最初に押さえる3点
- SRT/SRSは、多方向から放射線を病巣へ集中させ、周囲の正常組織への線量を抑える高精度な外部照射です。
- 適応は病変の部位・大きさ・数、全身状態、過去の照射歴、手術や薬物療法の選択肢を合わせて判断します。
- 効果は照射直後だけでは判定できません。画像検査と診察を続け、治療後の変化と晩期合併症を見分けます。
- 概要病巣へ多方向から集中照射
- 対象部位・大きさ・数を個別評価
- 種類SRS/SRT/SBRT
- 流れ診察・固定・計画・照射・経過観察
- 効果局所制御を画像と診察で評価
- 安全急性期・晩期の影響を継続確認
定位放射線治療の対象と、治療選択の考え方
定位放射線治療(SRT)は、多方向から放射線を病巣へ集中させ、周囲の正常組織へ届く線量を抑える外部照射の一つです。1回照射の場合は定位手術的照射(SRS)、体幹部の病変に行うものは体幹部定位放射線治療(SBRT)と呼ばれます。国立がん研究センターの放射線治療解説でも、SRT/SRSは小さな病巣に対する高精度照射として整理されています。
適応は病名だけでは決まりません。病変の部位・大きさ・数、正常組織との距離、全身状態、過去の放射線治療歴、手術や薬物療法の選択肢を合わせて判断します。特定機器の名称だけで優劣を決めず、放射線腫瘍医を含む治療チームに目的・代替治療・期待できる効果と限界を確認することが重要です。
定位放射線治療(SRT/SRS)とは?そのメカニズムを解説
定位放射線治療(Stereotactic Radiotherapy: SRT)は、高精度な画像誘導技術を用いて、病変部にピンポイントで大線量の放射線を照射する治療法です。特に、脳腫瘍など頭蓋内の病変に対して単回で大線量を照射するものを定位放射線手術(Stereotactic Radiosurgery: SRS)と呼びます。この治療法は、周囲の正常組織へのダメージを最小限に抑えつつ、病変部に集中的な治療効果をもたらすことを目的としています。- 定位放射線治療(SRT)
- 高精度な画像誘導技術を用いて、病変部に集中して放射線を多分割(複数回)で照射する治療法です。主に体幹部の病変や、脳病変でも複数回に分けて治療を行う場合に用いられます。
- 定位放射線手術(SRS)
- 頭蓋内の比較的小さな病変に対して、単回で非常に高い線量の放射線をピンポイントに照射する治療法です。外科手術に近い効果が期待されることから「手術」という名称が使われます。ガンマナイフ、サイバーナイフ、リニアックベースのSRSなどがあります。
定位放射線治療が適応される疾患とは?
定位放射線治療は、その高い精度から様々な疾患の治療に用いられています。特に脳腫瘍や転移性脳腫瘍、血管奇形、機能性疾患など、脳内の病変に対して広く適用されます。近年では、体幹部の早期肺がんや肝がん、脊椎腫瘍などにも適応が拡大しています。脳腫瘍・転移性脳腫瘍
脳腫瘍、特に転移性脳腫瘍は定位放射線治療の主な対象の一つです。SRS/SRTの選択では病変数だけでなく、各病変の大きさ、症状、全身状態、予後、手術や中枢神経系に有効な全身治療の選択肢などを含め、多職種で検討します[5]。脳血管奇形(脳動静脈奇形など)
脳動静脈奇形(AVM)は、脳内の動脈と静脈が毛細血管を介さずに直接つながってしまい、破裂すると脳出血を引き起こす可能性がある疾患です。定位放射線治療は、この異常な血管塊に放射線を照射することで、血管を徐々に閉塞させ、出血リスクを低減させることを目指します。治療効果が現れるまでに数年かかることもありますが、外科手術が困難な部位にあるAVMに対して有効な選択肢となります。機能性疾患(三叉神経痛など)
定位放射線治療は、難治性の三叉神経痛など一部の機能性疾患で検討されることがあります。振戦などに対する放射線外科的治療も報告されていますが、対象は限られ、標準的な薬物治療や外科治療との比較を含めて専門施設で判断します[1]。体幹部定位放射線治療(SBRT)
体幹部定位放射線治療(Stereotactic Body Radiotherapy: SBRT)は、肺がん、肝がん、脊椎腫瘍など、体幹部の比較的小さな病変に対して行われる高精度放射線治療です。手術が困難な早期非小細胞肺がんに対する前向き試験では高い局所制御が報告されていますが、適応と有害事象は腫瘍径・部位・呼吸性移動などを含めて個別に評価します[6]。定位放射線治療の適応は、病変の大きさ、数、部位、患者さんの全身状態などによって慎重に判断されます。全ての患者さんに適用できるわけではないため、専門医との十分な相談が必要です。
定位放射線治療の効果とメリット・デメリットは?
定位放射線治療は、その特性から多くのメリットを持つ一方で、いくつかのデメリットも存在します。治療を検討する際には、これらの点を十分に理解することが重要です。定位放射線治療のメリット
- 高い局所制御率: 病変部に高線量の放射線を集中させるため、高い確率で病変の増殖を抑制したり、縮小させたりすることが期待できます。特に脳転移では、良好な局所制御が報告されています[4]。
- 周囲正常組織への影響が少ない: ピンポイント照射により、周囲の正常な脳組織や重要臓器への放射線量を大幅に低減できます。これにより、全脳照射などで見られる認知機能低下などの副作用リスクを軽減できます。
- 治療期間が短い: SRSの場合、単回照射で治療が完了するため、患者さんの通院負担や精神的負担が軽減されます。SRTの分割数は、病変の部位・大きさ・正常組織との距離、過去の照射歴などを踏まえて個別に決まります。治療効果が現れる時期も病変ごとに異なり、照射直後の体感だけでは判定できないため、計画された画像検査と診察で評価します。
- 非侵襲的: メスを使わないため、外科手術に伴う出血や感染症のリスクがありません。高齢者や合併症を持つ患者さんにも適用しやすい治療法です。
定位放射線治療のデメリットと注意すべき副作用
- 適応が限られる: 病変の大きさや数、部位によっては適応外となる場合があります。特に大きな病変や広範囲に及ぶ病変には不向きです。
- 晩期合併症のリスク: 治療後数ヶ月から数年経ってから、放射線壊死や脳浮腫などの晩期合併症が生じることがあります。これらの合併症は、症状によってはステロイド治療や外科的処置が必要となる場合があります。放射線壊死はSRS/SRT後の晩期有害事象として報告され、治療から長期間を経て生じる例もあります。新たな頭痛、麻痺、けいれん等がある場合は、腫瘍進行との鑑別を含む診察・画像評価が必要です[7]。
- 治療費: 高度な技術と機器を使用するため、治療費が高額になる場合があります。ただし、多くの場合、健康保険が適用されます。
- 放射線被ばく: 放射線を使用するため、ごくわずかながら二次がんのリスクが理論上存在します。二次がんを含む長期的な影響は年齢、照射部位、線量などで異なるため、治療による利益と合わせて個別に説明を受けます。
定位放射線治療の種類と機器にはどのようなものがありますか?
定位放射線治療は、使用する機器や照射方法によっていくつかの種類に分けられます。主なものとして、ガンマナイフ、サイバーナイフ、そしてリニアックベースの定位放射線治療があります。それぞれに特徴があり、病変の種類や部位、患者さんの状態に応じて選択されます。ガンマナイフ
ガンマナイフは、コバルト60線源から放出される多数のガンマ線を一点に集中させて照射する専用の装置です。頭部に固定するフレームを用いて、ミリ単位の精度で病変をターゲットとします。主に脳腫瘍や脳血管奇形、三叉神経痛などの頭蓋内病変に対して用いられ、単回照射のSRSとして高い実績を持っています。放射線そのものを照射中に痛みとして感じることは通常ありませんが、フレーム固定やマスク、長時間同じ姿勢を保つことによる圧迫感・不快感が生じる場合があります。サイバーナイフ
サイバーナイフは、ロボットアームに搭載された小型リニアックと画像誘導を用い、病変位置に合わせて多方向から照射するシステムです。フレームを用いない方式では固定用マスク等で位置を再現し、適応、固定方法、分割数は病変部位や装置特性に応じて決まります[2]。リニアックベースの定位放射線治療
一般的な放射線治療装置であるリニアック(直線加速器)に、高精度な画像誘導システムや多方向からの照射が可能な機能(IGRT: Image-Guided Radiotherapy, IMRT: Intensity-Modulated Radiation Therapy, VMAT: Volumetric Modulated Arc Therapyなど)を組み合わせることで、定位放射線治療を行うことができます[3]。これにより、ガンマナイフやサイバーナイフと同様に、高精度なピンポイント照射が可能となります。リニアックベースの治療は、頭蓋内だけでなく、体幹部の様々な病変にも対応できる汎用性の高さが特徴です。多くの施設で導入されており、幅広い疾患に適用されています。| 項目 | ガンマナイフ | サイバーナイフ | リニアックベースSRT/SRS |
|---|---|---|---|
| 主な適応部位 | 頭蓋内(脳腫瘍、AVMなど) | 全身(頭蓋内、肺、肝臓、脊椎など) | 全身(頭蓋内、肺、肝臓、脊椎など) |
| 照射回数 | 単回(SRS) | 単回〜数回(SRS/SRT) | 単回〜数回(SRS/SRT) |
| 固定方法 | 侵襲的フレーム固定 | 非侵襲的マスク/体幹固定、フレームレス | 非侵襲的マスク/体幹固定 |
| 主な特徴 | 頭蓋内病変に特化、高精度 | ロボットアーム、呼吸追尾、全身対応 | 汎用性が高く、多くの施設で導入 |
定位放射線治療を受ける際の一般的な流れは?

- 診察・診断: まず、専門医による診察と、CTやMRIなどの画像診断が行われます。病変の種類、大きさ、位置、数、患者さんの全身状態などを総合的に評価し、定位放射線治療が最適な選択肢であるかを判断します。この段階で、治療のメリット・デメリット、他の治療選択肢についても詳しく説明されます。
- 治療計画: 治療が決定したら、専用の固定具(頭部マスクや体幹固定具など)を作成し、治療時の体位を正確に再現できるようにします。その後、高精度なCTやMRI画像を撮影し、これらの画像をもとに、放射線腫瘍医、医学物理士、放射線技師が協力して治療計画を立てます。病変に最大限の放射線量を集中させ、周囲の正常組織への影響を最小限にするための最適な照射方法が、コンピューターシミュレーションによって綿密に計算されます。この計画作業は数日から1週間程度を要することが一般的です。
- 治療の実施: 治療計画が完了したら、実際に放射線を照射します。治療台に横になり、作成した固定具で体を固定します。治療中は、画像誘導システムを用いて病変の位置が正確であることを確認しながら、放射線が照射されます。照射時間は病変の数や大きさ、使用する機器によって異なりますが、数分から数十分程度です。SRSの場合は単回で終了しますが、SRTの場合は数回から十数回に分けて治療が行われます。
- 経過観察: 治療後は、定期的に診察や画像検査(MRIなど)を行い、治療効果や副作用の有無を評価します。特に、放射線壊死などの晩期合併症の発生に注意しながら、長期的なフォローアップが重要となります。経過観察中に新たな症状や症状の増悪がある場合は、予定された受診日を待たずに治療施設へ連絡し、必要に応じて診察や画像検査を受けます。
定位放射線治療の費用と保険適用について
定位放射線治療は高度な医療技術を要するため、治療費用が高額になる傾向があります。しかし、多くのケースで公的医療保険が適用されるため、患者さんの自己負担額は一定の範囲に抑えられます。また、高額療養費制度を利用することで、さらに自己負担を軽減することが可能です。保険適用されるケース
定位放射線治療は、特定の疾患や病変の状態に対して、厚生労働省が定める基準を満たす場合に公的医療保険が適用されます。例えば、脳腫瘍(原発性・転移性)、脳動静脈奇形、三叉神経痛、早期肺がん、肝がん、脊椎腫瘍などが保険適用の対象となることが多いです。保険適用となるかどうかは、疾患の種類、病変の大きさ、数、部位、治療歴など、様々な要因によって判断されます。高額療養費制度の活用
保険適用となる場合でも、自己負担額が一定額を超えると、高額療養費制度を利用できます。これは、医療機関や薬局の窓口で支払った医療費が、ひと月(月の1日から末日まで)で自己負担限度額を超えた場合に、その超えた額が払い戻される制度です。事前に「限度額適用認定証」を申請しておくことで、窓口での支払いを自己負担限度額までに抑えることも可能です。自己負担限度額や事前手続きは加入する健康保険と所得区分などで異なるため、保険者または医療機関の相談窓口へ確認します。保険適用や高額療養費制度の詳細は、患者さんの加入している健康保険の種類や所得によって異なります。治療を開始する前に、必ず医療機関の相談窓口やご自身の健康保険組合に確認することをお勧めします。
治療効果の評価と、定位放射線治療の限界

定位放射線治療の効果は、照射直後の症状や画像だけでは確定できません。病変の種類と治療目的に応じて、診察とMRI・CTなどの画像検査を組み合わせ、縮小、増大の停止、症状の変化を時間を追って評価します。画像上の変化が腫瘍の残存・再発なのか、治療後の炎症や放射線壊死なのか判別が難しい場合もあります。
小さな病変に高精度で照射できる一方、広い範囲の病変、正常組織に近接する病変、過去に高線量照射を受けた部位などでは適応や線量が制限されます。急性期の倦怠感・吐き気・頭痛などに加え、数か月以降に浮腫や放射線壊死などが現れる可能性があるため、症状がなくても予定された経過観察を続けます。
治療を決める前に確認しておきたいこと
- 治療の目的は根治、局所制御、症状緩和のどれか
- SRS・SRT・SBRTのどれを、何回程度に分けて行う予定か
- 手術、通常分割照射、薬物療法など他の選択肢はあるか
- 治療部位に応じた急性期・晩期の副作用と、連絡すべき症状は何か
- 効果判定の時期、画像検査の種類、経過観察の頻度はどうなるか
- 公的医療保険や高額療養費制度を利用できるか
まとめ
定位放射線治療(SRT/SRS)は、高精度な画像誘導技術を用いて病変部にピンポイントで大線量の放射線を照射する、非常に効果的な治療法です。脳腫瘍、転移性脳腫瘍、脳血管奇形、三叉神経痛などの機能性疾患、さらには早期肺がんや肝がんといった体幹部の病変にも広く適応されます。外科手術が困難な場合や、体への負担を軽減したい場合に有力な選択肢となります。期待できる局所制御と有害事象は、病変の種類・大きさ・部位、照射方法、過去の治療歴などで異なります。一方で、病変の適応が限られることや、放射線壊死などの晩期合併症のリスクも存在するため、専門医との十分な相談と慎重な判断が必要です。治療を受ける際には、綿密な治療計画と定期的な経過観察が不可欠であり、費用面では保険適用や高額療養費制度の活用も考慮に入れると良いでしょう。よくある質問(FAQ)
- Monaco EA III, Shin SS, Niranjan A, et al. Radiosurgical Thalamotomy. Prog Neurol Surg. 2018. PMID: 29332079. DOI: 10.1159/000481081
- Ehret F, Kaul D, Budach V, et al. Applications of Frameless Image-Guided Robotic Stereotactic Radiotherapy and Radiosurgery in Pediatric Neuro-Oncology: A Systematic Review. Cancers. 2022. PMID: 35205834. DOI: 10.3390/cancers14041085
- Deodato F, Pezzulla D, Cilla S, et al. Stereotactic Radiosurgery with Volumetric Modulated Arc Radiotherapy: Final Results of a Multi-arm Phase I Trial (DESTROY-2). Clin Oncol. 2024. PMID: 38971684. DOI: 10.1016/j.clon.2024.06.044
- Sun Y, Liu P, Wang Z, et al. Efficacy and indications of gamma knife radiosurgery for recurrent low- and high-grade glioma. BMC Cancer. 2024. PMID: 38183008. DOI: 10.1186/s12885-023-11772-8
- Gondi V, Bauman G, Bradfield L, et al. Radiation Therapy for Brain Metastases: An ASTRO Clinical Practice Guideline. Pract Radiat Oncol. 2022. PMID: 35534352. DOI: 10.1016/j.prro.2022.02.003
- Timmerman R, Paulus R, Galvin J, et al. Stereotactic body radiation therapy for inoperable early stage lung cancer. JAMA. 2010. PMID: 20233825. DOI: 10.1001/jama.2010.261
- McCall NS, Lu A, Hopkins BD, et al. Risk of late radiation necrosis more than 5 years after stereotactic radiosurgery. J Neurosurg. 2025. PMID: 39486061. DOI: 10.3171/2024.6.JNS232187


