- ✓ ピコフラクショナルレーザーは、従来のレーザー治療と比較して肌への負担が少なく、ダウンタイムが短いのが特徴です。
- ✓ 極めて短いパルス幅で真皮層に微細な空洞(LIOB)を形成し、コラーゲンやエラスチンの生成を促進することでニキビ跡を改善します。
- ✓ 従来のフラクショナルCO2レーザーと同等以上の効果が期待できる一方で、炎症後色素沈着のリスクが低いとされています。
ニキビ跡の治療は、多くの患者さんにとって深刻な悩みの一つです。特に凹凸のあるクレーター状のニキビ跡は、セルフケアでは改善が難しく、専門的な治療が必要となります。近年、このニキビ跡治療において注目されているのが「ピコフラクショナルレーザー」です。従来のレーザー治療と比較して、どのような違いがあり、どのような効果が期待できるのでしょうか。専門医の立場から、そのメカニズムと特徴、そして実際の臨床での経験を交えながら解説します。
ピコフラクショナルレーザーとは?その基本的なメカニズム

ピコフラクショナルレーザーは、ニキビ跡治療に用いられる最新のレーザー治療法の一つです。従来のレーザーとは異なる「ピコ秒」という極めて短いパルス幅(1兆分の1秒)でレーザーを照射します。この短いパルス幅が、肌への負担を最小限に抑えつつ、高い治療効果を発揮する鍵となります。
ピコ秒とは?
- ピコ秒(picosecond)
- 時間の単位で、1兆分の1秒(10-12秒)を指します。従来のナノ秒(10億分の1秒)レーザーと比較して、さらに短い時間でレーザー光を照射できるのが特徴です。
ピコフラクショナルレーザーは、この短いパルス幅によって、熱ではなく「光音響効果」というメカニズムで真皮層にアプローチします。レーザー光が皮膚深部に到達すると、そこで微細な衝撃波を発生させ、組織内に「LIOB(Laser-Induced Optical Breakdown)」と呼ばれる微小な空洞を形成します。このLIOBが、皮膚の自然治癒力を刺激し、コラーゲンやエラスチンの生成を促進することで、ニキビ跡の凹凸を改善に導くのです。
実臨床では、この光音響効果による治療は、従来の熱作用を主体とするレーザー治療に比べて、施術中の痛みや術後の赤みが少ないと感じる患者さんが多い印象です。特に痛みに敏感な方や、ダウンタイムを短くしたいと希望される方には、この特性が大きなメリットとなります。
従来のレーザー治療との違いは何ですか?
ピコフラクショナルレーザーの最大の特徴は、従来のレーザー治療、特にフラクショナルCO2レーザーやフラクショナルエルビウムヤグレーザーと比較した際の「肌への優しさ」と「ダウンタイムの短さ」にあります。ここでは、主な違いを比較表で示します。
| 項目 | ピコフラクショナルレーザー | 従来のフラクショナルレーザー(CO2など) |
|---|---|---|
| パルス幅 | ピコ秒(1兆分の1秒) | ナノ秒、ミリ秒 |
| 作用機序 | 光音響効果によるLIOB形成 | 熱作用による組織の蒸散・凝固 |
| 肌へのダメージ | 少ない(熱損傷が少ない) | 大きい(熱損傷が大きい) |
| ダウンタイム | 短い(数時間〜数日程度の赤み・腫れ) | 長い(1週間程度の赤み・かさぶた) |
| 色素沈着リスク | 低い | やや高い(特に色黒の肌) |
| 効果 | ニキビ跡、毛穴、肌質改善 | ニキビ跡、深いシワ、肌の引き締め |
従来のフラクショナルCO2レーザーは、皮膚の表面に微細な穴を開け、熱エネルギーによって組織を蒸散させることで、皮膚の再生を促します。この方法は高い効果が期待できる一方で、ダウンタイムが長く、施術後の赤みや腫れ、かさぶたが1週間程度続くことが一般的でした。また、熱によるダメージが大きいため、炎症後色素沈着(PIH)のリスクも比較的高く、特にアジア人の肌では注意が必要でした。
一方でピコフラクショナルレーザーは、熱作用をほとんど起こさずに真皮層にアプローチするため、肌表面へのダメージが少なく、ダウンタイムも短いのが特徴です。施術後の赤みや腫れは数時間から数日で落ち着くことが多く、日常生活への影響を最小限に抑えられます。複数の研究でも、ピコフラクショナルレーザーが従来のCO2レーザーと同等以上のニキビ跡改善効果を示しつつ、炎症後色素沈着のリスクが低いことが報告されています[2][3]。
日常診療では、「仕事があるので長い休みが取れない」「施術後にメイクができない期間は困る」と相談される方が少なくありません。ピコフラクショナルレーザーは、そうした患者さんのニーズに応えやすい治療法だと感じています。
ピコフラクショナルレーザーのニキビ跡への効果は?

ピコフラクショナルレーザーは、特に凹凸のあるアトロフィック(萎縮性)ニキビ跡に対して効果が期待できます。LIOBの形成によって真皮層でコラーゲンやエラスチンの生成が促進されることで、皮膚の再生が促され、凹んだ部分が持ち上がるように改善されていきます。
どのようなニキビ跡に効果的ですか?
- アイスピック型:毛穴のように深く小さい凹み
- ボックスカー型:底が平らで四角い凹み
- ローリング型:なだらかな波状の凹み
これらのニキビ跡は、真皮層のコラーゲン組織が破壊されたり、線維化したりすることで生じます。ピコフラクショナルレーザーは、これらの組織を再構築する作用があるため、改善が期待できます。また、ニキビ跡だけでなく、毛穴の開きや肌のハリ、小じわの改善といった肌質全体の向上にも寄与するとされています[4]。
筆者の臨床経験では、治療開始から3〜4ヶ月ほどで、肌のなめらかさや凹凸の改善を実感される方が多いです。特にローリング型やボックスカー型のニキビ跡では、複数回の治療を重ねることで、目に見える変化を感じられるケースを多く経験します。
ニキビ跡のタイプや深さには個人差が大きく、一度の治療で完全に治るわけではありません。多くの場合、複数回の治療と継続的なケアが必要です。治療計画については、医師と十分に相談し、ご自身の肌の状態に合った治療法を選択することが重要です。
治療の進め方と注意点は?
ピコフラクショナルレーザー治療は、通常、複数回の施術を重ねることで効果を実感しやすくなります。具体的な治療回数や間隔は、ニキビ跡の状態や肌質によって異なりますが、一般的には3〜5回程度の施術を3〜4週間おきに行うことが多いです。
治療の一般的な流れ
- カウンセリング・診察:医師がニキビ跡の状態を評価し、治療の適応や期待できる効果、リスクについて説明します。患者さんの肌質やライフスタイルに合わせた治療計画を立てます。
- 施術:洗顔後、必要に応じて麻酔クリームを塗布します。レーザーを照射し、治療時間は顔全体で10〜20分程度です。
- アフターケア:施術後は冷却し、保湿剤や日焼け止めを塗布します。赤みや腫れがある場合は、数日で自然に落ち着きます。
- 経過観察:次回の施術までに肌の状態を確認し、効果や副作用の有無を評価します。
診察の場では、「施術後の赤みはどれくらい続きますか?」「いつからメイクできますか?」と質問される患者さんも多いです。ピコフラクショナルレーザーの場合、多くは数時間から翌日には赤みが引き、翌日からメイクが可能な場合がほとんどです。しかし、肌質や出力によっては数日程度の赤みや腫れが続くこともありますので、施術前の説明をよく聞くことが大切です。
副作用やリスクはありますか?
ピコフラクショナルレーザーは比較的安全性の高い治療ですが、全くリスクがないわけではありません。起こりうる副作用としては、以下のようなものがあります。
- 赤み、腫れ:施術直後から数時間〜数日間続くことがあります。
- 内出血:稀に点状の内出血が生じることがありますが、数日で吸収されます。
- かさぶた:ごく稀に、微細なかさぶたができることがありますが、自然に剥がれ落ちます。
- 炎症後色素沈着(PIH):従来のレーザーに比べてリスクは低いですが、全くないわけではありません。特に日焼け後や肌の色が濃い方は注意が必要です。
これらの副作用を最小限に抑えるためには、施術後の適切な保湿と徹底した紫外線対策が非常に重要です。日常診療では、施術後のスキンケアについて丁寧に説明し、日焼け止めや保湿剤の使用を強く推奨しています。また、効果を最大化し、副作用を避けるためには、適切な出力設定が重要であり、医師の経験と技術が問われる部分でもあります。例えば、同じピコ秒レーザーでも、低出力と高出力では効果に差があるという研究報告もあります[1]。
ピコフラクショナルレーザーが向いている人・向いていない人

ピコフラクショナルレーザーは多くのニキビ跡に有効ですが、すべての人に最適な治療法とは限りません。ご自身の状態と照らし合わせて、適応を検討することが重要です。
治療が向いている人
- 凹凸のあるクレーター状のニキビ跡に悩んでいる方
- ダウンタイムを短くしたい方
- 従来のレーザー治療で色素沈着が心配だった方
- 毛穴の開きや肌のハリも同時に改善したい方
- 複数回の治療を継続できる方
治療が向いていない可能性のある人
- 現在、活動性のニキビや炎症が強い皮膚疾患がある方
- ケロイド体質の方
- 妊娠中または授乳中の方
- 光過敏症の方、または光感受性を高める薬剤を服用している方
- 日焼けをしている、または施術後に日焼けの可能性がある方
臨床現場では、患者さんの期待値と実際の治療効果のすり合わせが非常に重要になります。特に重度のニキビ跡の場合、ピコフラクショナルレーザー単独ではなく、他の治療法(サブシジョン、ピーリング、注入療法など)との組み合わせを検討することもあります。患者さんの肌の状態、生活習慣、治療への期待を総合的に判断し、最適な治療プランを提案することが専門医の役割だと考えています。
まとめ
ピコフラクショナルレーザーは、ニキビ跡治療の分野において、従来のレーザー治療の課題を克服し、より安全で効果的な選択肢として登場しました。極めて短いピコ秒パルスによって、熱ダメージを抑えつつ真皮層のコラーゲン生成を促進し、ニキビ跡の凹凸や肌質を改善します。
従来のフラクショナルCO2レーザーと比較して、ダウンタイムが短く、炎症後色素沈着のリスクが低いという大きなメリットがあります。これにより、日常生活への影響を最小限に抑えながら、ニキビ跡の悩みにアプローチできるようになったと言えるでしょう。ただし、効果には個人差があり、複数回の治療が必要となること、また適切なアフターケアが重要であることは変わりません。ニキビ跡の治療を検討されている方は、まず皮膚科専門医に相談し、ご自身の肌の状態に合った最適な治療計画を立てることが大切です。
よくある質問(FAQ)
- Si-Hyung Lee, Dong Hyo Kim, Seong Jin Jo et al.. The efficacy and safety of low- versus high-fluence fractional picosecond Nd:YAG 1064-nm laser in the treatment of acne scars: A randomized split-face comparison study.. Photodermatology, photoimmunology & photomedicine. 2024. PMID: 37898983. DOI: 10.1111/phpp.12922
- Punyaphat Sirithanabadeekul, Ploypailin Tantrapornpong, Bheeratida Rattakul et al.. Comparison of Fractional Picosecond 1064-nm Laser and Fractional Carbon Dioxide Laser for Treating Atrophic Acne Scars: A Randomized Split-Face Trial.. Dermatologic surgery : official publication for American Society for Dermatologic Surgery [et al.]. 2021. PMID: 32910030. DOI: 10.1097/DSS.0000000000002572
- Yucheng Yuan, Yizhen He, Jing Fang et al.. Comparison of the fractionated Nd: YAG 1064-nm picosecond laser with holographic optics and the fractional CO2 laser in atrophic acne scar treatment: a prospective, randomized, split-face study.. International journal of dermatology. 2024. PMID: 38924534. DOI: 10.1111/ijd.17296
- Pamela Chayavichitsilp, Preeyachat Limtong, Korn Triyangkulsri et al.. Comparison of fractional neodymium-doped yttrium aluminum garnet (Nd:YAG) 1064-nm picosecond laser and fractional 1550-nm erbium fiber laser in facial acne scar treatment.. Lasers in medical science. 2020. PMID: 31646393. DOI: 10.1007/s10103-019-02891-5

