- ✓ 頭頸部がんは、顔面から鎖骨上部までの広範囲に発生するがんで、早期発見と適切な治療が重要です。
- ✓ 喫煙や飲酒、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染が主なリスク因子であり、生活習慣の改善やワクチン接種が予防に繋がります。
- ✓ 治療法はがんの種類、進行度、患者さんの状態によって多岐にわたり、集学的治療が中心となります。
頭頸部(とうけいぶ)がんは、顔面から鎖骨上部までの範囲に発生するがんの総称です。この領域には、脳や脊髄、眼球、甲状腺などを除く、鼻、口、喉、耳、唾液腺など、生命維持や生活の質に直結する重要な臓器が集中しています。そのため、頭頸部がんの治療は、がんの根治だけでなく、機能温存やQOL(生活の質)の維持が非常に重要となります[4]。
咽頭がんとは?その特徴と治療法

咽頭がんは、鼻の奥から食道の入り口までの「咽頭」と呼ばれる部位に発生するがんです。咽頭は上咽頭、中咽頭、下咽頭の3つの部位に分けられ、それぞれに異なる特徴やリスク因子、治療法があります。
上咽頭がんの特徴と治療
上咽頭がんは、鼻の奥、口蓋垂(のどちんこ)の上方に位置する上咽頭に発生するがんです。このがんは、他の頭頸部がんと異なり、喫煙や飲酒との関連が比較的薄く、エプスタイン・バーウイルス(EBウイルス)感染が主要なリスク因子とされています。初期症状としては、鼻血、耳閉感、難聴、首のしこり(リンパ節転移)などが挙げられます。日常診療では、耳の症状で耳鼻咽喉科を受診し、検査の結果、上咽頭がんが見つかるケースをよく経験します。
上咽頭がんは放射線治療への感受性が高く、初期段階では放射線治療が主な治療法となります。進行期の場合には、放射線治療と化学療法を組み合わせた化学放射線療法が標準治療です。手術は、解剖学的な制約から一般的には行われませんが、再発時などに検討されることがあります。治療成績は比較的良好ですが、治療後の定期的な経過観察が重要です。
中咽頭がんの特徴と治療
中咽頭がんは、口蓋扁桃、舌根、軟口蓋、咽頭後壁などに発生するがんです。近年、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染が原因となる中咽頭がんが増加傾向にあり、特に若い世代での発症が注目されています[2]。喫煙や飲酒も依然として重要なリスク因子です。症状としては、のどの痛み、飲み込みにくさ、声の変化、首のしこりなどが挙げられます。診察の場では、「飲み込むときに片方ののどだけが痛む」と質問される患者さんも多いです。
治療法は、がんの進行度やHPV感染の有無によって異なります。早期がんでは、放射線治療や手術(経口内視鏡手術など)が選択されます。進行がんでは、化学放射線療法が標準治療となることが多いです。HPV関連中咽頭がんは、HPV非関連中咽頭がんに比べて放射線治療や化学療法への反応が良い傾向があると報告されています[1]。筆者の臨床経験では、HPV関連中咽頭がんの患者さんは、治療開始後比較的早い段階で症状の改善を実感される方が多い印象です。
下咽頭がんの特徴と治療
下咽頭がんは、食道の入り口に最も近い下咽頭に発生するがんです。喫煙と飲酒が主要なリスク因子であり、男性に多く見られます。症状としては、のどの痛み、飲み込みにくさ、声のかすれ、耳の痛み(放散痛)、首のしこりなどが挙げられます。進行が早く、発見時には進行しているケースが少なくありません。日常診療では、慢性的なのどの違和感や嚥下困難を訴えて受診される方が多く、精密検査で下咽頭がんが判明することがあります。
下咽頭がんは、早期発見が難しいため、進行がんで見つかることが多いです。治療は、手術、放射線治療、化学療法を組み合わせた集学的治療が中心となります。特に、喉頭(声帯がある部位)に近接しているため、喉頭温存を目的とした治療が検討されます。しかし、進行度によっては喉頭全摘術が必要となる場合もあり、術後の音声機能や嚥下機能のリハビリテーションが非常に重要になります。
喉頭がんの症状、診断、治療法とは?
喉頭がんは、声帯がある「喉頭」に発生するがんです。喉頭は、声を出す、呼吸をする、誤嚥を防ぐという重要な役割を担っており、ここにがんができるとこれらの機能に大きな影響を及ぼします。
喉頭がんの主な症状と診断
喉頭がんの最も特徴的な症状は、声のかすれ(嗄声)です。特に、2週間以上続く声のかすれがある場合は、耳鼻咽喉科を受診することが強く推奨されます。その他、のどの痛み、異物感、飲み込みにくさ、呼吸困難、血痰なども症状として現れることがあります。外来診療では、「最近、声が枯れて治らない」と訴えて受診される患者さんが増えており、その中には喉頭がんが見つかるケースも含まれます。
診断には、まず内視鏡検査(喉頭ファイバースコープ)で喉頭の状態を直接観察します。異常が疑われる病変があれば、組織の一部を採取して病理検査を行います。これにより、がんの確定診断と種類を特定します。さらに、CTやMRI、PET-CTなどの画像検査を行い、がんの広がりやリンパ節転移、遠隔転移の有無を評価し、病期(ステージ)を決定します。
喉頭がんの治療選択肢
喉頭がんの治療は、がんの進行度、発生部位(声門、声門上、声門下)、患者さんの全身状態、そして音声機能の温存希望などを考慮して決定されます。主な治療法は以下の通りです。
- 手術療法: 早期がんでは、内視鏡を用いたレーザー手術や部分切除術が行われ、音声機能の温存が可能です。進行がんでは、喉頭全摘術が必要となる場合があり、この場合、声帯を失うため、食道発声や電気式人工喉頭、シャント発声などの音声リハビリテーションが必要となります。
- 放射線治療: 早期がんでは、手術と同等の治療効果が期待でき、音声機能を温存できる利点があります。進行がんでは、化学療法と併用する化学放射線療法が選択されることも多く、喉頭温存を目指します。
- 化学療法: 進行がんや遠隔転移がある場合、あるいは放射線治療との併用で用いられます。近年では、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬も治療選択肢に加わり、治療成績の向上が期待されています[1]。
臨床現場では、特に声門がんの早期発見が重要だと感じています。声のかすれという比較的早期に自覚しやすい症状があるため、早期に受診すれば、喉頭温存手術や放射線治療で良好な治療成績と音声機能の維持が期待できます。しかし、症状を放置して進行させてしまうと、喉頭全摘術が必要となり、患者さんの生活の質に大きな影響を及ぼすことになります。
声のかすれが2週間以上続く場合は、自己判断せずに必ず耳鼻咽喉科を受診し、専門医の診察を受けるようにしてください。早期発見が治療の選択肢を広げ、良好な予後につながります。
舌がん・口腔がんの診断と治療戦略

舌がん・口腔がんは、口の中に発生するがんの総称です。口腔は、咀嚼、嚥下、発音といった重要な機能を持つため、治療においては機能温存が大きな課題となります。
舌がん・口腔がんの主な発生部位とリスク因子
口腔がんは、舌、歯肉(歯ぐき)、頬粘膜、口底(舌の下)、硬口蓋(上あご)、口唇など、口の中の様々な部位に発生します。中でも舌がんが最も多く、口腔がん全体の約半数を占めると言われています。主なリスク因子は、喫煙、飲酒、慢性的な機械的刺激(合わない義歯や尖った歯による刺激)、口腔内の不衛生、そしてヒトパピローマウイルス(HPV)感染も一部で関連が指摘されています。日々の診療では、「口内炎がなかなか治らない」と相談される患者さまも少なくありません。特に同じ場所に2週間以上治らない口内炎がある場合は、精密検査が必要です。
舌がん・口腔がんの診断と治療
診断は、視診、触診による口腔内のチェックから始まります。疑わしい病変があれば、組織の一部を採取して病理検査を行います。これにより、がんの確定診断と種類(多くは扁平上皮がん)を特定します。さらに、CT、MRI、超音波検査、PET-CTなどの画像検査で、がんの広がりやリンパ節転移の有無を確認します。
治療の主体は手術療法です。がんの大きさや深さ、リンパ節転移の有無に応じて、がん病巣の切除と頸部リンパ節郭清が行われます。切除範囲が広い場合は、体の他の部位から組織を移植して欠損部を再建する「遊離皮弁移植術」などの再建手術が行われます。これにより、術後の機能障害を最小限に抑え、QOLの維持を目指します。筆者の臨床経験では、再建手術によって、術後も食事や会話を比較的スムーズに行えるようになる患者さんが多く見られます。手術後は、必要に応じて放射線治療や化学療法が追加されることがあります。特に進行がんの場合や、切除断端にがん細胞が認められる場合、リンパ節転移が多い場合などには、術後補助療法として放射線治療や化学放射線療法が推奨されます。
口腔がんの治療では、口腔外科医、耳鼻咽喉科医、放射線治療医、腫瘍内科医、形成外科医、歯科医、看護師、言語聴覚士、栄養士など、多職種によるチーム医療が不可欠です。治療前から治療後にかけて、嚥下機能や構音機能のリハビリテーション、口腔ケア、栄養管理など、包括的なサポートが行われます。
甲状腺がんの種類と治療の進歩
甲状腺がんは、首の前面にある甲状腺に発生するがんです。他の頭頸部がんと異なり、一般的に進行が遅く、予後が比較的良好なタイプが多いのが特徴です。
甲状腺がんの主な種類と特徴
甲状腺がんは、組織型によっていくつかの種類に分けられます。最も頻度が高いのは乳頭がんで、甲状腺がん全体の約90%を占めます。次いで濾胞がん、髄様がん、未分化がんなどがあります。それぞれの特徴を以下の表にまとめました。
| 種類 | 特徴 | 予後 |
|---|---|---|
| 乳頭がん | 最も多い。進行が遅く、比較的予後良好。リンパ節転移しやすい。 | 非常に良好 |
| 濾胞がん | 血行性転移(肺や骨)しやすい。 | 良好 |
| 髄様がん | 稀。遺伝性の場合がある。カルシトニンを産生。 | 中程度 |
| 未分化がん | 非常に稀。進行が早く、予後不良。 | 不良 |
甲状腺がんの診断と治療
甲状腺がんの診断は、首のしこり(甲状腺結節)の触診から始まり、超音波検査で結節の大きさや性状を評価します。悪性が疑われる場合には、超音波ガイド下穿刺吸引細胞診を行い、細胞レベルでがんの有無を調べます。これは比較的簡便で安全な検査であり、日常診療で多くの患者さんに実施しています。さらに、CTやMRIでがんの広がりやリンパ節転移の有無を確認します。
治療の主体は手術療法です。がんの大きさやリンパ節転移の有無に応じて、甲状腺の片葉切除や全摘術、頸部リンパ節郭清が行われます。乳頭がんや濾胞がんでは、手術後に放射性ヨウ素内用療法が行われることがあります。これは、甲状腺がん細胞がヨウ素を取り込む性質を利用した治療法で、手術で取りきれなかったがん細胞や転移巣を破壊する効果が期待できます。未分化がんのように進行の早いタイプでは、手術に加えて放射線治療や化学療法が積極的に行われます。
近年、甲状腺がんの治療においても、分子標的薬が登場し、特に進行した難治性の甲状腺がんに対して新たな治療選択肢を提供しています[3]。臨床経験上、甲状腺がんは比較的ゆっくり進行するため、定期的な検診や首のしこりに気づいた際の早期受診が、治療の成功に大きく寄与すると感じています。
- 放射性ヨウ素内用療法とは
- 甲状腺がんの治療法の一つで、放射性ヨウ素(I-131)を内服することで、甲状腺がん細胞がヨウ素を取り込む性質を利用し、内部から放射線を照射してがん細胞を破壊する治療法です。特に、手術後に残存したがん細胞や遠隔転移に対して効果が期待されます。
頭頸部がんの最新コラム・症例報告

頭頸部がんの治療は、近年目覚ましい進歩を遂げています。特に、個別化医療の進展や新しい薬剤の開発により、患者さんの予後改善とQOL向上に貢献しています。
免疫チェックポイント阻害薬の登場
近年、頭頸部扁平上皮がんの治療において、免疫チェックポイント阻害薬が重要な位置を占めるようになりました。これは、がん細胞が免疫細胞の攻撃から逃れる仕組みをブロックすることで、患者さん自身の免疫力を高めてがんを攻撃させる新しいタイプのお薬です。進行・再発頭頸部がんの患者さんに対して、従来の化学療法と比較して生存期間の延長が期待できることが報告されています[1]。筆者の臨床経験でも、免疫チェックポイント阻害薬によって、これまで治療が難しかった進行がんの患者さんで、腫瘍の縮小や長期奏効(治療効果が長く続くこと)を認めるケースを経験しています。ただし、免疫関連の副作用(肺炎、甲状腺機能障害、大腸炎など)に注意が必要であり、副作用の早期発見と適切な管理が臨床現場では重要なポイントになります。
HPV関連がんの増加と治療戦略
前述の通り、中咽頭がんを中心にHPV(ヒトパピローマウイルス)関連がんが増加しています。HPV関連がんは、HPV非関連がんと比較して、放射線治療や化学療法に対する感受性が高い傾向があります。この特性を活かし、治療の強度を下げつつ効果を維持する「脱エスカレーション治療」の研究も進められています。これにより、治療による副作用を軽減し、患者さんのQOLをさらに向上させることが期待されています。HPVワクチンは、子宮頸がんだけでなく、中咽頭がんを含む一部の頭頸部がんの予防にも有効であるとされており、公衆衛生上の観点からもその重要性が高まっています。
ロボット支援手術の導入
頭頸部がんの手術においても、低侵襲な手術手技の導入が進んでいます。特に、経口ロボット支援手術(TORS: Transoral Robotic Surgery)は、中咽頭がんや喉頭がんの一部において、口の中からロボットアームを用いて病巣を切除する手術です。これにより、首を切開することなく手術が可能となり、術後の嚥下機能や音声機能の温存に貢献しています。実際の診療では、TORSによって術後の回復が早く、早期に社会復帰される患者さんもいらっしゃいます。ただし、全てのがんに適用できるわけではなく、がんの大きさや部位、進行度によって適応が慎重に判断されます。
個別化医療の進展
がんの遺伝子変異を解析し、その変異に合った薬剤を選択する「個別化医療」も頭頸部がんの分野で進展しています。特定の遺伝子変異を持つ患者さんに対して、分子標的薬が効果を発揮することが明らかになってきています。これにより、より効果的で副作用の少ない治療が提供できるようになりつつあります。
まとめ
頭頸部がんは、顔面から鎖骨上部までの広範囲に発生するがんであり、その種類や発生部位によって症状、リスク因子、治療法が多岐にわたります。喫煙、飲酒、HPV感染が主なリスク因子であり、生活習慣の改善やワクチン接種が予防に繋がります。早期発見が治療の成功と機能温存に極めて重要であり、声のかすれや口内炎が長引くなど、気になる症状があれば速やかに耳鼻咽喉科や口腔外科を受診することが大切です。治療は手術、放射線治療、化学療法を組み合わせた集学的治療が中心で、近年では免疫チェックポイント阻害薬やロボット支援手術など、治療の選択肢が広がっています。治療においては、がんの根治だけでなく、嚥下、発声、呼吸などの機能温存とQOLの維持が重視されます。
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- Laura Q M Chow. Head and Neck Cancer.. The New England journal of medicine. 2020. PMID: 31893516. DOI: 10.1056/NEJMra1715715
- Joël Guigay. Things are changing for head and neck squamous cell carcinomas.. Current opinion in oncology. 2020. PMID: 30985495. DOI: 10.1097/CCO.0000000000000524
- Marko Tarle. Special Issue “Pathogenesis and Treatments of Head and Neck Cancer”.. International journal of molecular sciences. 2025. PMID: 41465531. DOI: 10.3390/ijms262412107
- Lillian L Siu. Preface: head and neck cancer.. Hematology/oncology clinics of North America. 2009. PMID: 19010261. DOI: 10.1016/j.hoc.2008.10.001

