【定位放射線治療(SRT/SRS)とは?ピンポイント照射の適応と効果】

定位放射線治療
定位放射線治療(SRT/SRS)とは?ピンポイント照射の適応と効果
最終更新日: 2026-05-12
📋 この記事のポイント
  • 定位放射線治療は、高精度な画像誘導により病変部に集中して放射線を照射する治療法です。
  • 脳腫瘍や転移性脳腫瘍、一部の機能性疾患など、多様な疾患に適応があり、高い治療効果が期待されます。
  • ✓ 治療期間が短く、体への負担が少ない一方で、副作用のリスクや適応条件を十分に理解することが重要です。
※ 本記事は医療に関する情報提供を目的としています。個別の症状については、かかりつけの医療機関にご相談ください。

定位放射線治療(SRT/SRS)とは?そのメカニズムを解説

高精度な定位放射線治療装置が病巣へピンポイントで放射線を照射する様子
定位放射線治療のメカニズム
定位放射線治療(Stereotactic Radiotherapy: SRT)は、高精度な画像誘導技術を用いて、病変部にピンポイントで大線量の放射線を照射する治療法です。特に、脳腫瘍など頭蓋内の病変に対して単回で大線量を照射するものを定位放射線手術(Stereotactic Radiosurgery: SRS)と呼びます。この治療法は、周囲の正常組織へのダメージを最小限に抑えつつ、病変部に集中的な治療効果をもたらすことを目的としています。
定位放射線治療(SRT)
高精度な画像誘導技術を用いて、病変部に集中して放射線を多分割(複数回)で照射する治療法です。主に体幹部の病変や、脳病変でも複数回に分けて治療を行う場合に用いられます。
定位放射線手術(SRS)
頭蓋内の比較的小さな病変に対して、単回で非常に高い線量の放射線をピンポイントに照射する治療法です。外科手術に近い効果が期待されることから「手術」という名称が使われます。ガンマナイフ、サイバーナイフ、リニアックベースのSRSなどがあります。
この治療の鍵となるのは、病変の位置をミリメートル単位で正確に特定し、その位置を治療中も維持する技術です。具体的には、治療前にCTやMRIなどの画像診断を行い、病変の正確な位置、大きさ、形状を把握します。その後、治療計画装置を用いて、病変部に放射線が集中し、周囲の正常組織には極力当たらないような照射方法を綿密に計画します。治療中は、患者さんの頭部や体幹を専用の固定具でしっかりと固定し、呼吸による動きなども考慮しながら、高精度に放射線を照射します。これにより、病変の細胞DNAに損傷を与え、増殖を抑制したり、細胞死を誘導したりすることで治療効果を発揮します。

定位放射線治療が適応される疾患とは?

定位放射線治療は、その高い精度から様々な疾患の治療に用いられています。特に脳腫瘍や転移性脳腫瘍、血管奇形、機能性疾患など、脳内の病変に対して広く適用されます。近年では、体幹部の早期肺がんや肝がん、脊椎腫瘍などにも適応が拡大しています。

脳腫瘍・転移性脳腫瘍

脳腫瘍、特に転移性脳腫瘍は定位放射線治療の主要な適応疾患の一つです。脳内に複数個の転移巣がある場合でも、それぞれにピンポイントで放射線を照射することが可能です。これにより、全脳照射と比較して認知機能の低下などの副作用を抑えつつ、高い局所制御率が期待できます。日常診療では、肺がんや乳がん、大腸がんなどからの脳転移で受診される患者さんが増えており、特に腫瘍の数が少なく、大きさが小さい場合に定位放射線治療が選択肢として挙げられることが多いです。

脳血管奇形(脳動静脈奇形など)

脳動静脈奇形(AVM)は、脳内の動脈と静脈が毛細血管を介さずに直接つながってしまい、破裂すると脳出血を引き起こす可能性がある疾患です。定位放射線治療は、この異常な血管塊に放射線を照射することで、血管を徐々に閉塞させ、出血リスクを低減させることを目指します。治療効果が現れるまでに数年かかることもありますが、外科手術が困難な部位にあるAVMに対して有効な選択肢となります。

機能性疾患(三叉神経痛、パーキンソン病など)

定位放射線治療は、腫瘍だけでなく、一部の機能性疾患に対しても効果を発揮することがあります。例えば、難治性の三叉神経痛に対しては、痛みの原因となっている三叉神経に放射線を照射することで、痛みを緩和する効果が報告されています。また、パーキンソン病の振戦(ふるえ)に対して、脳の特定の部位(視床)に定位放射線手術を行うことで、症状の改善が期待できるケースもあります[1]。診察の場では、「薬で痛みが抑えきれない」「手術は避けたい」と相談される三叉神経痛の患者さんも少なくありません。このような場合、定位放射線治療が新たな選択肢となることを説明することがあります。

体幹部定位放射線治療(SBRT)

体幹部定位放射線治療(Stereotactic Body Radiotherapy: SBRT)は、肺がん、肝がん、脊椎腫瘍など、体幹部の比較的小さな病変に対して行われる定位放射線治療です。呼吸による臓器の動きを考慮した高度な技術が必要となりますが、外科手術が困難な患者さんや、高齢の患者さんにとって、体への負担が少ない有効な治療法となり得ます。実臨床では、早期の肺がん患者さんで手術が難しいと判断された場合に、SBRTを提案することが多く、良好な局所制御率を経験しています。
⚠️ 注意点

定位放射線治療の適応は、病変の大きさ、数、部位、患者さんの全身状態などによって慎重に判断されます。全ての患者さんに適用できるわけではないため、専門医との十分な相談が必要です。

定位放射線治療の効果とメリット・デメリットは?

定位放射線治療による腫瘍縮小効果を示すグラフと患者の生活の質改善
治療効果と患者のメリット
定位放射線治療は、その特性から多くのメリットを持つ一方で、いくつかのデメリットも存在します。治療を検討する際には、これらの点を十分に理解することが重要です。

定位放射線治療のメリット

  • 高い局所制御率: 病変部に高線量の放射線を集中させるため、高い確率で病変の増殖を抑制したり、縮小させたりすることが期待できます。特に脳転移では、良好な局所制御が報告されています[4]
  • 周囲正常組織への影響が少ない: ピンポイント照射により、周囲の正常な脳組織や重要臓器への放射線量を大幅に低減できます。これにより、全脳照射などで見られる認知機能低下などの副作用リスクを軽減できます。
  • 治療期間が短い: SRSの場合、単回照射で治療が完了するため、患者さんの通院負担や精神的負担が軽減されます。SRTの場合でも、数回から十数回で治療が完了することが多く、従来の放射線治療よりも短期間で済みます。筆者の臨床経験では、治療開始から数週間で症状の改善や病変の縮小を実感される方が多いです。
  • 非侵襲的: メスを使わないため、外科手術に伴う出血や感染症のリスクがありません。高齢者や合併症を持つ患者さんにも適用しやすい治療法です。

定位放射線治療のデメリットと注意すべき副作用

  • 適応が限られる: 病変の大きさや数、部位によっては適応外となる場合があります。特に大きな病変や広範囲に及ぶ病変には不向きです。
  • 晩期合併症のリスク: 治療後数ヶ月から数年経ってから、放射線壊死や脳浮腫などの晩期合併症が生じることがあります。これらの合併症は、症状によってはステロイド治療や外科的処置が必要となる場合があります。日常診療では、治療後に頭痛や麻痺などの症状を訴え、MRIで放射線壊死が疑われるケースを経験することがあり、注意深い経過観察が不可欠です。
  • 治療費: 高度な技術と機器を使用するため、治療費が高額になる場合があります。ただし、多くの場合、健康保険が適用されます。
  • 放射線被ばく: 放射線を使用するため、ごくわずかながら二次がんのリスクが理論上存在します。しかし、そのリスクは非常に低いと考えられています。

定位放射線治療の種類と機器にはどのようなものがありますか?

定位放射線治療は、使用する機器や照射方法によっていくつかの種類に分けられます。主なものとして、ガンマナイフ、サイバーナイフ、そしてリニアックベースの定位放射線治療があります。それぞれに特徴があり、病変の種類や部位、患者さんの状態に応じて選択されます。

ガンマナイフ

ガンマナイフは、コバルト60線源から放出される多数のガンマ線を一点に集中させて照射する専用の装置です。頭部に固定するフレームを用いて、ミリ単位の精度で病変をターゲットとします。主に脳腫瘍や脳血管奇形、三叉神経痛などの頭蓋内病変に対して用いられ、単回照射のSRSとして高い実績を持っています。治療中は、患者さんはフレームを装着したまま仰向けに寝ているだけで、痛みを感じることはありません。

サイバーナイフ

サイバーナイフは、ロボットアームに搭載された小型のリニアック(直線加速器)が、患者さんの周囲を多方向から移動しながら放射線を照射するシステムです。患者さんの呼吸による動きなどをリアルタイムで追跡し、病変の位置に合わせて照射するため、体幹部の病変(肺がん、肝がんなど)にも適用可能です。フレームを使用しない「フレームレス」での治療も可能であり、患者さんの負担が少ないのが特徴です[2]。日常診療では、サイバーナイフによる治療を検討する際、患者さんから「固定具の装着が不安」という声を聞くこともありますが、フレームレス治療の利点を説明し、安心して治療に臨んでいただけるよう努めています。

リニアックベースの定位放射線治療

一般的な放射線治療装置であるリニアック(直線加速器)に、高精度な画像誘導システムや多方向からの照射が可能な機能(IGRT: Image-Guided Radiotherapy, IMRT: Intensity-Modulated Radiation Therapy, VMAT: Volumetric Modulated Arc Therapyなど)を組み合わせることで、定位放射線治療を行うことができます[3]。これにより、ガンマナイフやサイバーナイフと同様に、高精度なピンポイント照射が可能となります。リニアックベースの治療は、頭蓋内だけでなく、体幹部の様々な病変にも対応できる汎用性の高さが特徴です。多くの施設で導入されており、幅広い疾患に適用されています。
項目ガンマナイフサイバーナイフリニアックベースSRT/SRS
主な適応部位頭蓋内(脳腫瘍、AVMなど)全身(頭蓋内、肺、肝臓、脊椎など)全身(頭蓋内、肺、肝臓、脊椎など)
照射回数単回(SRS)単回〜数回(SRS/SRT)単回〜数回(SRS/SRT)
固定方法侵襲的フレーム固定非侵襲的マスク/体幹固定、フレームレス非侵襲的マスク/体幹固定
主な特徴頭蓋内病変に特化、高精度ロボットアーム、呼吸追尾、全身対応汎用性が高く、多くの施設で導入

定位放射線治療を受ける際の一般的な流れは?

定位放射線治療の計画から実施、経過観察までの患者の治療プロセス
治療開始から終了までの流れ
定位放射線治療を受けるまでのプロセスは、一般的な放射線治療と同様に、いくつかのステップを経て進められます。患者さんの安全と治療効果を最大限に高めるために、各段階で綿密な準備と確認が行われます。
  1. 診察・診断: まず、専門医による診察と、CTやMRIなどの画像診断が行われます。病変の種類、大きさ、位置、数、患者さんの全身状態などを総合的に評価し、定位放射線治療が最適な選択肢であるかを判断します。この段階で、治療のメリット・デメリット、他の治療選択肢についても詳しく説明されます。
  2. 治療計画: 治療が決定したら、専用の固定具(頭部マスクや体幹固定具など)を作成し、治療時の体位を正確に再現できるようにします。その後、高精度なCTやMRI画像を撮影し、これらの画像をもとに、放射線腫瘍医、医学物理士、放射線技師が協力して治療計画を立てます。病変に最大限の放射線量を集中させ、周囲の正常組織への影響を最小限にするための最適な照射方法が、コンピューターシミュレーションによって綿密に計算されます。この計画作業は数日から1週間程度を要することが一般的です。
  3. 治療の実施: 治療計画が完了したら、実際に放射線を照射します。治療台に横になり、作成した固定具で体を固定します。治療中は、画像誘導システムを用いて病変の位置が正確であることを確認しながら、放射線が照射されます。照射時間は病変の数や大きさ、使用する機器によって異なりますが、数分から数十分程度です。SRSの場合は単回で終了しますが、SRTの場合は数回から十数回に分けて治療が行われます。
  4. 経過観察: 治療後は、定期的に診察や画像検査(MRIなど)を行い、治療効果や副作用の有無を評価します。特に、放射線壊死などの晩期合併症の発生に注意しながら、長期的なフォローアップが重要となります。臨床現場では、治療後のフォローアップで「症状が改善した」という喜びの声を聞く一方で、「少しだるさを感じる」といった副作用を訴える患者さんもいらっしゃるため、丁寧な問診と検査を心がけています。

定位放射線治療の費用と保険適用について

定位放射線治療は高度な医療技術を要するため、治療費用が高額になる傾向があります。しかし、多くのケースで公的医療保険が適用されるため、患者さんの自己負担額は一定の範囲に抑えられます。また、高額療養費制度を利用することで、さらに自己負担を軽減することが可能です。

保険適用されるケース

定位放射線治療は、特定の疾患や病変の状態に対して、厚生労働省が定める基準を満たす場合に公的医療保険が適用されます。例えば、脳腫瘍(原発性・転移性)、脳動静脈奇形、三叉神経痛、早期肺がん、肝がん、脊椎腫瘍などが保険適用の対象となることが多いです。保険適用となるかどうかは、疾患の種類、病変の大きさ、数、部位、治療歴など、様々な要因によって判断されます。

高額療養費制度の活用

保険適用となる場合でも、自己負担額が一定額を超えると、高額療養費制度を利用できます。これは、医療機関や薬局の窓口で支払った医療費が、ひと月(月の1日から末日まで)で自己負担限度額を超えた場合に、その超えた額が払い戻される制度です。事前に「限度額適用認定証」を申請しておくことで、窓口での支払いを自己負担限度額までに抑えることも可能です。日々の診療では、「治療費がどのくらいになるか不安」という相談を受けることがよくあります。このような場合、医療ソーシャルワーカーなどと連携し、高額療養費制度やその他の公的支援制度について詳しく説明し、患者さんの経済的な負担を軽減できるようサポートしています。
⚠️ 注意点

保険適用や高額療養費制度の詳細は、患者さんの加入している健康保険の種類や所得によって異なります。治療を開始する前に、必ず医療機関の相談窓口やご自身の健康保険組合に確認することをお勧めします。

まとめ

定位放射線治療(SRT/SRS)は、高精度な画像誘導技術を用いて病変部にピンポイントで大線量の放射線を照射する、非常に効果的な治療法です。脳腫瘍、転移性脳腫瘍、脳血管奇形、三叉神経痛などの機能性疾患、さらには早期肺がんや肝がんといった体幹部の病変にも広く適応されます。外科手術が困難な場合や、体への負担を軽減したい場合に有力な選択肢となります。メリットとしては、高い局所制御率、周囲正常組織への影響の少なさ、治療期間の短さ、非侵襲性などが挙げられます。一方で、病変の適応が限られることや、放射線壊死などの晩期合併症のリスクも存在するため、専門医との十分な相談と慎重な判断が必要です。治療を受ける際には、綿密な治療計画と定期的な経過観察が不可欠であり、費用面では保険適用や高額療養費制度の活用も考慮に入れると良いでしょう。

よくある質問(FAQ)

定位放射線治療はどのような患者さんに勧められますか?
定位放射線治療は、比較的小さく、数が少ない病変に対して特に有効です。外科手術が難しい部位にある病変、高齢や合併症のために手術が困難な患者さん、あるいは手術以外の選択肢を希望される患者さんなどに勧められることが多いです。特に脳腫瘍や転移性脳腫瘍、早期の肺がんや肝がんなどが主な対象となります。
治療中に痛みはありますか?
定位放射線治療は非侵襲的な治療であり、放射線を照射している間に痛みを感じることはほとんどありません。ただし、頭部を固定する際に専用のフレームを使用する場合、一時的に圧迫感や不快感を感じることがあります。また、体幹部の治療では、固定具による圧迫感がある場合がありますが、治療中は麻酔を使用しないため、意識ははっきりしています。
治療後の生活で注意すべきことはありますか?
治療後も定期的な診察と画像検査(MRIなど)による経過観察が非常に重要です。治療効果の評価だけでなく、放射線壊死などの晩期合併症の早期発見のためにも欠かせません。治療部位によっては、一時的な倦怠感や吐き気、頭痛などの症状が出ることがありますが、多くは時間とともに改善します。症状の変化に気づいた場合は、速やかに担当医に相談してください。
定位放射線治療は再発した病変にも有効ですか?
はい、再発した病変に対しても定位放射線治療が有効な場合があります。特に、以前に放射線治療を受けた部位の再発であっても、線量分布を考慮し、正常組織への影響を最小限に抑えながら再照射を行うことが可能です。ただし、再照射の場合は、初回治療時よりも副作用のリスクが高まる可能性もあるため、専門医による慎重な判断と治療計画が求められます。グリオーマの再発に対しても、ガンマナイフによる効果が報告されています[4]
この記事の監修
💼
木下佑真
放射線科医