- ✓ 逆流性食道炎は胃酸が食道に逆流し、胸やけや呑酸などの典型的な症状と、咳や喉の違和感などの非典型的な症状を引き起こします。
- ✓ 症状は生活習慣と密接に関連しており、食事内容や食べ方、姿勢の改善が重要です。
- ✓ 症状が続く場合は、内視鏡検査やpHモニタリング検査で診断し、適切な薬物療法や生活習慣指導を受けることが大切です。
逆流性食道炎は、胃の内容物、特に胃酸が食道へ逆流することで、食道の粘膜に炎症が起きたり、様々な不快な症状を引き起こしたりする病気です。日本人の10~20%がこの病気に罹患していると推測されており、食生活の欧米化や高齢化に伴い増加傾向にあります[2]。主な症状は胸やけや呑酸ですが、咳や喉の違和感といった非典型的な症状も少なくありません。
逆流性食道炎とは?そのメカニズムを解説

逆流性食道炎は、胃酸が食道に逆流することで炎症や症状を引き起こす疾患です。この現象は、食道と胃の境目にある下部食道括約筋(かぶしょくどうかつやくきん)という筋肉の機能不全が主な原因とされています。
下部食道括約筋の役割とは?
下部食道括約筋は、通常は食道の入り口を閉じて胃酸が逆流しないように防ぐ役割を担っています。しかし、この筋肉が緩んだり、機能が低下したりすると、胃酸が食道へと逆流しやすくなります。食道の粘膜は胃酸に対する防御機能が弱いため、繰り返し胃酸にさらされることで炎症を起こし、様々な症状が現れるのです。
逆流性食道炎の主な原因は何ですか?
逆流性食道炎の原因は多岐にわたりますが、主に以下の要因が挙げられます。
- 食生活の変化: 脂肪分の多い食事、過食、早食いなどは胃酸の分泌を促進し、胃内容物の停滞時間を長くするため、逆流のリスクを高めます。
- 肥満: 腹圧が高まることで胃が圧迫され、胃酸が食道へ押し上げられやすくなります。
- 加齢: 加齢とともに下部食道括約筋の機能が低下しやすくなります。
- 姿勢: 食後すぐに横になる、前かがみの姿勢が多いなども逆流を誘発する可能性があります。
- 特定の薬剤: 一部の高血圧治療薬や喘息治療薬などが、下部食道括約筋を緩める作用を持つことがあります。
- 食道裂孔ヘルニア: 胃の一部が横隔膜の穴を通って胸腔内に飛び出す状態です。これにより下部食道括約筋の機能が損なわれ、逆流が起こりやすくなります。
- 下部食道括約筋(かぶしょくどうかつやくきん)
- 食道と胃の境目にある筋肉で、通常は収縮して胃の内容物が食道へ逆流するのを防ぐ役割を担っています。嚥下(えんげ)時のみ一時的に弛緩し、食物を胃へ送ります。
逆流性食道炎の典型的な症状:胸やけと呑酸
逆流性食道炎の症状は多岐にわたりますが、特に代表的なものが胸やけと呑酸です。これらの症状は、胃酸が食道に逆流することで直接的に引き起こされます。
胸やけとはどのような感覚ですか?
胸やけは、胸の奥、特にみぞおちから胸骨の裏側にかけて感じる、焼けるような、あるいは熱いような不快な感覚です。食事中や食後に強くなることが多く、前かがみになったり、横になったりすると悪化しやすい傾向があります。実臨床では、「胸がカーッと熱くなる」「胃のあたりが焼けるように痛い」と訴える患者さんが多く見られます。特に、脂っこい食事や刺激物を摂った後に症状が出やすいと相談される方が少なくありません。
呑酸(どんさん)とはどのような症状ですか?
呑酸は、胃酸が食道だけでなく、さらに上まで逆流してくることで、口の中に酸っぱいものや苦いものが上がってくる感覚です。時には、胃の内容物そのものが逆流してくることもあります。これは、胃酸が食道を刺激するだけでなく、咽頭や口腔にまで到達しているサインです。日々の診療では、「口の中が酸っぱくて気持ち悪い」「寝ている間に胃液が上がってくる」というケースをよく経験します。
胸やけや呑酸は逆流性食道炎以外の病気でも起こりうる症状です。特に、胸の痛みは心臓病の可能性も否定できないため、症状が強い場合や、運動時の胸痛、冷や汗を伴う場合は速やかに医療機関を受診してください。
見過ごされがちな非典型的な症状:咳・喉の違和感

逆流性食道炎の症状は、胸やけや呑酸といった典型的なものだけでなく、食道以外の部位に現れる非典型的な症状も多く存在します。これらは「食道外症状」とも呼ばれ、診断が難しい場合があります[3]。
なぜ逆流性食道炎で咳が出るのですか?
逆流性食道炎による咳は、主に以下の2つのメカニズムで発生すると考えられています。
- 気道への直接的な刺激: 逆流した胃酸が食道を越えて気管や気管支にまで到達し、直接刺激を与えることで咳反射が誘発されます。特に夜間や横になった時に咳が出やすい傾向があります。
- 食道気管反射: 胃酸が食道下部を刺激することで、神経を介して気管支が収縮し、咳が誘発される反射的なメカニズムです。
外来診療では、長引く咳で受診される患者さんが増えており、喘息やアレルギー性鼻炎の治療を受けても改善しない場合に、逆流性食道炎が原因であると判明するケースが少なくありません。特に、痰が絡まない乾いた咳が特徴的です。
喉の違和感(ヒステリー球、咽喉頭異常感症)とは?
喉の違和感は、逆流性食道炎の非典型的な症状の中でも特に頻繁に見られます。具体的には、「喉に何かが詰まっている感じ」「イガイガする」「声がかすれる」「飲み込みにくい」といった訴えが多いです。これは、逆流した胃酸や胃内容物が咽喉頭(いんこうとう:喉の奥)を刺激し、炎症を引き起こすためと考えられています[4]。診察の場では、「喉にゴルフボールが詰まっているような感じがする」と質問される患者さんも多いです。耳鼻咽喉科を受診しても異常が見つからない場合、消化器内科での精査が必要となることがあります。
その他の非典型的な症状には何がありますか?
逆流性食道炎は、上記以外にも様々な非典型的な症状を引き起こすことがあります。
- 胸の痛み: 心臓病と間違われやすい胸の痛みを感じることがあります。
- 耳の痛み: 稀ですが、胃酸の刺激が神経を介して耳の痛みとして感じられることがあります。
- 喘息の悪化: 既存の喘息症状が悪化したり、治療抵抗性の喘息の原因となることがあります。
- 睡眠障害: 夜間の胸やけや咳によって睡眠が妨げられることがあります。
逆流性食道炎の診断方法と治療の選択肢
逆流性食道炎の診断は、症状の問診だけでなく、客観的な検査によって確定されることが重要です。適切な診断に基づき、効果的な治療法が選択されます。
どのような検査で診断されますか?
逆流性食道炎の診断には、主に以下の検査が用いられます。
- 内視鏡検査(胃カメラ): 食道の粘膜の状態を直接観察し、炎症の有無や程度(食道炎のグレード)、食道裂孔ヘルニアの有無などを確認します。炎症が認められれば「食道炎あり」、炎症がないのに症状がある場合は「非びらん性胃食道逆流症(NERD)」と診断されます。
- 食道pHモニタリング検査: 食道内のpH(酸性度)を24時間測定し、胃酸の逆流がどの程度起こっているかを客観的に評価します[1]。特に非典型的な症状の場合や、内視鏡検査で異常が見られない場合に有用です。
- PPIテスト: プロトンポンプ阻害薬(PPI)という胃酸分泌抑制薬を一定期間服用し、症状が改善するかどうかで診断を補助する方法です。症状の改善が見られれば、逆流性食道炎である可能性が高いと判断されます。
臨床現場では、まず内視鏡検査で食道の状態を確認し、必要に応じてpHモニタリング検査を検討するという流れが一般的です。特に、PPIを服用しても症状が改善しない患者さんに対しては、pHモニタリング検査で胃酸逆流の程度を正確に把握することが重要なポイントになります。
逆流性食道炎の治療法にはどのようなものがありますか?
治療は、薬物療法と生活習慣の改善が柱となります。
薬物療法
主に胃酸の分泌を強力に抑える薬剤が用いられます。
- プロトンポンプ阻害薬(PPI): 胃酸分泌を最も強力に抑制する薬剤で、治療の第一選択薬です。多くの患者さんで症状の改善と食道粘膜の治癒が期待できます。
- カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB): PPIと同様に強力な胃酸分泌抑制作用を持ち、即効性や持続性に優れるとされています。
- H2ブロッカー: PPIよりは作用が穏やかですが、胃酸分泌を抑制します。
- 消化管運動改善薬: 胃の動きを良くし、胃内容物の排出を促進することで逆流を減らす効果が期待できます。
- 粘膜保護薬: 食道の粘膜を保護し、胃酸による刺激を和らげます。
筆者の臨床経験では、治療開始から1〜2ヶ月ほどで症状の改善を実感される方が多いです。ただし、薬を中止すると症状が再燃することも少なくないため、医師の指示に従い継続的な治療や減量・中止の検討が必要です。
生活習慣の改善
薬物療法と並行して、生活習慣の改善は非常に重要です。薬の効果を高め、再発を防ぐためにも積極的に取り組むべきです。
- 食事内容の見直し: 脂肪分の多い食事、刺激物(辛いもの、酸っぱいもの)、チョコレート、柑橘類、アルコール、カフェインなどは胃酸分泌を促進したり、下部食道括約筋を緩めたりする可能性があるため、摂取を控えることが推奨されます。
- 食べ方の工夫: 少量ずつ頻回に食べる、よく噛んでゆっくり食べる、食後すぐに横にならない(食後2~3時間は横にならないのが理想)などの工夫が有効です。
- 体重管理: 肥満は腹圧を高めるため、適正体重を維持することが重要です。
- 寝るときの姿勢: 就寝時に上半身を少し高くする(枕を高くする、ベッドの頭側を上げるなど)と、胃酸の逆流を防ぎやすくなります。
- 禁煙: 喫煙は下部食道括約筋を緩める作用があるため、禁煙が望ましいです。
実際の診療では、患者さん一人ひとりの生活スタイルや食習慣を詳しく伺い、無理なく続けられる改善策を一緒に考えるようにしています。例えば、夜遅い時間の食事を避けることや、食後に軽く散歩をするだけでも症状が軽減するケースは多く見られます。
| 項目 | 推奨される生活習慣 | 避けるべき生活習慣 |
|---|---|---|
| 食事内容 | 低脂肪食、食物繊維豊富な食品 | 高脂肪食、刺激物、アルコール、カフェイン、チョコレート |
| 食べ方 | 少量頻回食、よく噛む、食後すぐ横にならない | 過食、早食い、食後すぐの運動・入浴 |
| 姿勢 | 就寝時上半身挙上、良い姿勢を保つ | 前かがみの姿勢、食後すぐ横になる |
| その他 | 適正体重の維持、禁煙 | 肥満、喫煙 |
逆流性食道炎の症状が改善しない場合はどうすれば良いですか?

薬物療法や生活習慣の改善を続けても症状が十分に改善しない場合、あるいは症状が再発を繰り返す場合には、さらなる評価や治療の検討が必要となります。
治療抵抗性の場合の対応は?
胃酸分泌抑制薬を適切に服用しても症状が改善しない場合を「治療抵抗性逆流性食道炎」と呼びます。この場合、以下の点を再評価します。
- 診断の再確認: 症状が本当に逆流性食道炎によるものなのか、他の疾患(機能性ディスペプシア、食道過敏症、心臓病など)の可能性がないかを確認します。食道pHモニタリング検査が特に有用です。
- 薬の飲み方: 薬の服用方法が適切か(食前服用など)、容量が十分かを確認します。
- 生活習慣の遵守状況: 食事内容や生活習慣の改善が十分に実践されているかを再確認します。
- 薬の変更・追加: 異なる種類の胃酸分泌抑制薬への変更や、消化管運動改善薬、漢方薬などの併用を検討することがあります。
実際の診療では、治療抵抗性の患者さんに対しては、まず問診で生活習慣の遵守状況や服薬アドヒアランス(指示通りに薬を服用しているか)を丁寧に確認します。その上で、必要であれば内視鏡検査やpHモニタリング検査を再度行い、客観的なデータに基づいて治療方針を再検討します。時には、心臓内科や耳鼻咽喉科など、他科との連携が必要となることもあります。
手術療法はどのような場合に検討されますか?
薬物療法や生活習慣の改善でも症状がコントロールできない重症例や、食道裂孔ヘルニアが大きく、内科的治療が奏功しない場合などには、手術療法が検討されることがあります。手術は、胃の一部を食道の下部に巻き付けて、胃酸の逆流を防ぐバリアを作る「噴門形成術」が一般的です。これは最終的な選択肢であり、消化器外科専門医と十分に相談の上で決定されます。
まとめ
逆流性食道炎は、胃酸が食道に逆流することで、胸やけや呑酸といった典型的な症状だけでなく、咳や喉の違和感といった非典型的な症状も引き起こす疾患です。これらの症状は日常生活の質を著しく低下させる可能性があります。診断には内視鏡検査やpHモニタリング検査が用いられ、治療は主に胃酸分泌抑制薬による薬物療法と、食事内容や食べ方、姿勢の改善といった生活習慣の見直しが中心となります。症状が続く場合や改善が見られない場合は、自己判断せずに医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが大切です。
よくある質問(FAQ)
- Ifrah Butt, Franklin Kasmin, Joel J Heidelbaugh et al.. Esophageal pH Monitoring. American family physician. 2026. PMID: 31971729
- Özlem Yönem, Bülent Sivri, Levent Özdemir et al.. Gastroesophageal reflux disease prevalence in the city of Sivas.. The Turkish journal of gastroenterology : the official journal of Turkish Society of Gastroenterology. 2014. PMID: 24254260. DOI: 10.4318/tjg.2013.0256
- Maria Pina Dore, Antonietta Pedroni, Gianni M Pes et al.. Effect of antisecretory therapy on atypical symptoms in gastroesophageal reflux disease.. Digestive diseases and sciences. 2007. PMID: 17211695. DOI: 10.1007/s10620-006-9573-7
- J-H Oh, M-G Choi, J-M Park et al.. The clinical characteristics of gastroesophageal reflux disease in patients with laryngeal symptoms who are referred to gastroenterology.. Diseases of the esophagus : official journal of the International Society for Diseases of the Esophagus. 2014. PMID: 22816650. DOI: 10.1111/j.1442-2050.2012.01375.x
- ニカルジピン塩酸塩(モニタリン)添付文書(JAPIC)

