Evidence & safety review
幹細胞培養上清液を用いる治療は、細胞そのものを投与する「幹細胞治療」とは別のものです。安全性を判断するときは、期待される作用だけでなく、薬事承認の有無、法制度上の位置づけ、製品ごとの品質、投与経路、研究の限界を分けて確認する必要があります。

幹細胞培養上清液治療を「安全性が確立した標準治療」とは評価できません。厚生労働省の2024年7月31日付通知は、培養上清液やエクソソーム等について、有効性・安全性が示され薬事承認を得た医薬品はないとしています。一部の小規模研究はありますが、製品の均一性、まれな有害事象、長期影響まで十分に確認した証拠ではありません。
結論:安全性は確立していない
安全性を考える出発点は、「細胞が入っていないから安全」「重い副作用の報告を見たことがないから安全」という短絡を避けることです。培養上清液は、細胞を培養した後の液体から細胞を除いたものですが、その中にはタンパク質、脂質、サイトカイン、細胞外小胞など多様な成分が含まれ得ます。原料となる細胞、培養条件、回収・濃縮方法、保存、輸送によって組成が変わるため、同じ名称でも同一の製品とは限りません。
厚生労働省の通知は、2024年7月31日時点で、諸外国を含め有効性・安全性が示され薬事承認を得て製造販売されている医薬品はないと明記しています。2026年7月に公式サイトを再確認した際も、この通知は関連通知として掲載されています。したがって、治療を検討する場合は、承認薬と同等の審査を通ったという前提を置かず、説明書と品質資料を個別に確認します。
培養上清液と「幹細胞治療」は同じではない
幹細胞培養上清液とは
間葉系幹細胞などを培養した後、細胞を除いた液体を一般に「培養上清液」や「conditioned medium」と呼びます。細胞から分泌された可溶性因子や細胞外小胞を含み得ますが、どの成分をどの濃度で含むかは、細胞の由来、培地、培養時間、回収方法、濃縮や精製の有無によって異なります。「エクソソーム」と表示されていても、粒子の同定方法、純度、含有量が同じとは限りません。
細胞治療との違い
幹細胞治療は生きた細胞を投与する治療であり、細胞を含まない培養上清液とは成分もリスク管理も異なります。培養上清液には増殖する細胞がないため、細胞の生着や異所性組織形成などの論点は同じではありません。一方で、感染因子、製造中の汚染、培地由来成分、免疫反応、生物活性物質の予期しない作用、投与経路に伴う有害事象は別途検討が必要です。
「再生医療」という名称だけで判断しない
医療機関の広告や説明で「再生医療」「幹細胞由来」と表現されていても、それだけで承認薬、臨床試験、再生医療等安全性確保法の対象治療であるとは限りません。何を投与するのか、細胞が含まれるのか、医薬品として承認されているのか、研究として実施されるのか、自由診療なのかを分けて確認します。受診先を比べるときは、再生医療を掲げるクリニックの見極め方もあわせて確認してください。
薬事承認と再生医療等安全性確保法の位置づけ
薬事承認が意味すること
医薬品として承認されるには、対象疾患、用法・用量、品質、有効性、安全性に関する資料が審査されます。自由診療として医師が使用していることは、その製品が国の承認を得たことを意味しません。厚生労働省は、試薬として流通するエクソソーム等を治療目的で用いる場合も、品質・有効性・安全性が確認されたものではないと注意喚起しています。
細胞を含まない培養上清液は法の対象外
日本再生医療学会のガイダンスと厚生労働省のQ&Aは、細胞が含まれないことが明らかな培養上清液や細胞外小胞を用いる医療は、細胞加工物を使う「再生医療等」には該当せず、原則として再生医療等安全性確保法の対象外であると説明しています。これは安全が確認されたという意味ではなく、認定再生医療等委員会の審査や同法に基づく提供計画の手続きが、そのまま適用されないという意味です。
提供計画の検索結果を過大評価しない
厚生労働省の再生医療等提供計画の公開情報は、同法の対象となる細胞治療等を確認するための資料です。培養上清液治療が掲載されていない、または同じ医療機関の別の細胞治療が掲載されていることだけでは、培養上清液の品質・有効性・安全性を証明できません。検討中の治療と公開計画が同じ内容かを確認します。
安全性研究の結果と、そこから言えないこと
2025年の55人の報告
2025年に公表された単施設研究では、さまざまな慢性疾患をもつ55人に脂肪由来または臍帯由来の間葉系幹細胞培養上清液を複数回、静脈内・動脈内・吸入で投与し、安全性を評価しました。研究では投与に起因すると判断された重篤な有害事象は報告されず、軽微な事象と投与の因果関係は不明とされました。これはヒトでの安全性情報として参考になります。
「安全性が証明された」とは言えない理由
この研究は無作為化比較試験ではなく、対象疾患、製品由来、投与経路が混在し、人数も限られています。まれな有害事象や遅れて現れる影響を検出するには、より大きな集団と長期追跡が必要です。また、研究で使われた製品の製造・試験条件が、国内の自由診療で使われる別製品と同一とは限りません。したがって「55人で重篤事象がなかった」という結果を、すべての製品・投与法・患者へ広げることはできません。
この研究(PMID: 40327651)の著者自身も、ヒトへの投与の安全性は十分に調べられていないという問題意識から評価を行っています。さらに、全身倦怠感を対象に19人で検討した2025年の報告もありますが、小規模な探索的研究です。効果の有無と安全性の確立を混同しないことが重要です。研究結果の整理は、エクソソーム・幹細胞治療のエビデンスと注意点も参照してください。
美容・脱毛・瘢痕の研究は投与方法が異なる
皮膚への塗布、マイクロニードルとの併用、瘢痕や脱毛への局所投与を扱う小規模研究やレビューがあります。これらは特定の皮膚領域を対象とした情報であり、静脈点滴や全身投与の安全性を直接裏付けるものではありません。目的、製品、投与経路、投与量、比較対照、観察期間が異なる研究を一括して「安全で効果がある」とまとめるのは不適切です。
研究の読み方:MSC secretomeのレビュー(PMID: 28841158)、瘢痕・ケロイド治療の系統的レビュー(PMID: 38126221)、脱毛領域のレビュー(PMID: 39153118)
想定されるリスクと副作用
原料・製造・保管に由来するリスク
ヒト由来原料では、ドナーの健康情報と感染症スクリーニングが重要です。ただし、検査にはウインドウ期間や対象外の病原体という限界があります。製造工程では細菌、真菌、マイコプラズマ、エンドトキシン等の管理が必要です。培地に動物由来成分や抗菌薬等が使われたか、最終製品へどの程度残る可能性があるかも確認項目です。保管温度の逸脱や凍結融解の反復は、成分や品質へ影響する可能性があります。
投与時に起こり得る反応
投与直後には、発熱、悪寒、発疹、かゆみ、息苦しさ、血圧変動など、免疫反応や注入に伴う症状が起こる可能性を考えます。局所注射では痛み、腫れ、出血、感染など、針を用いる処置自体のリスクがあります。吸入や点滴でも投与経路固有の問題があるため、「培養上清液」という成分だけでなく、どの方法で、どの速度・量を投与するかを確認します。
長期影響と生物活性の不確実性
培養上清液に含まれ得る成長因子、サイトカイン、細胞外小胞は、多様な細胞へ作用する可能性があります。目的とする作用だけを選択的に起こすとは限りません。悪性腫瘍の既往や活動性疾患がある人、妊娠中・授乳中、免疫機能が低下している人、重いアレルギー歴がある人などでは、一般化した適否を示せる十分なデータがありません。「禁止対象の一覧」だけで判断せず、既往歴と検討中の製品・投与法を医師が個別に評価します。
副作用が「まれ」と説明されても、分母となる投与人数、追跡期間、報告方法が示されなければ頻度は評価できません。医療機関内の経験談や販売資料だけでなく、査読論文、公的注意喚起、製品ごとの試験成績を確認します。
品質管理で確認したい8項目

日本再生医療学会のガイダンスは、細胞の入手から培養、回収、精製、保管、輸送、投与後まで一貫した品質・リスク管理を求めています。「国内製造」「高濃度」「不純物除去済み」といった短い宣伝文句だけでは、安全性を判断する情報として不十分です。少なくとも次の項目を書面で確認します。
- 細胞の由来:脂肪、臍帯、骨髄、歯髄など何に由来し、自己由来か他家由来か
- ドナー管理:同意、匿名化、健康情報、感染症スクリーニングの内容と時期
- 培養条件:培地、動物由来成分、抗菌薬、培養期間、細胞の継代数
- 製造環境:製造施設、衛生管理、工程管理、交差汚染を防ぐ方法
- 出荷試験:無菌性、マイコプラズマ、エンドトキシン、細胞残存などの基準
- 成分評価:タンパク量、粒子数、細胞外小胞の同定法など、製品を特徴づける試験
- 保管と輸送:温度、使用期限、凍結融解回数、温度逸脱時の廃棄基準
- 追跡可能性:製品名、製造者、ロット番号、投与記録、有害事象と回収時の連絡体制
PMDAの調査報告も、細胞外小胞を医薬品として開発する際の品質・非臨床・臨床上の論点を整理しています。自由診療の製品が同じ基準を満たすと自動的に推定せず、実際にどの試験を行い、どの基準で合格したかを確認します。
治療前に確認するチェックリスト
目的と代替治療
まず、治療したい症状や診断を明確にします。美容、脱毛、関節症状、疲労感など目的が異なれば、比較すべき標準治療や確立した選択肢も異なります。標準治療を受けないことによる不利益、経過観察という選択肢、ほかの自由診療との違いも説明を受けます。培養上清液治療を選ぶ前に、診断そのものが妥当かを確認することが優先です。
期待できることと分からないこと
説明書には、どの研究を根拠に、誰を対象として、どの程度の変化を想定しているかが示されている必要があります。細胞や動物の実験結果だけでヒトへの効果を断定していないか、小規模研究の結果を一般化していないかを確認します。効果がなかった場合の追加投与や返金の条件も、契約前に確認します。
同意書と費用
未承認であること、想定されるリスク、分かっていないリスク、投与方法、代替治療、総額、解約・中止条件、健康被害時の診療費と補償、個人情報と検体の扱いを読みます。同意書を当日に初めて示され、即日契約を促される場合でも、持ち帰って検討することができます。質問への回答を記録し、説明担当者の氏名を確認します。
承認の有無を示す公式資料、治療説明書、同意書、製品仕様書、出荷試験の項目と合否、投与記録、緊急時対応、査読論文です。「専門家推奨」「高濃度」「副作用が少ない」といった表現だけでは判断しません。
治療後の観察と緊急時の対応

治療後は、製品名、ロット番号、投与日、投与経路、投与量、併用した薬剤、担当医療機関と緊急連絡先が分かる記録を保管します。体調変化が起きたときは、症状の開始時刻、体温、皮疹の広がり、息苦しさ、痛みや腫れの変化を記録します。医療機関の指示があっても、緊急症状では連絡の返答を待たず救急要請を検討します。
直ちに救急対応を検討する症状
- 息苦しさ、喉の締め付け、声が出しにくい、全身に急速に広がるじんましん
- 意識が遠のく、立てないほどのふらつき、顔色が明らかに悪い
- 突然の強い胸痛、呼吸困難、片側の手足の麻痺や言葉の障害
- 注射部位の腫れ・痛み・赤みが急速に悪化し、高熱や全身状態の悪化を伴う
遅れて現れた症状も記録する
治療から時間がたって症状が出た場合、関連がないと自己判断せず、治療を受けた医療機関と必要な診療科へ情報を伝えます。担当医療機関が有害事象をどこへ報告し、製造者や同じロットの使用状況をどう確認するかも、治療前に聞いておくとよいでしょう。
細胞治療・培養上清液・承認薬を比較する
| 区分 | 主な内容 | 制度・審査 | 安全性を見るポイント |
|---|---|---|---|
| 幹細胞を用いる再生医療 | 生きた細胞を加工・投与 | 内容に応じて再生医療等安全性確保法の提供計画・審査等 | 細胞由来、加工、感染、細胞特有のリスク、長期追跡 |
| 幹細胞培養上清液・細胞外小胞 | 細胞培養後の液体やそこから得た成分。細胞を含まないもの | 細胞を含まないことが明らかなら原則として同法の対象外。承認医薬品ではない | 原料、製造、成分ばらつき、無菌性、保管、投与経路、長期影響 |
| 薬事承認された再生医療等製品・医薬品 | 承認された対象・用法で使用 | PMDAの審査と厚生労働大臣の承認 | 添付文書、適応、用法・用量、重大な副作用、全例調査等 |
| 標準治療 | 診療ガイドラインや診断に基づく治療 | 承認薬・保険診療を含み、疾患ごとに異なる | 期待利益、既知の副作用、代替治療、個別の禁忌・注意 |
制度上の区分が異なるため、単に「再生医療」という一語で安全性を比較できません。治療名ではなく、実際に投与する物、対象疾患、製造・品質情報、投与方法、根拠となる研究を照合します。
よくある質問(FAQ)
参考文献・公的資料
- 厚生労働省「幹細胞培養上清液及びエクソソーム等を用いる医療について(周知)」2024年7月31日
- 厚生労働省「エクソソーム試薬に係る監視指導について」2024年7月31日
- 日本再生医療学会「細胞外小胞等の臨床応用に関するガイダンスについて」
- 日本再生医療学会・日本細胞外小胞学会「細胞外小胞等の臨床応用に関するガイダンス 第1版」
- PMDA「エクソソームを含む細胞外小胞を利用した医薬品に関する調査報告」
- 厚生労働省「再生医療等提供計画の情報」
- Inami N. Safety assessment of multiple systemic administration of human mesenchymal stem cell-conditioned medium. PLoS One. 2025. PMID: 40327651
- Inami N. Intravenous Administration of Human-Derived Mesenchymal Stem Cell-Conditioned Medium for Patients with General Malaise. J Clin Med. 2025. PMID: 40869710
- Vizoso FJ, et al. Mesenchymal Stem Cell Secretome: Toward Cell-Free Therapeutic Strategies in Regenerative Medicine. Int J Mol Sci. 2017. PMID: 28841158
- Jafarzadeh A, et al. Regenerative medicine treatments for hypertrophic scars and keloids: a systematic review. Int Wound J. 2024. PMID: 38126221
- Legiawati L, et al. Stem cell conditioned medium for hair regeneration therapy in alopecia: a review. Arch Dermatol Res. 2024. PMID: 39153118
- De Gregorio C, et al. MSC-conditioned medium in a diabetic mouse model. Stem Cell Res Ther. 2020. PMID: 32357914

