肩の運動・リハビリの安全な進め方
回数をこなすことより、状態に合う動きを選び、運動後の痛みと生活の変化を確かめます。
肩の運動は、五十肩・腱板の障害・手術後などで方法と進め方が異なります。急なけがや強い腫れを確認してから、医師・理学療法士と動く範囲や負荷を決めます。強い痛みを我慢して伸ばさず、運動後や翌朝、夜の痛みが増える場合は量や方法を見直します。術後は担当医の指示を優先してください。
運動を始める前に、受診を優先する状態を確認する
転倒後に腕が上がらない、肩の形が変わった、赤く腫れて熱を持つ、発熱がある場合は当日中に医療機関へ相談します。手の冷たさや色の悪さ、急な感覚の低下も救急に連絡してください。
この記事は、成人の肩の症状について運動を相談するための一般的な情報です。骨折・脱臼後、腱板修復術後、人工肩関節のある人は、ここにある運動例をそのまま始めず個別の指示を確認します。胸痛・息苦しさ・冷や汗を伴う場合は運動を止め119番へ連絡してください。
痛みの原因が分からない段階では、強く引っ張るストレッチ、反動を使った腕回し、重いダンベルでの運動を避けます。まず肩の痛みの受診目安を確認し、状態に合う目的を決めます。
五十肩と腱板の障害では、運動の目的が異なる
五十肩の痛みと硬さ
- 対象
- 診察で五十肩と判断された人
- 根拠・役割
- 痛みの状態に合わせて、肩を動かせる範囲と生活動作を取り戻すことを目指します。[1]
- 注意・限界
- 強い痛みの時期に、硬さを取ろうと無理に伸ばしません。
腱板に関連した肩の痛み
- 対象
- 腱の傷みや使い方に合わせた運動が必要な人
- 根拠・役割
- 肩や周囲の筋肉を使う練習、段階的な筋力運動などを選びます。腱板の腱障害では運動を中心とした治療が推奨されています。[2]
- 注意・限界
- この推奨を、外傷後の全層断裂や手術直後の運動へ一律に当てはめません。
腱板断裂の手術後
- 対象
- 修復した腱の治癒を待ちながら機能を戻す人
- 根拠・役割
- 装具や動く範囲、筋力運動の開始を術式と腱の状態に合わせます。[5]
- 注意・限界
- 痛みが少ないだけでは、自由に動かしたり重い物を持ったりしてよいとは判断できません。
診察では、髪を洗う、洗濯物を干す、仕事で物を持つなど、ご自身の目標を伝えます。動く角度を増やすことだけでなく、その動作を安全に行えることを目指して運動を選びます。
自宅の運動は、方法を確認してから小さく始める
以下は、医師・理学療法士から実施してよいと確認された場合の、腕を机で支える運動の例です。急なけが、強い炎症、術後の制限がある人向けの共通メニューではありません。自分の肩で行ってよいか、最初に実際の動作を見てもらってください。
- 机と椅子を安定させる
足が床に着く椅子を使い、前腕を置いて肩がすくみにくい机の高さにします。
- 腕をタオルの上で支える
机に置いたタオルに前腕や手をのせ、肩の力を抜きます。
- 体を少し前へ移す
タオルを滑らせながら、肩に強い痛みが出ない小さな範囲で体を前へ移します。勢いをつけたり、反対の手で押し込んだりしません。
- 楽な位置へ戻し、反応を確認する
少量で止め、痛みや動かしやすさを確かめます。回数や範囲は指示された量から調整します。
運動の名前や写真だけでは、適した量までは分かりません。回数、動く範囲、速さ、実施する時間帯をまとめて増やさず、変える場合は一つずつ相談します。毎日の家事や仕事で肩を使う量も、全体の負担として考えます。

運動中だけでなく、翌朝と夜の痛みを確認する
今の量を土台に、戻したい動作へ進む方法を確認します。痛みが完全にゼロでなければ何もできない、とは限りません。
回数、動く幅、重さのどれが負担になったかを振り返ります。強い痛みを押し切って継続しません。
通常の運動後の違和感と決めつけず、医療機関へ連絡します。急な外傷や血流の異常を疑う症状では救急の評価を優先します。
「痛みが何点までなら必ず安全」という共通の線引きはできません。いつもの痛みと違うか、運動を止めると落ち着くか、睡眠や翌日の動作に影響するかを確認します。症状のメモは短くてよく、「夜に起きた」「翌朝の着替えがつらい」だけでも調整の材料になります。
肩のリハビリを確認する診察では、その場で体操ができたかに加え、「その夜は眠れたか」「翌朝の着替えはどうだったか」を聞きます。同じ運動でも回数や仕事の負担が重なるとつらくなるためです。できなかったことを責めるのではなく、自宅で続けられる量と生活への戻し方を一緒に調整します。
通院回数だけで効果は決まらない
GRASP試験では、腱板に関連した肩の痛みのある成人に対し、複数回の運動支援と、運動の助言を含む1回の支援などが比べられました。1年間の主要な評価で大きな差は示されませんでした。この結果は「運動が不要」という意味ではなく、両方の群が運動に関する支援を受けています。[3]
この試験は、五十肩、手術を要する全層断裂などを対象から除いています。通院が必要か、自宅中心でよいかは診断、運動の習得、生活環境で変わります。回数だけを目標にせず、方法を理解して続けられるか、症状に応じて見直せるかを大切にします。
五十肩の比較研究では、注射で短期の痛みを和らげながら自宅の運動や理学療法を組み合わせる方法も検討されています。強い痛みで取り組めないときは、運動を無理に増やす前に痛みへの対処を相談してください。[4]
家事・仕事・スポーツは、必要な動作から戻す
- 物を腰〜胸の高さへ置き直し、腕を高く上げ続ける作業を減らす
- 重い物を遠くで持たず、小分けにする・両手で支えるなどを相談する
- 長時間の作業では短い休憩や担当作業の変更を組み合わせる
- スポーツは軽い動作から始め、強さ・回数・時間を一度に増やさない
- 痛み、力、翌日の生活への影響を再診で伝える
復帰の判断は、痛みがないことだけでなく、必要な範囲に動くか、力を出せるか、繰り返しに耐えられるかを合わせます。手術後の運転やスポーツは、担当医の許可と安全に操作・実施できる状態を確認してから再開します。
運動を続けにくいときは、やる気の問題と決めつけないでください。机の高さ、仕事の量、家族の手助け、通院時間などを伝えると、取り組みやすい方法を考えられます。五十肩の治療と腱板断裂の治療では、病気別の見直し方も説明しています。
よくある質問
肩の体操は痛くても毎日続けるべきですか?
強い痛みを我慢して続ける必要はありません。運動後や翌朝、夜の痛みが増える場合は量や方法を見直します。急な脱力や腫れ、新しいしびれがあれば運動を止めて連絡してください。
毎日何回行えばよいですか?
診断、痛み、硬さ、仕事で肩を使う量によって変わります。全員共通の回数は決められません。指導された少ない量から始め、運動後と翌日の反応を見て調整します。
動画と同じストレッチをしてもよいですか?
動画だけでは自分の診断や運動制限に合うか判断できません。強くひねる、押し込む、反動を使う運動は避け、医師・理学療法士に方法を確認してください。術後は個別の指示を優先します。
自宅の運動だけで治療できますか?
適切な指導を受けて自宅中心で進められる場合もあります。診断、動作の習得、痛みや生活への影響によって通院の必要性は変わります。症状が改善しない場合の相談先と見直す時期を決めておきます。
参考文献
- 日本整形外科学会.五十肩(肩関節周囲炎).
日本の学会・患者向け資料 - Desmeules F, et al. Rotator Cuff Tendinopathy Diagnosis, Nonsurgical Medical Care, and Rehabilitation: A Clinical Practice Guideline. J Orthop Sports Phys Ther. 2025. PMID: 40165544.
診療ガイドライン - Hopewell S, et al. Progressive exercise compared with best practice advice, with or without corticosteroid injection, for the treatment of patients with rotator cuff disorders (GRASP): a multicentre, pragmatic, 2 × 2 factorial, randomised controlled trial. Lancet. 2021. PMID: 34265255.
無作為化比較試験 - Challoumas D, et al. Comparison of Treatments for Frozen Shoulder: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Netw Open. 2020. PMID: 33326025.
系統的レビュー・メタ解析 - AAOS. Management of Rotator Cuff Injuries Evidence-Based Clinical Practice Guideline. 2025.
診療ガイドライン
本記事は一般的な医療情報であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。症状、既往歴、服薬、妊娠などによって適切な対応は異なります。急な強い腫れ・熱感、けが後の腕の脱力は予約を待たず医療機関へ連絡してください。胸痛・息苦しさ・冷や汗を伴う場合は119番へ連絡してください。
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