【陥没乳頭の手術:授乳機能の温存と術式】|陥没乳頭の手術と授乳機能の温存術式|専門医解説

陥没乳頭の手術と授乳機能の温存術式|専門医解説
最終更新日: 2026-10-10
📋 この記事のポイント
  • ✓ 陥没乳頭の手術は、乳管を保存する「温存法」を選択することで将来の授乳機能を維持できる可能性があります。
  • ✓ 症状の重症度(グレード1〜3)によって、適用される術式や真皮弁・牽引法の必要性が異なります。
  • ✓ 手術用顕微鏡や高度な形成外科手技を用いることで、授乳機能の保全と再発防止を高次元で両立させます。
※ 本記事は医療に関する情報提供を目的としています。個別の症状については、かかりつけの医療機関にご相談ください。

陥没乳頭の手術とは?授乳機能を温存する基本概念

陥没乳頭(凹み乳頭)の根本的な治療には手術が有効ですが、将来の授乳能力を守るためには乳管構造を傷つけない高度な術式の選択が不可欠です。

陥没乳頭は、乳頭が乳房の表面から突出せず、内側に引き込まれている状態を指します。審美的な悩みにとどまらず、皮脂や汚れが溜まりやすくなることによる乳頭炎や乳腺炎の発症、さらには授乳期の直接授乳(直接赤ちゃんに母乳を与えること)が困難になるなど、機能的な問題を引き起こすことが知られています。

陥没乳頭が発生する解剖学的な原因としては、乳頭の下に位置する乳管(母乳を運ぶ管)の長さが先天的に短いことや、乳頭内部を支える繊維性結合組織束の短縮・突っ張り、あるいは乳頭周囲の平滑筋の発達不全などが挙げられます。手術においては、これらの引き込みの原因となっている組織を解除しつつ、乳頭を突出した位置で固定する手技が行われます。

陥没乳頭(かんぼつにゅうとう)
乳頭が乳房の表面よりも内側に引き込まれている状態。先天的な構造異常(乳管の短縮や結合組織の牽引)や、後天的な炎症・腫瘍などが原因で発生します。
乳管温存術式(乳管保存法)
母乳の通り道である乳管群を切断・損傷させず、突っ張っている結合組織のみを選択的に分離・解放することで、将来の授乳機能を可能な限り残す形成外科的手技。

日常診療では、「将来子どもを産んで授乳したいけれど、手術をすると母乳が出なくなってしまうのではないか」という不安を抱えて相談に訪れる患者さんが非常に多く見られます。解剖学的な理解と正確な術式の選択があれば、授乳機能を守りながら陥没状態を改善することは十分に目指せます。

私の陥没乳頭はどの分類?グレードと手術適応

陥没乳頭は症状の程度に応じて3つのグレードに分類され、この分類が授乳機能の温存可能性や採用すべき術式を決める重要な基準となります。

臨床的に広く用いられている分類法(Hanan classification等)では、陥没の強さや指で引っ張った際の反応によって、以下のように重症度が分けられます[1]。

グレード1(軽度)

指で軽くつまんだり、寒さなどの刺激を与えたりするだけで容易に突出し、その後もしばらく突出した状態が維持される形態です。乳管の短縮や結合組織の突っ張りは軽微であり、授乳障害を起こすリスクは低いとされています。非手術的な牽引器具で改善することもありますが、形態の安定を求めて手術を行う場合も授乳機能は容易に温存できます。

グレード2(中等度)

指で引っ張ると引き出すことができますが、指を離すとすぐに元のように引き込まれてしまう状態です。結合組織の牽引が比較的強く、乳管の短縮も認められます。直接授乳に支障をきたすことが多いため手術適応となるケースが増えますが、適切な温存術式を用いることで授乳機能を残すことが可能です。

グレード3(重度)

指で強い力で引っ張っても引き出すことが困難であるか、あるいは著しい抵抗があり、引き出しても瞬時に深く埋没してしまう状態です。乳管の顕著な短縮と硬い結合組織の固着が存在します。重度のグレード3では、無条件に乳管を切断せずに保存するアプローチが技術的に難しくなりますが、近年の専門的な形成外科手技の進歩により温存を試みる選択肢が広がっています。

外来診療では、「自分の状態がどの段階にあるのか分からず、ずっと一人で悩んでいた」とおっしゃる患者さんに多くお会いします。受診時には丁寧な触診を行い、グレードの判定と授乳希望の有無を総合的に評価して治療方針を決定していきます。

授乳機能を温存する主な術式とメカニズム

授乳機能を残す手術の核心は、乳管を傷つけずに乳頭を引き上げ、その底部にしっかりとした「土台」を作り込んで再陥没を防ぐことにあります。

従来の手術では、再発を防ぐために乳管群をすべて切断して乳頭を強力に引き上げる術式(乳管切断法)が主流だった時代もありました。しかしこの方法では、将来の授乳が不可能になるという重大なデメリットがあります。これに対し、授乳機能を温存する術式(乳管保存法)では、乳管束の周囲にある短い繊維組織のみを丹念に分離し、乳管自体の連続性を保ったまま乳頭を挙上します。

比較項目乳管温存術式(保存法)乳管切断術式(非保存法)
将来の授乳可能性保持・期待できる不可能となる可能性が高い
適応となる方将来挙児・授乳を希望する全年齢授乳の希望がなく、再発を強く予防したい方
手技の難易度非常に高く、繊細な剥離技術が必要比較的簡便で確実に引き上げ可能
乳頭感度の保全神経損傷が少なく維持されやすい知覚低下のリスクが比較的高い

温存術式において最も重要視されるのが、「乳頭底部への組織の裏打ち(土台作り)」です。乳管を切断しない場合、下からの引っ張り力が多少残るため、乳頭を浮かせた下に周囲の皮弁や真皮弁(皮膚の真皮層を利用した組織)を折り込んで交差させ、クッションのような土台を作ることが再発防止の鍵となります。

実臨床では、患者さまの将来の挙児希望やライフプランを深く伺ったうえで、1%でも授乳の可能性を残したい場合には、時間をかけてでも乳管構造を守る繊細な温存術式をおすすめしています。

顕微鏡や真皮弁を活用した先進的な術式アプローチ

近代の形成外科においては、顕微鏡を用いた微細剥離や真皮弁の工夫、術後牽引法の併用によって、温存率と美しさを同時に向上させる術式が確立されています。

顕微鏡下での選択的乳管剥離術

手術用顕微鏡(オペレーティングマイクロスコープ)を使用することで、肉眼では見分けにくい「母乳を通す乳管」と「突っ張りの原因となっている不要な繊維束」を明確に識別できます。Sowaらの研究では、顕微鏡下で牽引を加えながら引き込みの主因となる繊維組織を選択的に切除・切開することにより、乳管を傷つけることなく重度の陥没乳頭であっても良好な突出を得られる手法が報告されています[3]。

真皮弁(Dermal Flap)による土台補強と牽引術

乳頭の根本に小さめの三角状または帯状の真皮弁を作成し、それを乳頭の下に潜り込ませて縫い合わせる術式です。Durgunらの報告やFengらの研究でも示されているように、真皮弁を入れ込むことで乳頭の下に強固な支持基盤が形成され、乳管を切断しなくても再引き込みが劇的に防止されます[2][4]。さらに、術後に外的な牽引装置(Traction)を一定期間併用することで、組織の緊張を和らげ、安定した突出を定着させることができます。

実際の診療現場でも、マイクロスコープや真皮弁技術を組み合わせたアプローチを行うことで、従来は「乳管を切断しなければ改善が難しい」とされていた重度の患者さんにおいても、授乳機能を残しつつ満足度の高い仕上がりを得られたケースを多く経験します。

術後の経過や痛みは?ダウンタイムとケアの注意点

陥没乳頭の手術後、綺麗な形態を長期維持し、感染や再発といったトラブルを防ぐためには、適切な術後管理と保護が不可欠です。

一般的な術後の経過として、手術当日は局所麻酔が切れた後に軽い痛みが生じますが、処方される鎮痛剤で十分にコントロールできる範囲です。腫れや内出血(青ずみ)は術後1〜2週間程度で徐々に軽快していきます。抜糸は術後7〜14日頃に行われるのが一般的です。

⚠️ 注意点

術後数週間から1ヶ月程度は、乳頭部に強い横圧力や衣服による摩擦・圧迫を加えないことが極めて重要です。締め付けの強いブラジャーやうつ伏せ寝は再引き込みの原因となるため避け、指示された保護キャップや固定ガーゼを正しく着用してください。

また、術式によっては突出状態を定着させるために、小さな補強用キャップや牽引スプリントを3〜6週間ほど装着していただく場合があります。日常診療でも、「仕事や家事にいつから復帰できるか」と質問される患者さんが多いですが、デスクワークなどの日常生活は翌日から可能なことがほとんどです。ただし、胸筋を大きく使う激しい運動や入浴(湯船に浸かること)は、医師の許可が出るまで控える必要があります。

まとめ

陥没乳頭の手術において、将来の授乳機能を温存するためには、乳管構造を切断せずに保持する「乳管温存術式」の選択が最も重要です。重症度(グレード)に応じた適切な手技や、真皮弁・顕微鏡下手術・術後牽引などの高度な技術を組み合わせることで、授乳可能性を残しながら良好な形態を目指すことができます。お一人で悩まず、実績のある形成外科専門医にご相談いただくことを推奨いたします。

よくある質問(FAQ)

Q. 陥没乳頭の手術を受けたら、将来必ず100%授乳できるようになりますか?
A. 乳管温存術式を行なうことで授乳機能が維持される可能性は非常に高まりますが、100%を保証するものではありません。元の乳管の発達具合や組織の状態には個人差があるため、事前のカウンセリングで状態を評価することが大切です。
Q. 手術後に元に戻ってしまう(再発する)リスクはありますか?
A. 授乳機能を温存する術式では乳管を切断しないため、術後に組織が引き戻されるリスクがゼロではありません。しかし、真皮弁による土台作りや術後の保護キャップ・牽引装置を適切に使用することで、再発率を大幅に低減させることができます。
Q. 手術の痕(傷跡)は目立ちますか?感覚は残りますか?
A. 傷跡は乳頭の根元や溝に沿って設計されるため、時間の経過とともに目立ちにくくなります。また、知覚神経を保護しながら手術を行なうため、一時的な感覚の鈍さはあっても、多くの場合数ヶ月で感覚は回復していきます。
この記事の監修
👨‍⚕️
新井智博
美容外科医
👨‍⚕️
林一樹
美容外科医