【脊椎・脊髄疾患とは?症状から治療まで医師が解説】

脊椎・脊髄疾患
脊椎・脊髄疾患とは?症状から治療まで医師が解説
最終更新日: 2026-05-12
📋 この記事のポイント
  • 脊椎・脊髄疾患は、首から腰にかけての痛みやしびれ、運動麻痺など多岐にわたる症状を引き起こします。
  • ✓ 頚椎症や腰部脊柱管狭窄症など、加齢に伴う変性疾患が多数を占めますが、腫瘍や感染症、自己免疫疾患など多様な原因があります。
  • ✓ 早期診断と適切な治療が重要であり、保存療法から手術まで、個々の病態に応じた治療選択が求められます。
※ 本記事は医療に関する情報提供を目的としています。個別の症状については、かかりつけの医療機関にご相談ください。

脊椎・脊髄疾患は、私たちの体を支える背骨(脊椎)とその中を通る神経の束(脊髄)に起こる様々な病気の総称です。これらの疾患は、首や肩、背中、腰の痛みだけでなく、手足のしびれや麻痺、歩行障害、排尿・排便の異常など、日常生活に大きな影響を及ぼす可能性があります。

頚椎症・後縦靭帯骨化症とは?

頚椎症による首の痛みと手のしびれ、後縦靭帯骨化症の症状解説
頚椎症・後縦靭帯骨化症の概要

頚椎症と後縦靭帯骨化症は、首の骨である頚椎とその周辺組織に異常が生じ、脊髄や神経根が圧迫されることで様々な症状を引き起こす疾患です。

頚椎症のメカニズムと症状

頚椎症は、加齢に伴う頚椎の変性によって生じます。椎間板(椎骨と椎骨の間にあるクッション)の変性や骨棘(骨のトゲ)の形成により、脊髄や神経根が圧迫される病態です。脊髄が圧迫されると「頚椎症性脊髄症」、神経根が圧迫されると「頚椎症性神経根症」と呼ばれます。頚椎症性脊髄症では、手のしびれや細かい作業がしにくい(箸が使いにくい、ボタンがかけにくいなど)、歩行時のふらつきなどが特徴的です。一方、頚椎症性神経根症では、首から肩、腕、手にかけての痛みやしびれが主な症状となります。日常診療では、「最近、手が震えるようになった」「足元がおぼつかない」と相談される方が少なくありません。問診や身体診察で脊髄症が疑われる場合、MRI検査で脊髄の圧迫状況を確認することが重要です。

後縦靭帯骨化症(OPLL)の病態と注意点

後縦靭帯骨化症(Ossification of the Posterior Longitudinal Ligament: OPLL)は、脊椎の椎体の後縁を縦に走る後縦靭帯が骨化し、脊髄を圧迫する進行性の疾患です。この骨化は徐々に進行し、脊髄症の症状を引き起こします。特に、軽微な外傷でも脊髄損傷を起こしやすい点が特徴です。筆者の臨床経験では、転倒をきっかけに急激な麻痺が進行し、診断に至るケースも稀ではありません。後縦靭帯骨化症は、日本人を含む東アジア人に比較的多く見られる疾患であり、厚生労働省の指定難病にも認定されています。診断にはX線検査やCT、MRI検査が用いられ、骨化の範囲や脊髄への影響を評価します。治療は、症状が軽度であれば保存療法が選択されますが、脊髄症状が進行する場合は手術的治療が検討されます。

腰部脊柱管狭窄症・ヘルニアとは?

腰部脊柱管狭窄症と腰椎椎間板ヘルニアは、腰部に発生する代表的な脊椎・脊髄疾患であり、下肢の痛みやしびれ、歩行障害などを引き起こします。

腰部脊柱管狭窄症の症状と治療

腰部脊柱管狭窄症は、加齢に伴う脊椎の変性により、脊柱管(脊髄や神経が通るトンネル)が狭くなることで、神経が圧迫される疾患です。主な症状は、間欠性跛行(かんけつせいはこう)と呼ばれるもので、しばらく歩くと足に痛みやしびれが生じ、休憩すると改善するという特徴があります。また、下肢の脱力感や排尿・排便の異常(膀胱直腸障害)を伴うこともあります。実臨床では、「スーパーで買い物をしていると、途中で足が痛くなって座り込んでしまう」という患者さんが多く見られます。診断は、問診や身体診察に加え、MRI検査によって脊柱管の狭窄度や神経の圧迫状況を評価します。治療は、まず薬物療法や理学療法などの保存療法が試みられます。これらの治療で改善が見られない場合や、症状が進行して日常生活に支障をきたす場合は、手術的治療が検討されます。

腰椎椎間板ヘルニアの診断と管理

腰椎椎間板ヘルニアは、椎間板の一部が飛び出し、脊髄や神経根を圧迫することで、腰痛や下肢の痛み、しびれを引き起こす疾患です。特に20~40代の比較的若い世代に多く見られます。症状は、片側の下肢に放散する激しい痛み(坐骨神経痛)が特徴的で、咳やくしゃみで痛みが強まることもあります。日常診療では、「前かがみになると腰から足にかけて電気が走るような痛みが走る」と訴える患者さまも少なくありません。診断は、身体診察での神経学的所見の確認と、MRI検査によるヘルニアの部位や大きさ、神経圧迫の程度の評価が中心となります。多くの腰椎椎間板ヘルニアは、安静や薬物療法、ブロック注射などの保存療法で数週間から数ヶ月以内に改善するとされています。しかし、麻痺が進行する場合や、膀胱直腸障害を伴う場合は、緊急手術が必要となることもあります。

脊髄腫瘍とは?

脊髄腫瘍が神経を圧迫し、手足の麻痺や感覚障害を引き起こす様子
脊髄腫瘍による神経圧迫

脊髄腫瘍は、脊髄そのものや脊髄を覆う膜、あるいは脊髄の周囲の神経組織から発生する腫瘍です。その種類は多岐にわたり、良性から悪性まで様々です。

脊髄腫瘍の種類と症状

脊髄腫瘍は、発生部位によって大きく3つに分類されます。硬膜外腫瘍は、脊髄を覆う硬膜の外側に発生し、転移性脊椎腫瘍(他の臓器のがんが脊椎に転移したもの)が代表的です。硬膜内髄外腫瘍は、硬膜の内側で脊髄の外側に発生し、髄膜腫や神経鞘腫(シュワン腫)が比較的多く見られます。髄内腫瘍は、脊髄そのものの中に発生し、上衣腫や星細胞腫などが含まれます。脊髄腫瘍の症状は、腫瘍の発生部位や大きさ、進行度によって異なりますが、一般的には、徐々に進行する手足のしびれや脱力感、痛み、歩行障害などが挙げられます。また、排尿・排便のコントロールが難しくなることもあります。筆者の臨床経験では、当初「肩こり」や「腰痛」として整形外科を受診され、なかなか改善しないためMRIを撮影したところ、脊髄腫瘍が見つかるというケースを経験します。早期発見が非常に重要です。

脊髄腫瘍の診断と治療アプローチ

脊髄腫瘍の診断には、詳細な神経学的診察に加え、MRI検査が不可欠です。MRIは、腫瘍の位置、大きさ、脊髄との関係を詳細に描出することができ、造影剤を使用することで腫瘍の性質をある程度推測することも可能です。また、必要に応じてCT検査や脊髄造影、生検が行われることもあります。治療の第一選択は、可能な限り腫瘍を摘出する手術です。良性腫瘍であれば、全摘出により根治が期待できます。悪性腫瘍や全摘出が困難な場合は、放射線治療や化学療法が併用されることもあります。手術の目的は、脊髄の圧迫を取り除き、神経症状の改善や進行の抑制を図ることです。実際の診療では、腫瘍の種類や患者さんの全身状態、症状の進行度などを総合的に判断し、最適な治療計画を立てることが重要になります。

脊椎・脊髄疾患のその他

脊椎・脊髄疾患には、上記の代表的な疾患以外にも、感染症、炎症性疾患、先天性疾患など、多岐にわたる病態が含まれます。これらの疾患も、適切な診断と治療が不可欠です。

脊椎・脊髄の感染症

脊椎や脊髄に細菌やウイルスが感染することで炎症を起こす疾患です。代表的なものに、脊椎炎、脊髄炎、硬膜外膿瘍などがあります。これらの感染症は、発熱や背中の痛み、神経症状(手足のしびれや麻痺)などを引き起こします。特に、硬膜外膿瘍は急速に神経症状が進行し、緊急手術が必要となることもあるため注意が必要です[4]。感染経路としては、血液を介して他の部位の感染が広がる場合や、手術後の合併症として生じる場合があります。診断には、血液検査での炎症反応の確認、MRI検査による病変部位の特定が重要です。治療は、抗菌薬の投与が基本ですが、膿瘍形成や神経症状の進行がある場合は、外科的ドレナージ(膿を排出する手術)や減圧術が検討されます。

自己免疫疾患と脊髄炎

自己免疫疾患の中には、脊髄に炎症を引き起こすものがあります。例えば、多発性硬化症や視神経脊髄炎(NMO)、全身性エリテマトーデス(SLE)などです。これらの疾患では、自己の免疫システムが誤って脊髄を攻撃することで、脊髄炎を発症します。症状は、急性の手足のしびれや麻痺、感覚障害、排尿・排便障害など様々です。診断には、MRI検査で脊髄の病変を確認するほか、血液検査で自己抗体の有無を調べたり、髄液検査を行ったりします[1]。治療は、ステロイドパルス療法などの免疫抑制療法が中心となります。臨床経験上、自己免疫性脊髄炎は症状の再発を繰り返すことがあり、長期的な管理が重要となります。

先天性疾患と脊髄損傷

先天性疾患の中にも、脊髄に影響を及ぼすものがあります。例えば、脊髄髄膜瘤(二分脊椎の一種)や脊髄空洞症などです。脊髄髄膜瘤は、胎児期の脊髄の発育異常により、脊髄が体外に露出したり、神経組織が脊柱管内に閉じ込められずに突出したりする病態です。これにより、下肢の麻痺や感覚障害、膀胱直腸障害などが生じます。脊髄空洞症は、脊髄の中に液体が貯留する空洞ができる疾患で、進行すると痛みや感覚障害、筋力低下などを引き起こします。これらの疾患の診断には、出生前の超音波検査や出生後のMRI検査が有用です[3]。治療は、病態に応じて手術的治療が検討されますが、症状の進行を抑えることや、リハビリテーションによる機能維持が重要となります。

脊柱管
脊椎の椎骨が連なってできるトンネル状の管で、この中に脊髄や神経根が通っています。
椎間板
脊椎の椎骨と椎骨の間にあるクッション材で、衝撃を吸収し、脊椎の柔軟性を保つ役割を担っています。

脊椎・脊髄疾患の最新コラム・症例報告

脊椎・脊髄疾患の最新治療法や症例報告が掲載された専門誌
脊椎・脊髄疾患の最新情報

脊椎・脊髄疾患の診断と治療は日々進化しており、新たな知見や治療法が報告されています。ここでは、最新の動向や注目すべき症例についてご紹介します。

画像診断技術の進歩

脊椎・脊髄疾患の診断において、画像診断技術の進歩は目覚ましいものがあります。特にMRI(磁気共鳴画像)は、脊髄や神経、椎間板などの軟部組織を鮮明に描出できるため、脊髄腫瘍、脊髄炎、椎間板ヘルニアなどの診断に不可欠です。近年では、高磁場MRIの導入や、拡散テンソル画像(DTI)などの機能的MRI技術の発展により、脊髄の微細な変化や神経線維の走行まで評価できるようになってきました。これにより、病変の早期発見や、より正確な病態把握が可能となり、治療方針の決定に大きく貢献しています[2]。外来診療では、MRI画像を患者さんと一緒に確認しながら、病状や治療の必要性を具体的に説明することで、理解を深めていただくよう努めています。

低侵襲手術の普及

脊椎手術の分野では、患者さんの身体的負担を軽減する低侵襲手術が広く普及しています。顕微鏡や内視鏡を用いた手術、経皮的椎体形成術(BKP)などがその代表例です。これらの手術は、小さな切開で手術を行うため、術後の痛みが少なく、回復が早いという利点があります。特に、高齢の患者さんや合併症を持つ患者さんにとって、低侵襲手術は大きな福音となっています。ただし、全ての脊椎・脊髄疾患に適用できるわけではなく、病態や患者さんの状態に応じて最適な術式を選択することが重要です。筆者の臨床経験では、低侵襲手術によって早期に社会復帰を果たし、生活の質が向上した患者さんの笑顔を見ると、この分野の進歩を強く実感します。

再生医療と脊髄損傷

脊髄損傷は、重篤な神経機能障害を引き起こし、患者さんのQOL(生活の質)を著しく低下させる疾患です。現在、脊髄損傷に対する有効な治療法は限られていますが、再生医療の分野で新たな研究が進められています。幹細胞移植や遺伝子治療、神経再生を促す薬剤の開発などがその例です。これらの研究はまだ臨床応用段階には至っていませんが、将来的に脊髄損傷の治療に革命をもたらす可能性を秘めています。実際の診療では、脊髄損傷の患者さんに対して、最新の研究動向を伝えつつ、現状で可能な最善のリハビリテーションと機能回復訓練を提供することが重要です。

疾患名主な症状主な治療法
頚椎症性脊髄症手指の巧緻運動障害、歩行障害保存療法、手術(椎弓形成術など)
腰部脊柱管狭窄症間欠性跛行、下肢のしびれ・痛み保存療法、手術(除圧術など)
腰椎椎間板ヘルニア腰痛、坐骨神経痛、下肢のしびれ保存療法、手術(ヘルニア摘出術など)
脊髄腫瘍進行性の神経症状(麻痺、しびれ、痛み)手術、放射線治療、化学療法

まとめ

脊椎・脊髄疾患は、首から腰にかけての痛み、手足のしびれや麻痺、歩行障害、排尿・排便の異常など、多岐にわたる症状を引き起こし、日常生活に大きな影響を与える可能性があります。頚椎症や後縦靭帯骨化症、腰部脊柱管狭窄症、腰椎椎間板ヘルニアといった変性疾患が多数を占める一方で、脊髄腫瘍、感染症、自己免疫疾患、先天性疾患など、その原因は多種多様です。正確な診断には、詳細な問診と身体診察、そしてMRIをはじめとする画像診断が不可欠です。治療は、症状の程度や病態に応じて、薬物療法や理学療法などの保存療法から、低侵襲手術を含む外科的治療まで、様々な選択肢があります。早期に専門医を受診し、適切な診断と治療を受けることが、症状の改善や進行の抑制、生活の質の維持・向上につながります。

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よくある質問(FAQ)

脊椎・脊髄疾患の初期症状にはどのようなものがありますか?
初期症状は疾患によって異なりますが、一般的には首や腰の痛み、手足のしびれ、脱力感、歩行時のふらつきなどが挙げられます。特に、しびれや痛みが徐々に悪化する場合や、手足の動きが悪くなる場合は、早めに医療機関を受診することをお勧めします。
脊椎・脊髄疾患の診断はどのように行われますか?
問診で症状の詳細を伺い、身体診察で神経学的所見を確認します。その後、X線検査、CT検査、特に脊髄や神経の評価に優れたMRI検査が行われます。必要に応じて、血液検査や髄液検査、神経伝導検査などが追加されることもあります。
手術以外の治療法はありますか?
はい、多くの脊椎・脊髄疾患ではまず保存療法が検討されます。これには、薬物療法(痛み止め、神経障害性疼痛治療薬など)、理学療法(運動療法、牽引療法など)、装具療法、神経ブロック注射などが含まれます。これらの治療で症状が改善しない場合や、神経症状が進行する場合は手術が検討されます。
この記事の監修
👨‍⚕️
高口直人
脳神経内科医
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