- ✓ プラセンタ注射は更年期障害や肝機能障害の治療に保険適用があり、美容や疲労回復にも期待されます。
- ✓ 日本で承認されている医薬品はラエンネックとメルスモンの2種類で、それぞれ特徴と適応が異なります。
- ✓ 治療を受ける際は、効果だけでなく副作用や献血制限などのリスクを理解し、医師と十分に相談することが重要です。
プラセンタ注射は、ヒトの胎盤から抽出した成分を体内に注入する治療法であり、その多岐にわたる効果から近年注目を集めています。特に更年期障害や慢性肝疾患の治療薬として保険適用が認められている他、美容や疲労回復、免疫力向上といった目的で自由診療としても利用されています。しかし、その効果や安全性、そしてラエンネックとメルスモンという主要な製剤の違いについて、正確な情報を理解している方は少ないかもしれません。
プラセンタとは?その歴史とメカニズム

プラセンタとは、胎盤を意味する言葉であり、胎児の成長に必要な栄養や酸素を供給し、老廃物を排出する重要な臓器です。プラセンタ注射に用いられる製剤は、この胎盤から抽出された様々な生理活性物質を含んでいます。古くから、胎盤は滋養強壮や美容に良いとされ、世界各地で利用されてきました[3]。現代医療においては、科学的にその成分が研究され、医薬品として応用されています。
プラセンタ製剤の成分と作用機序
プラセンタ製剤には、アミノ酸、ビタミン、ミネラル、酵素、核酸、成長因子(グロースファクター)など、多種多様な成分が含まれています。これらの成分が複合的に作用することで、以下のような効果が期待されています。
- 細胞の活性化・修復促進: 成長因子が細胞分裂を促進し、組織の修復を助けます。
- 抗炎症作用: 炎症を抑え、組織のダメージを軽減します。
- 免疫調整作用: 免疫細胞の働きを調整し、体の抵抗力を高めます。
- 血行促進作用: 血管を拡張し、血流を改善します[4]。
- 抗酸化作用: 活性酸素を除去し、細胞の老化を防ぎます。
- メラニン生成抑制作用: メラニン合成に関わる酵素の働きを調整し、シミやくすみを軽減します[2]。
これらの作用は、プラセンタ製剤の製造方法や成分構成によっても異なることが指摘されています[1]。
- 成長因子(グロースファクター)
- 体内の特定の細胞の増殖や分化を促進するタンパク質の総称です。細胞の再生や修復、組織の成長に重要な役割を果たします。
プラセンタ注射の具体的な効果とは?
プラセンタ注射は、その多様な作用機序から、幅広い症状や目的に対して効果が期待されています。実臨床では、特に「疲労感がなかなか取れない」「更年期の症状で日常生活に支障が出ている」といった訴えで受診される方が多く見られます。
保険適用される主な効果
日本では、以下の疾患に対してプラセンタ注射が保険適用されています。
- 更年期障害: 女性ホルモンの減少によって生じるのぼせ、発汗、冷え、肩こり、不眠、イライラなどの症状の緩和に効果が期待されます。ホルモンバランスを整える作用や自律神経の調整作用が関与すると考えられています。
- 乳汁分泌不全: 出産後の母乳の出が悪い場合に、乳汁分泌を促進する目的で用いられることがあります。
- 慢性肝疾患における肝機能の改善: 肝細胞の再生促進や抗炎症作用により、肝機能マーカー(AST, ALTなど)の改善が期待されます。
これらの疾患に対しては、医師の診断に基づき、保険診療としてプラセンタ注射を受けることが可能です。日常診療では、更年期障害で「ホットフラッシュが楽になった」「夜よく眠れるようになった」と改善を実感される患者さまも少なくありません。
自由診療で期待される効果
保険適用外の目的で、プラセンタ注射は自由診療として提供されています。これらの効果は、まだ確立された医学的エビデンスが十分ではないものもありますが、多くの患者さんがその恩恵を感じています。
- 疲労回復・倦怠感の改善: 全身の細胞を活性化し、新陳代謝を促進することで、慢性的な疲労感や倦怠感の軽減が期待されます。
- 美肌効果: メラニン生成抑制作用[2]、抗酸化作用、細胞活性化作用により、シミ、しわ、たるみの改善、肌のハリや潤いの向上、ニキビの炎症抑制などが期待されます。
- アレルギー症状の緩和: 免疫調整作用により、アトピー性皮膚炎や花粉症などのアレルギー症状の軽減が報告されることがあります。
- 肩こり・腰痛の改善: 血行促進作用や抗炎症作用により、筋肉の緊張緩和や痛みの軽減が期待されます。
- 免疫力向上: 免疫細胞の活性化により、風邪をひきにくくなる、体調を崩しにくくなるといった効果が期待されます。
- 冷え性の改善: 血行促進作用により、冷え性の症状緩和が期待されます。
筆者の臨床経験では、治療開始から1〜2ヶ月ほどで、特に疲労感の軽減や肌の調子の改善を実感される方が多い印象です。ただし、効果の現れ方には個人差が非常に大きいと感じています。
プラセンタ注射の種類:ラエンネックとメルスモンの違いとは?

日本で厚生労働省の承認を受けているヒト胎盤由来のプラセンタ製剤は、「ラエンネック」と「メルスモン」の2種類です。これらはどちらも注射薬ですが、適応疾患や製造方法、成分に若干の違いがあります。
| 項目 | ラエンネック | メルスモン |
|---|---|---|
| 保険適用 | 慢性肝疾患における肝機能の改善 | 更年期障害、乳汁分泌不全 |
| 主な作用 | 肝機能改善、抗炎症、組織修復 | ホルモンバランス調整、自律神経調整、美肌 |
| 製造方法 | 塩酸加水分解法 | 酵素分解法 |
| 特徴 | 成長因子を多く含むとされる | アミノ酸やペプチドを多く含むとされる |
| 投与経路 | 皮下注射、筋肉内注射 | 皮下注射 |
ラエンネックの特徴
ラエンネックは、主に慢性肝疾患における肝機能の改善を目的として保険適用されています。製造過程で塩酸加水分解法という方法が用いられ、これにより成長因子などの有効成分が比較的多く含まれると考えられています。このため、細胞の再生や組織の修復作用が期待され、美容目的では肌のターンオーバー促進やエイジングケアに用いられることが多いです。臨床現場では、特に「肝臓の数値が気になる」「肌のハリがなくなってきた」といった相談を受ける際に、ラエンネックを検討することがあります。
メルスモンの特徴
メルスモンは、更年期障害と乳汁分泌不全に対して保険適用があります。製造過程では酵素分解法が用いられ、アミノ酸やペプチドが豊富に含まれるとされています。これにより、ホルモンバランスの調整や自律神経の安定化に寄与すると考えられており、更年期症状の緩和に特に有効とされています。また、美肌効果としては、保湿作用や抗炎症作用が期待され、乾燥肌や敏感肌の方にも選ばれることがあります。診察の場では、「更年期の症状で体がだるい」「精神的に不安定になる」と質問される患者さんも多く、メルスモンが選択肢の一つとなります。
どちらの製剤も、自由診療では幅広い目的で用いられますが、それぞれの特徴を理解し、自身の症状や目的に合わせて医師と相談することが重要です。
プラセンタ注射の安全性と副作用、注意点
プラセンタ注射は一般的に安全性が高いとされていますが、医薬品である以上、副作用や注意すべき点が存在します。実際の診療では、患者さんから「副作用はありますか?」「献血はできなくなりますか?」といった質問をよく受けます。
主な副作用
- 注射部位の痛み・腫れ・内出血: 注射後に一時的に起こることがあります。
- アレルギー反応: 発疹、かゆみ、発熱などが稀に起こることがあります。重篤なアナフィラキシーショックは極めて稀ですが、可能性はゼロではありません。
- 肝機能障害: ごく稀に肝機能値の上昇が報告されることがあります。
- 頭痛、吐き気: 一時的に生じることがあります。
これらの副作用はほとんどが軽度で一時的なものですが、症状が続く場合や悪化する場合は速やかに医師に相談してください。臨床経験上、注射部位の痛みや内出血は比較的よく見られますが、数日で自然に消失することがほとんどです。
プラセンタ注射は、ヒト由来の製剤であるため、感染症のリスクが完全にゼロとは言い切れません。現在の製剤は、厳格なウイルススクリーニングや滅菌処理が行われており、過去に感染症が報告された事例はありませんが、厚生労働省の指導により、プラセンタ注射を受けた方は献血ができなくなります。この点については、治療を受ける前に必ず理解しておく必要があります。
投与頻度と継続期間はどのくらいが適切?
プラセンタ注射の投与頻度や継続期間は、目的や症状、個人の反応によって異なります。保険適用の場合、更年期障害では週に1〜2回、慢性肝疾患では毎日または週に数回など、疾患に応じて定められた投与頻度があります。
自由診療の場合、一般的には週に1〜2回から開始し、効果を実感できたら週に1回、または2週に1回と間隔を空けていくことが多いです。効果の持続期間には個人差がありますが、継続することでより安定した効果が期待できます。実際の診療では、患者さんのライフスタイルや経済的な負担も考慮し、無理なく続けられる頻度を一緒に決めていくことが大切です。
プラセンタ注射を受ける際の診療フローと費用
プラセンタ注射を受けることを検討している場合、どのような流れで診療が進むのか、費用はどのくらいかかるのかを知っておくことは重要です。外来診療では、「初めてだけどどうすればいいですか?」と相談される方が増えています。
一般的な診療の流れ
- 問診・診察: まず、医師による問診と診察が行われます。現在の症状、既往歴、アレルギーの有無、内服薬などを詳しく確認します。特に、保険適用を希望する場合は、更年期障害や慢性肝疾患の診断基準を満たしているかを確認します。
- 説明と同意: プラセンタ注射の効果、副作用、献血制限などの注意点について、医師から詳細な説明があります。内容を十分に理解し、納得した上で治療の同意書に署名します。
- 注射の実施: 医師または看護師が、皮下または筋肉内に注射を行います。注射部位は、腕やお尻などが一般的です。
- 経過観察: 注射後は、体調に変化がないか、副作用が出ていないかを確認します。次回以降の治療計画についても相談します。
オンライン診療では、問診で現在の症状や既往歴、アレルギーの有無などを詳細に確認し、プラセンタ注射が適切かどうかを判断します。特に、保険適用を希望される場合は、対面での診察や検査が必要となる場合があります。処方の判断基準としては、患者さんの訴え、症状の程度、他の治療法の有無などを総合的に考慮します。
費用について
- 保険診療の場合: 更年期障害や慢性肝疾患で保険適用となる場合、1回あたりの費用は数百円〜千円程度(3割負担の場合)と比較的安価です。ただし、初診料や再診料、検査費用が別途かかります。
- 自由診療の場合: 美容や疲労回復目的で受ける場合、全額自己負担となります。医療機関によって費用は異なりますが、一般的に1回あたり1,000円〜3,000円程度が目安です。複数回セットでの割引や、他の治療との組み合わせで提供されることもあります。
費用は医療機関や投与する製剤、本数によって大きく異なるため、事前に確認することをおすすめします。臨床現場では、継続的な治療となるため、費用面についても患者さんとしっかり話し合い、納得して治療を受けていただくことを重視しています。
プラセンタ注射以外のプラセンタ製品は効果がある?

プラセンタは注射薬だけでなく、サプリメントや化粧品など、様々な形態で市場に出回っています。これらの製品と注射薬では、効果や吸収率に違いがあるのでしょうか。
経口摂取のプラセンタサプリメント
プラセンタサプリメントは、手軽に摂取できるため人気がありますが、注射薬とは作用機序が大きく異なります。サプリメントの場合、経口摂取されたプラセンタ成分は消化管で消化酵素によって分解されるため、そのままの形で体内に吸収されることはほとんどありません。アミノ酸やペプチドとして吸収され、間接的に体内の栄養補給や細胞活性化をサポートする可能性はありますが、注射薬のように直接的に有効成分を届ける効果は期待しにくいと考えられます。
ただし、サプリメントの種類によっては、消化されにくいように工夫されたものや、他の美容成分と組み合わせたものもあります。筆者の臨床経験では、サプリメントと注射を併用することで、より効果を実感される方もいらっしゃいますが、サプリメント単独での効果は注射に比べて穏やかであると説明しています。
プラセンタ配合の化粧品
プラセンタ配合の化粧品は、肌の表面に塗布することで、保湿効果や肌のターンオーバー促進、抗炎症作用などが期待されます。特に、メラニン生成抑制作用[2]により、シミやくすみのケアに用いられることもあります。しかし、化粧品は肌の深層部まで浸透するわけではないため、注射薬のような全身的な効果や、より深い層への作用は期待できません。
あくまで肌の表面的なケアや、肌のバリア機能のサポートを目的とした補助的なものとして捉えるのが適切でしょう。実際の診療では、「化粧品だけでは物足りない」と感じて注射を検討される患者さんも多く、どちらか一方ではなく、それぞれの特性を理解して使い分けることが大切です。
まとめ
プラセンタ注射は、更年期障害や慢性肝疾患に保険適用がある医薬品であり、その多岐にわたる生理活性作用から、美容や疲労回復など自由診療の領域でも広く利用されています。日本で承認されている製剤にはラエンネックとメルスモンがあり、それぞれ保険適応や特徴が異なります。治療を受ける際は、効果だけでなく、献血制限などの注意点や副作用について十分に理解し、医師と相談の上で選択することが重要です。効果の現れ方や持続期間には個人差があるため、自身の症状や目的に合わせて、適切な製剤と投与頻度を検討しましょう。
よくある質問(FAQ)
- Yikelamu Alimu, Takeshi Yamamoto, Yasukazu Nakahata. Biological effects of human placental extracts – variations in manufacturing methods and compositions.. Frontiers in pharmacology. 2025. PMID: 41451368. DOI: 10.3389/fphar.2025.1707890
- Satoshi Yoshimoto, Yoshiaki Ohagi, Moemi Yoshida et al.. Placental extracts regulate melanin synthesis in normal human melanocytes with alterations of mitochondrial respiration.. Experimental dermatology. 2020. PMID: 30698880. DOI: 10.1111/exd.13824
- J A LORAINE. Placental extracts.. The Journal of obstetrics and gynaecology of the British Empire. 2004. PMID: 15404919
- T Matsumoto, Y Sugiyama, K Deguchi et al.. An ADPase-like substance in placental extracts.. Asia-Oceania journal of obstetrics and gynaecology. 1991. PMID: 2088251. DOI: 10.1111/j.1447-0756.1990.tb00237.x
- プロトピック(タクロリムス)添付文書(JAPIC)
- リンデロン-V(ベタメタゾン)添付文書(JAPIC)
- ロコイド(ヒドロコルチゾン)添付文書(JAPIC)
- ディフェリン(アダパレン)添付文書(JAPIC)
- ベピオ(過酸化ベンゾイル)添付文書(JAPIC)
- ダラシン(クリンダマイシン)添付文書(JAPIC)

