糖尿病治療薬は、血糖値だけを見て一律に選ぶものではありません。糖尿病の型、インスリン分泌と抵抗性、低血糖の危険、心不全・腎臓病・動脈硬化性疾患、年齢、体重、生活、費用や服薬のしやすさまで確認し、利益と負担のバランスを考えて選びます。
重い低血糖や糖尿病性ケトアシドーシスなどの可能性があります。本人だけで運転せず、救急要請を含め直ちに医療機関へ連絡してください。意識が悪い人へ無理に飲食物を与えないでください。

糖尿病治療薬はどう選ぶ?
「最も新しい薬」「最も血糖値が下がる薬」を全員へ使うのではなく、糖尿病の型と病態を確認し、安全性、心臓・腎臓などの合併症、体重、年齢、生活、費用、本人の希望を踏まえて選びます。効果と副作用を一定期間で再評価し、必要なら用量・薬剤・組み合わせを見直します。
日本糖尿病学会の2型糖尿病薬物療法アルゴリズムは、まずインスリンの絶対的適応や高血糖による代謝失調がないかを確認し、そのうえで病態に応じた選択、安全性への配慮、併存症に対する薬剤の付加的な効果、生活背景などを順に検討する枠組みを示しています。薬効群の順位を固定するものではありません。
同じ薬効群でも、製品ごとに適応、用法・用量、腎機能や肝機能による制限、併用時の注意が異なります。この記事は全体像を整理するもので、処方の変更や中止を勧めるものではありません。実際には、最新の添付文書と診察結果に基づいて判断します。
1型・2型・妊娠糖尿病で治療は異なる
1型糖尿病:インスリン補充が治療の中心
1型糖尿病では、膵臓からのインスリン分泌が著しく低下するため、原則として継続的なインスリン補充が必要です。食事がとれない日でも、基礎インスリンを含めた対応を自己判断で一律に中止すると、著しい高血糖やケトアシドーシスにつながるおそれがあります。血糖測定、必要に応じたケトン体確認、低血糖時の補食、シックデイの連絡基準を個別に決めておきます。
2型糖尿病:生活療法と薬物療法を組み合わせる
2型糖尿病では、インスリンが出にくい状態と効きにくい状態がさまざまな割合で重なります。食事・身体活動・睡眠・禁煙などの生活療法を土台にしつつ、血糖値と合併症リスクに応じて内服薬、注射薬、インスリンを検討します。生活療法だけで十分に改善しないことは本人の意思の弱さを意味せず、必要な時期に薬物療法を始めることが将来の合併症予防に重要です。
妊娠糖尿病・その他の糖尿病
妊娠中は母体と胎児への影響を考え、妊娠していない成人とは異なる目標と薬剤選択が必要です。また、膵疾患、内分泌疾患、薬剤、遺伝的要因などに関連する糖尿病もあります。妊娠の予定や可能性、授乳、ステロイド治療などは、薬を始める前に必ず伝えます。
2型糖尿病の薬を選ぶ4つの視点
1.インスリンが直ちに必要な状態か
著しい高血糖と口渇・多尿・体重減少、ケトーシス、重い感染症、手術前後、妊娠などでは、インスリンを含む迅速な治療が必要になる場合があります。検査値だけでなく症状と全身状態を評価し、外来でよいか、入院を含む対応が必要かを判断します。
2.インスリン分泌低下と抵抗性をどう考えるか
体格、発症経過、血糖値の推移、検査結果などから、インスリン分泌の低下とインスリン抵抗性のどちらが目立つかを考えます。ただし、単純に「やせているから分泌低下」「肥満だから抵抗性」と決めつけることはできません。病態は時間とともに変化します。
3.安全性と併存症
低血糖、腎機能、肝機能、心機能、脱水、骨折、感染、消化器症状など、薬ごとに注意する項目が異なります。心不全、慢性腎臓病、動脈硬化性心血管疾患がある場合は、血糖降下作用だけでなく、各薬効群について示されている臓器保護のエビデンスと、日本での適応を確認します。
4.継続できる治療か
服用・注射の回数、食事とのタイミング、自己注射や測定の負担、仕事・介護・食生活、費用、副作用への不安、本人の価値観を共有します。複雑で続けられない治療は見直しが必要です。飲み忘れがあっても、自己判断で次回に2回分をまとめるのではなく、薬ごとの指示を確認します。
糖尿病治療薬の種類を比較
| 薬効群 | 主な働き・位置づけ | 低血糖 | 主な注意点 |
|---|---|---|---|
| ビグアナイド薬 | 肝臓からの糖放出を抑え、インスリンの効きを改善 | 単独では比較的少ない | 腎機能、脱水、低酸素、過度の飲酒など。乳酸アシドーシスに注意 |
| DPP-4阻害薬 | 血糖に応じたインスリン分泌を助ける | 単独では比較的少ない | 他薬との併用、腎機能に応じた用量、皮膚症状など |
| SGLT2阻害薬 | 尿へ糖を排泄し、心不全・腎臓病でも検討される薬がある | 単独では比較的少ない | 脱水、尿路・性器感染、ケトアシドーシス、周術期・絶食時 |
| GLP-1受容体作動薬/GIP・GLP-1受容体作動薬 | 血糖に応じたインスリン分泌、食欲や胃内容排出へ作用 | 単独では比較的少ない | 悪心・嘔吐、脱水、胆のう・膵臓に関する症状、適応外使用 |
| SU薬・速効型分泌促進薬 | 膵臓からのインスリン分泌を促す | 注意が必要 | 食事量の変化、腎機能、高齢者、他薬併用による遷延性低血糖 |
| α-GI | 糖質の消化・吸収を遅らせ食後高血糖を抑える | 単独では比較的少ない | 腹部膨満・放屁。併用薬による低血糖時はブドウ糖で対応 |
| チアゾリジン薬 | インスリン抵抗性を改善 | 単独では比較的少ない | 浮腫、心不全、体重増加、骨折など |
| イメグリミン | インスリン分泌と作用の双方に関わる | 単独では比較的少ない | 消化器症状、腎機能、他薬との併用 |
| インスリン | 不足するインスリンを補う。1型では必須 | 注意が必要 | 投与量、食事・運動、注射手技、保管、低血糖時対応 |
「単独では比較的少ない」とした薬でも、インスリンや分泌促進薬との併用、食事不足、運動量の増加、飲酒、腎機能低下などにより低血糖が起こることがあります。薬効群の一般的な特徴と、手元の製品の添付文書を分けて確認してください。
薬効群ごとの特徴と注意点
ビグアナイド薬
肝臓での糖新生を抑え、末梢でインスリンを効きやすくする薬です。単独使用では低血糖が比較的少ない一方、乳酸アシドーシスはまれでも重大な副作用です。腎機能低下、脱水、重い感染症、低酸素状態、過度の飲酒、造影検査や手術前後などでは対応が変わるため、最新の添付文書と医療機関の指示を確認します。
DPP-4阻害薬
食事に伴うインクレチン作用を保ち、血糖値に応じたインスリン分泌を助けます。日本で広く使われますが、製品により腎機能に応じた用量調整の要否が異なります。SU薬やインスリンとの併用では低血糖に注意し、持続する水疱・びらんなど新しい皮膚症状が出た場合は医療機関へ相談します。
SGLT2阻害薬
腎臓でブドウ糖の再吸収を抑え、尿中へ糖を排泄します。2型糖尿病だけでなく、製品によって心不全や慢性腎臓病の適応を持つものがあります。尿量増加、脱水、尿路・性器感染に注意し、強い口渇、嘔吐、腹痛、呼吸の異常、強い倦怠感がある場合は、血糖値が極端に高くなくてもケトアシドーシスを疑って連絡します。絶食、手術、急性疾患時の休薬は製品と状況で異なるため、事前指示が必要です。
GLP-1受容体作動薬・GIP/GLP-1受容体作動薬
血糖値に応じたインスリン分泌を促し、グルカゴン分泌や胃内容排出、食欲にも影響します。注射薬に加えて経口薬もあります。悪心、嘔吐、下痢、食欲低下などが起こることがあり、強い症状による脱水、持続する激しい腹痛などは早めの評価が必要です。糖尿病治療薬を美容目的で入手したり、個人輸入や自己増量をしたりしないでください。
インスリン分泌促進薬
SU薬は比較的持続的に、速効型インスリン分泌促進薬は食後を中心にインスリン分泌を促します。効果が期待できる一方、低血糖に注意が必要です。食事を抜いた、食事量が少ない、通常より運動した、飲酒した、腎機能が低下したといった条件でリスクが上がることがあります。服用時刻と食事の関係を確認します。
インスリン製剤
作用が始まる速さと持続時間に応じて、超速効型、速効型、中間型、持効型溶解、混合型などがあります。1型糖尿病では基礎分泌と追加分泌を補う考え方が基本です。2型でも著しい高血糖、妊娠、手術、急性疾患、経口薬だけでは不十分な場合などに使います。製剤の取り違え、単位の誤り、注射部位の硬結を避けるため、製品名、単位、時刻、手技、保管を確認します。
心不全・腎臓病・肥満などを踏まえた選び方
心不全・慢性腎臓病・心血管疾患
一部のSGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬には、心血管・腎アウトカムを評価した臨床試験があります。ただし、薬ごとに承認された効能、対象となった集団、腎機能条件、注意事項は同じではありません。心臓・腎臓の利益だけで決めず、脱水、感染、消化器症状、低血糖、費用なども合わせて評価します。
肥満・体重減少
体重への影響は薬効群で異なりますが、体重減少だけを目的に糖尿病治療薬を選ぶものではありません。糖尿病の改善目標、栄養状態、筋肉量、摂食障害の有無、高齢者のフレイルなどを確認します。短期間の急激な減量や、十分に食べられない状態は安全性の問題につながります。
高齢者・多剤併用
高齢者では、低血糖が転倒、骨折、認知機能や生活機能の悪化につながる可能性があります。腎機能、食事量、服薬管理能力、独居、支援者、他の薬との重複を確認し、目標を個別化します。薬の数を増やすだけでなく、服用回数を減らす、低血糖リスクの高い薬を見直すなどの選択も検討されます。
低血糖・シックデイ・緊急受診の目安

低血糖を疑う症状
冷汗、手の震え、動悸、強い空腹感、集中できない、眠気、行動の変化などがみられます。ブドウ糖などの補食方法と再測定の時間は、使用中の薬と個別指示に従います。α-GIを使用中に他薬で低血糖が起きた場合は、砂糖ではなくブドウ糖が必要です。
窒息の危険があるため、口から飲食物を与えません。処方されたグルカゴン製剤があり、家族などが使用法の指導を受けている場合はその指示に従い、救急要請を含め直ちに対応します。
シックデイ
発熱、嘔吐、下痢、食欲不振などで普段どおりに食べられない日は、血糖が上がる場合と下がる場合があります。水分、血糖、必要に応じてケトン体を確認し、事前に決めた連絡基準に従います。メトホルミン、SGLT2阻害薬などで脱水や急性疾患時の対応が必要になることがありますが、薬ごとに異なるため、この記事だけで休薬を決めないでください。
直ちに相談・受診したい症状
- 意識障害、けいれん、補食できない低血糖
- 嘔吐が続き水分を保てない、尿が極端に少ない
- 強い腹痛、深く速い呼吸、強い倦怠感、意識の変化
- 顔・唇・舌の腫れ、呼吸困難、全身の発疹など重いアレルギー症状
- 薬の過量・取り違え、インスリン単位の誤り
治療開始後は効果と負担を定期的に見直す

治療の評価では、HbA1cや血糖値だけでなく、低血糖、体重、血圧、腎機能・肝機能、心不全症状、感染、消化器症状、服薬・注射の実施状況を確認します。目標は年齢、合併症、認知機能、低血糖リスクなどで異なります。数値が目標に届かない場合も、本人を責めるのではなく、診断、薬の使い方、生活条件、目標設定を再評価します。
診察で伝えるチェックリスト
- 使用中の薬の製品名、用量、回数、注射単位
- 低血糖の症状、起きた時刻、食事・運動・飲酒との関係
- 飲み忘れ、注射の不安、費用や生活上の負担
- 発熱、嘔吐、食欲低下、脱水、感染症
- 妊娠の予定・可能性、手術や造影検査の予定
- 市販薬、サプリメント、他院の処方、個人輸入品
薬を追加する前に、飲み方や注射手技、保存方法、相互作用を確認すると解決することもあります。一方で、病態の変化により治療強化が必要なこともあります。処方変更は、期待する利益、起こりうる副作用、評価時期、中止・変更の基準を共有して進めます。
よくある質問(FAQ)
参考文献・公的資料
- 日本糖尿病学会「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版)」
- 日本糖尿病学会「糖尿病治療ガイド」
- 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024 第5章」
- 日本糖尿病学会「1型糖尿病」
- 日本糖尿病学会「シックデイ時の対応」
- American Diabetes Association, Standards of Care in Diabetes—2026, Pharmacologic Approaches. PMID: 41358900
- American Diabetes Association, Standards of Care in Diabetes—2026, Glycemic Goals and Hypoglycemia. PMID: 41358894
- PMDA「医療用医薬品情報検索(電子化された添付文書)」
- PMDA「適正使用に関するお知らせ」

