【ヒップリフト(臀部挙上術)の適応と術式】|医師が徹底解説

ヒップリフト(臀部挙上術)の適応と術式|医師が徹底解説
最終更新日: 2026-10-25
📋 この記事のポイント
  • ✓ ヒップリフトは加齢や大幅な減量によってたるんだ臀部の余剰皮膚・組織を切除・再配置する外科的手術です。
  • ✓ 患者の体型や皮膚弛緩の程度に応じ、上部切除、臀下溝切除、ベルトボディリフトなどの適切な術式を選択します。
  • ✓ 脂肪注入(BBL)やシリコンインプラントとの併用・使い分けにより、立体的で自然なヒップラインの形成を目指します。
※ 本記事は医療に関する情報提供を目的としています。個別の症状については、かかりつけの医療機関にご相談ください。

ヒップリフト(臀部挙上術)とはどのような手術?

ヒップリフト(臀部挙上術)は、お尻(臀部)の下垂や皮膚の弛緩に対して、余剰な皮膚と皮下組織を切除・移動させて引き上げ、若々しく引き締まった臀部輪郭を構築する美容形成外科手術です。

近年、国際美容外科学会(ISAPS)の統計調査が示すように、全世界的にボディコンタリング(体型修復外科)の手術需要が増加傾向にあります[4]。特にヒップラインの形成において、単にボリュームを増やすだけでなく、下垂した組織の位置を補正するヒップリフトは重要な選択肢として位置づけられています。臀部の輪郭改善には多様なアプローチが存在し、患者個々の解剖学的特徴や希望する輪郭に合わせて最適な術式を選択することが不可欠です[1]。

お尻の組織は重力や加齢、体重変動の影響を非常に受けやすい部位です。トレーニングなどの保存的アプローチでは改善が困難な広範囲の皮膚の伸びや重度の下垂に対し、外科的な切除と固定を行うことで根本的な形態改善を図ります。

ヒップリフト(臀部挙上術)
下垂・弛緩した臀部の皮膚および皮下組織を切除・挙上・固定し、お尻の位置を引き上げてハリのある輪郭を作る外科手術。
ブラジリアンバットリフト(BBL)
自身の他部位(腹部や太ももなど)から採取した脂肪を臀部に注入し、ボリューム感と丸みを出す増大術。「リフト」という名称がついているものの、基本的には皮膚切除を行わないボリューム増大手技。
ベルトボディリフト(周径的ボディリフト)
体幹をぐるりと一周するように皮膚を切除し、臀部・腰部・腹部・大腿外側を同時に引き上げる広範囲な輪郭形成術。

臀部のアナトミーと下垂のメカニズム

臀部の輪郭は、大臀筋のボリュームとトーン、その上の皮下脂肪層の厚みと分布、そしてそれらを覆う皮膚の弾力性によって決定されます。加齢や急激な減量に伴い、真皮層のコラーゲンやエラスチンが減少すると、皮膚が弛緩します。また、浅筋膜系(SMS/Subcutaneous Muscular System)の張力が低下することで、脂肪組織が重力に従って下方へ移動し、臀下溝(お尻と太ももの境目のシワ)が深く下がり、二重の折り目が形成されるようになります。

外科的ヒップリフトでは、単に皮膚の表面を引っ張るだけでなく、深部の筋膜層や脂肪弁を固定・再配置することによって、長期的に持続する立体的リフトアップを実現します。

ヒップリフト(臀部挙上術)の適応となる症状と対象者

ヒップリフトの手術適応は、患者の見た目の悩みだけでなく、皮膚の余剰度や組織の弾力性を総合的に判断して決定されます。

外来診療では、「運動やダイエットに取り組んだが、お尻の下側のたるみだけがどうしても解消されない」とおっしゃる患者さんが多く見られます。また、減量手術(肥満外科手術)や過度な食事制限によって30kg以上の大幅な減量(Massive Weight Loss)を達成された方々からも、伸びきってしまった皮膚の引きつれや摩擦による不快感についての相談を頻繁に受けます。

主な適応条件

ヒップリフトが適応となる代表的な状態には、以下のようなものが含まれます。

  • 減量後や加齢に伴う中等度〜重度の臀部皮膚のたるみ・余剰
  • 臀下溝(お尻の下のライン)が下降し、太ももへと垂れ下がっている状態
  • 脂肪注入やインプラントのみでは垂れ感を解消できない組織の緩み
  • 余剰皮膚による衛生上の不快感や衣類の擦れに悩んでいるケース

実際の診療では、お尻の「ボリューム不足」なのか「皮膚のたるみ」なのか、あるいはその両方なのかを綿密に見極めることが極めて重要です。Mowlaviらの研究でも指摘されているように、BBL評価ツールなどの客観的な評価指標を用いることで、必要な脂肪注入量や切除すべき組織の範囲を正確に算出することが術後満足度の向上につながります[3]。

適応とならない・慎重な判断が必要なケース

一方で、すべての臀部のお悩みに対してヒップリフトが第一選択となるわけではありません。皮膚の弾力性が保たれており、単に脂肪の少なさでお尻が平坦に見える若い患者さんの場合、皮膚切除を伴うリフト手術を行うと、不必要な術後瘢痕(傷跡)を残すことになります。このようなケースでは、脂肪注入(BBL)やヒアルロン酸注入、あるいは筋肉のトレーニングが優先されます。

また、現在進行形でお大幅な体重増加や減少の予定がある方、喫煙者(組織血流が低下し傷の治りが著しく遅れるため)、重度のアレルギーや膠原病をお持ちの方などは、事前のアセスメントで慎重な対応が求められます。

ヒップリフトの主な術式とアプローチ

ヒップリフトには、切除する位置や組織の扱い方によっていくつかの代表的な術式が存在します。患者の解剖学的形態、余剰皮膚の分布、既存の傷跡の位置、そして術後傷跡の隠れやすさを考慮して執開ラインを決定します[1]。

日常診療では、「傷跡が水着や下着から露出しないか」という点に関して非常に多くの質問が寄せられます。デザイン(マーキング)の段階では、患者さんが日常的に着用する下着のラインを実際に確認し、その内側に縫合線が隠れるようミリ単位で設計を行っています。

1. 臀部上部切除術(Upper Gluteal Lift / Butterfly Lift)

腰部と臀部の境目(骨盤の後上腸骨棘付近)に沿って弓状またはバタフライ状に皮膚を切除し、下方の臀部組織を引き上げて上方の深筋膜(腰背筋膜)に固定する術式です。

  • メリット:臀部全体を強力に上方へ引き上げることが可能。水着やパンツのラインに傷跡を合わせやすい。
  • 適応:お尻全体が下垂しており、腰まわりの皮膚にも緩みがある場合。

2. 臀下溝切除術(Infragluteal Lift)

お尻と太ももの境目である「臀下溝(インフラグルーティアル・クリーゼ)」に沿って横方向に皮膚を切除する手技です。

  • メリット:お尻の下側のバギーな(垂れ下がった)皮膚をダイレクトに切除できるため、お尻の下縁をシャープに整形できます。
  • 注意点:坐骨付近の肥厚性瘢痕や、立位・坐位の圧迫によって傷跡が広がりやすい傾向があります。臨床経験上、術後の座り方や縫合時の深部固定に細心の注意が必要な術式です。

3. ベルトボディリフト / 周径的ボディリフト(Circumferential Body Lift)

大量減量後の患者に対して行われる広範囲な形成外科手技です。腹部整形術(タミータック)と連動し、骨盤上部を周径的(ぐるりと一周)に切除して体幹全体を一気に引き上げます。

Centenoの研究で示されているように、ベルトボディリフトの際、切除予定の余剰皮膚から真皮・皮下脂肪弁を作成し、それを回転・折りたたんで大臀筋上に埋め込む「自家組織を用いた臀部増大術(Autologous Gluteal Augmentation)」を併用する手法が非常に効果的です[2]。人工物や外来の脂肪注入に頼ることなく、本来捨てるはずだった組織を活用してお尻の上部に理想的なボリュームと高さを出すことが可能となります。

術式名主な切除位置対象となる症状併用可能な手技
臀部上部切除術腰部・臀部上縁全体の軽度〜中等度下垂脂肪吸引、脂肪注入
臀下溝切除術臀部下縁(お尻と腿の境目)お尻下の局所的な皮膚垂れ大腿後面リフト
ベルトボディリフト骨盤周囲全周大量減量後の重度弛緩自家皮下脂肪弁移動術[2]

ヒップリフト術後の経過とダウンタイム管理

ヒップリフトは広範囲の組織剥離と縫合を伴うため、術後の経過管理と適切なダウンタイムの過ごし方が最終的な美しさと安全性を左右します。

診察の場では、「いつから仕事に復帰できるか」「どのような姿勢で寝ればよいのか」という質問をよくお受けします。術後数週間は縫合部に過剰な張力がかからないよう生活動作を工夫する必要があり、経過観察の診察では傷口の発赤や浸出液の有無、皮下死腔の予防状態を重点的にチェックしています。

リカバリー時期の目安と経過

一般的な術後経過の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 直後〜3日目:組織液や血液の滞留を防ぐため、ドレーン(排液チューブ)が留置されることがあります。強い腫れや痛みが生じるため、処方された鎮痛薬を定期服用します。姿勢はうつ伏せまたは横向きが推奨されます。
  2. 1〜2週間目:ドレーン抜去や抜糸(非吸収糸の場合)が行われます。デスクワーク程度の日常動作は可能になりますが、長時間直接臀部に圧力をかける坐位は避ける必要があります。
  3. 1ヶ月目:腫れや内出血の大部分が軽快します。圧迫着(ガードル)の着用を継続し、傷のストレッチを防ぎます。軽度のウォーキングなどが解禁されます。
  4. 3〜6ヶ月目:組織が落ち着き、完成形へと近づきます。傷跡の赤みが徐々に白っぽい成熟瘢痕へと変化していきます。
⚠️ 注意点

ヒップリフト術後早期に縫合部へ強い引張荷重がかかると、傷口が開いたり(創部開口)、傷跡が幅広く盛り上がって目立つ原因(肥厚性瘢痕)となります。術後少なくとも4週間は、股関節を深く曲げる前屈姿勢や長時間の着座、激しいスポーツを控えてください。

ヒップリフトの合併症やリスクとは?

ヒップリフトは劇的なボディライン改善をもたらす一方で、侵襲を伴う外科手術であるため、一定ののリスクやリスク・合併症が存在します。

臨床現場では、事前のカウンセリングにおいて良い結果だけでなく、起こり得るトラブルとその対処法について患者さんに十分理解いただくことが極めて重要なポイントになると感じています。リスクを正しく把握し、術後指示を厳守することがトラブル回避の鍵となります。

主な潜在的リスク・合併症

  • 漿液腫(セローマ)および血腫:広範囲に切除・剥離したスペースに浸出液や血液が溜まる現象です。ドレーン留置や術後の圧迫固定によって予防に努めますが、生じた場合は注射器での穿刺吸引が必要になることがあります。
  • 創傷癒合不全(傷の開き):お尻は歩行や立座りによって日常的に張力がかかる部位であるため、一部の傷口が開くリスクがあります。特に喫煙者や糖尿病をお持ちの方で頻度が高まります。
  • 不適切な瘢痕形成:切開線が肥厚性瘢痕やケロイドのように赤く盛り上がったり、幅広く広がってしまうことがあります。テーピング保護やシリコンシートの処方、ステロイド注射などで対処します。
  • 知覚異常:術後、お尻や太もも背面の皮膚に一時的な痺れ感や鈍麻が生じることがあります。神経終末の再生とともに、数ヶ月から1年程度かけて徐々に回復するのが一般的です。
  • 左右非対称:人間の身体はもともと左右非対称ですが、組織の引き上げ量や生体の収縮差により、わずかな左右差が残存する可能性があります。

筆者の臨床経験上、術前に入念なデザインを行い、深部筋膜(Fascia)へ確実に皮下弁をアンカリング(固定)する手技を徹底することで、無駄な皮膚への張力を減らし、瘢痕の広がりや創傷トラブルの発生率を著しく低下させることができると実感しています。

ヒップリフトと他の臀部美容手術(BBL・インプラント)の併用と選び方

理想的な臀部輪郭を実現するためには、ヒップリフト(切除術)単独だけでなく、他の美容外科手技とのハイブリッドな組み合わせが有効な場合があります。

日々の診療では、「BBL(脂肪注入)とヒップリフトのどちらを受けたらよいか悩んでいる」という相談を受けることが少なくありません。結論から言うと、これらは対立する手技ではなく、お悩みの原因(皮膚のたるみ vs ボリュームの欠如)に応じた相補的な手技です。

各手技の特徴と選び方

  • ヒップリフト(皮膚切除術):弛緩した皮膚や下垂した組織を取り除くための手技。お尻の位置を引き上げる効果が非常に高いですが、単独ではボリュームを増やすことはできません。
  • 脂肪注入(BBL / Brazilian Butt Lift):自身の脂肪を採取してお尻の上部や外側に注入し、ボリュームと丸みを作る手技。皮膚の張力がある程度保たれている方に非常に効果的です[3]。
  • シリコンインプラント挿入術:十分な採取脂肪がない痩せ型の方に対して、大臀筋内などにシリコンプロテーゼを挿入して半永久的なボリュームを作る手技。

組織の弛緩が著しい減量後の患者さんや加齢性の下垂が進んだケースでは、まずヒップリフトでフレームと皮膚の張りを作り、同時にまたは第二段階として脂肪注入を行うことで、理想的な「桃型」の立体的なヒップコンツアーを作ることが可能となります[1][2]。

まとめ

ヒップリフト(臀部挙上術)は、加齢や大幅な減量によってたるんでしまった臀部の余剰皮膚や組織を切除・再配置し、若々しく引き締まったヒップラインを取り戻すための効果的な外科的手術です。

上部切除、臀下溝切除、ベルトボディリフトなどのアプローチが存在し、患者一人ひとりの解剖学的形態や下垂の程度、傷跡の希望位置に合わせて適切な術式が選択されます。また、自家組織脂肪弁の移植や脂肪注入(BBL)と組み合わせることで、単に皮膚を引き上げるだけでなく、立体感と丸みを備えた臀部輪郭を安全に構築することが可能です。

手術をご検討の際は、形成外科・美容外科の専門的知識と豊富な臨床経験を持つ医師のもとで十分なカウンセリングを受け、リスクや術後管理について深く理解した上で治療計画を立てることが推奨されます。

よくある質問(FAQ)

Q. ヒップリフトの傷跡はどのくらい目立ちますか?
手術である以上、切開線による傷跡(瘢痕)は永久に残ります。しかし、事前デザインにより水着や下着のラインに隠れる位置(骨盤上部や臀下溝など)を選択します。通常、術後3〜6ヶ月かけて赤みが引いていき、徐々に白く目立ちにくい線状の痕に落ち着いていきます。
Q. 術後いつから座ることができますか?
術式によりますが、創部への直接的な圧迫や張力を避けるため、術後1〜2週間は長時間の坐位を控えることが推奨されます。座る必要がある場合は、大腿部に荷重を逃がす特殊なクッションを使用したり、うつ伏せ姿勢を中心に過ごしていただきます。
Q. ヒップリフトの効果はどのくらい持続しますか?
余剰皮膚を切除し深部組織を固定するため、数年から十数年にわたり効果が持続します。ただし、自然な加齢プロセスを完全に止めることはできないため、術後も急激な体重増加・減少を避け、適度な体型管理を行うことが効果を長持ちさせる鍵となります。
この記事の監修
👨‍⚕️
新井智博
美容外科医
👨‍⚕️
林一樹
美容外科医