療法をすぐ決められないとき、どうすればよいですか?
参考文献
- Furuse K, et al. Phase III study of concurrent versus sequential thoracic radiotherapy in combination with mitomycin, vindesine, and cisplatin in unresectable stage III non-small-cell lung cancer. J Clin Oncol. 1999.
- de Koning HJ, et al. Reduced Lung-Cancer Mortality with Volume CT Screening in a Randomized Trial. N Engl J Med. 2020.
- Caini S, et al. Quitting Smoking At or Around Diagnosis Improves the Overall Survival of Lung Cancer Patients: A Systematic Review and Meta-Analysis. J Thorac Oncol. 2022.
ガイドライン・公的資料
- 国立がん研究センター がん情報サービス「肺がん」
- 国立がん研究センター がん情報サービス「肺がんについて」
- 国立がん研究センター がん情報サービス「肺がん 検査」
- 国立がん研究センター がん情報サービス「肺がん 非小細胞肺がん 治療」
- 国立がん研究センター がん情報サービス「肺がん 小細胞肺がん 治療」
- 国立がん研究センター がん情報サービス「肺がん 予防・検診」
- 国立がん研究センター がん情報サービス「肺がん検診について」
- 国立がん研究センター がん情報サービス「肺がん検診の検査方法」
- 日本肺癌学会「肺癌診療ガイドライン2025年版」
- 国立がん研究センター がん情報サービス「呼吸困難・咳・痰」
- 国立がん研究センター がん情報サービス「肺がん 療養」
- 国立がん研究センター がん情報サービス「がん相談支援センターとは」
- 総務省消防庁「全国版救急受診アプリ(Q助)」
この記事の監修
本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別の診断や治療方針を代替しません。検査結果や体調に応じた判断は担当医へご相談ください。

