輸液は「弱った体に栄養を入れる処置」という一種類の治療ではありません。水分や循環血液量を補う、電解質や血糖の異常を補正する、薬を投与する、口や消化管から取れない栄養を補うなど、目的ごとに製剤と投与経路が変わります。必要量が多すぎても少なすぎても害があり、心臓・腎臓・肝臓の状態、尿量、体重、検査値を見ながら計画を更新します。
輸液・電解質・ビタミン製剤は、次の五つを一組で確認します。
- 投与する理由
- 口・経管から取れない理由
- 製剤に含まれる成分
- 量と速度
- 再評価して減量・終了する条件
心不全や腎機能低下では水分過剰、電解質補正では不整脈や神経障害、静脈栄養では感染・血糖・再栄養症候群に注意が必要です。[1][2]
急な息苦しさ、横になると呼吸が苦しい、胸痛、意識の異常、けいれん、強い動悸や筋力低下、顔・喉の腫れ、全身じんましん、点滴部位の急な腫れ・強い痛み・色の変化、高熱や悪寒は、投与中なら直ちにスタッフへ知らせてください。院外で重い症状があるときは119番を優先します。[13]

輸液とは:水分だけでなく目的を定めて静脈から投与する治療
輸液は、静脈から水分、電解質、糖質、アミノ酸、脂質、ビタミン、薬剤などを投与する治療の総称です。脱水で失った水分を補う場合と、出血や敗血症などで循環を支える場合、日々の必要量を補う場合、特定の電解質異常を直す場合では、同じバッグや速度を使うわけではありません。目的が変われば内容も量も変わり、状態が改善すれば減量・終了します。[1][9]
- 輸液療法
- 水分、電解質、栄養素、薬剤などを静脈から投与し、目的と反応を繰り返し評価する治療です。
- 電解質補正
- 検査値だけでなく原因、症状、腎機能、心電図、変化の速さを踏まえて不足または過剰を調整する治療です。
口・経管から取れるなら、その経路を優先する
静脈投与は確実に血管内へ入る一方、針やカテーテルが必要で、感染、静脈炎、血管外漏出、水分過剰などの危険があります。飲める、食べられる、経管栄養を安全に使える場合は、原則として経口・経腸経路を優先します。嘔吐、意識障害、循環不全、消化管の機能低下などで必要量を取れないときに、静脈投与の利益が高くなります。[3][12]
「5つのR」で目的を分ける
NICEは静脈輸液を、蘇生、日常必要量の維持、欠損の補充、体内分布の変化への対応、繰り返しの再評価という5つのRで整理しています。例えば、血圧低下への短時間の補液と、絶食中の一日分の維持輸液は目的が違います。目的を区別すると、なぜこの製剤なのか、いつ評価するのか、どの時点で止めるのかを確認しやすくなります。[1]
点滴をしていないから軽症、点滴をしているから重症とは限りません。必要な治療は原因と全身状態で決まります。治療の目的、検査、観察、帰宅後の注意まで含めて説明を受けてください。
輸液開始前の判断:脱水・循環・心腎機能を分けて評価する
「水分が足りないように見える」だけで一律に大量投与すると、心不全や腎機能低下がある人では肺うっ血や浮腫を悪化させることがあります。反対に、循環不全が進んでいるときに補液が遅れると臓器への血流が不足します。問診、診察、バイタルサイン、尿量、体重変化、血液検査などを組み合わせ、必要性と安全性を同時に判断します。[1][11]
確認する五つの視点
- 目的蘇生、脱水補充、維持、電解質補正、薬剤投与、栄養のどれかを明確にします。
- 入口飲水・食事・経管栄養が可能か、静脈路が本当に必要かを確認します。
- 不足と過剰口渇、皮膚・粘膜、血圧、脈拍、呼吸、浮腫、体重、尿量などを見ます。
- 排泄能力腎機能、心機能、肝機能と、利尿薬など水分・電解質に影響する薬を確認します。
- 再評価何時間後・何日後に、症状、尿量、体重、検査値を見て変更するかを決めます。
検査値は採血条件と全身状態を合わせて読む
ナトリウムやカリウムの値は重要ですが、溶血、採血部位、血糖、酸塩基平衡、薬の影響などで解釈が変わります。極端な異常や症状がある場合は再検、心電図、血液ガスなどを追加し、結果が本人の状態と合うか確認します。検査値だけを家庭で補正しようとせず、原因評価まで受けることが安全です。
輸液製剤の種類:細胞外液・糖質液・維持液を目的で選ぶ
| 大きな区分 | 主な目的 | 主な注意 |
|---|---|---|
| 等張性晶質液 | 循環血液量や細胞外液の補充、手術・外傷・感染等での初期対応 | 投与量、塩化物負荷、心腎機能、浮腫を再評価 |
| 糖質を含む液 | 水分・糖質の一部補給、低血糖対応、薬剤投与の溶媒等 | 血糖、ナトリウム変化、単独では十分な栄養にならない点 |
| 維持輸液 | 口から取れない間の日々の水分・電解質需要を補う | 他の飲水・経管・薬剤液も合算し、漫然と継続しない |
| 高張液・特別な補正液 | 症候性の電解質異常など特定の病態 | 濃度・速度・中心静脈の要否を厳密に管理 |
| 栄養輸液 | アミノ酸・糖・脂質・ビタミン・微量元素を含む栄養補給 | 再栄養症候群、血糖、肝機能、感染、ライン管理 |
生理食塩液と平衡晶質液
生理食塩液はナトリウムと塩化物を含み、薬剤の希釈や細胞外液補充など幅広く使われます。乳酸・酢酸などの緩衝成分を含む平衡晶質液は、血漿に近い電解質組成を意図した製剤です。成人を対象としたSMART試験とSALT-ED試験では平衡晶質液と生理食塩液が比較されましたが、対象集団と主要評価項目は異なります。個人の製剤選択を試験結果だけで一律に決めず、循環状態、酸塩基平衡、腎機能、電解質、投与量と治療反応を合わせて判断します。[4][10][14][15]
ブドウ糖液は水分とエネルギーの目的を分ける
ブドウ糖を含む輸液は、血糖低下への対応、水分・糖質の一部補給、薬剤の希釈などに使います。ただし、少量の糖質液だけで必要な蛋白質・脂質・ビタミン・微量元素を満たせるわけではありません。糖尿病、感染、ステロイド使用などでは高血糖に注意し、血糖値と総投与エネルギーを確認します。
アルブミンなどの膠質液は適応を限定して使う
膠質液は晶質液とは異なる性質を持ちますが、単に「水を血管内へ保つ」目的で誰にでも使うものではありません。基礎疾患、循環状態、製剤ごとの適応とリスクを確認します。血液由来製剤では、説明、記録、製剤管理も必要です。
末梢静脈・中心静脈・経口・経腸:投与経路の違い
末梢静脈路
手や腕などの末梢血管から投与する方法で、短期間の水分・電解質補給や薬剤投与に使われます。高濃度・高浸透圧の液や血管刺激性の強い薬は静脈炎や血管外漏出を起こしやすく、投与できる濃度や速度に制限があります。発赤、硬さ、痛み、腫れ、漏れがないかを観察します。
中心静脈路
太い中心静脈へカテーテル先端を置く方法で、高浸透圧の静脈栄養、長期投与、末梢で投与しにくい薬などに使います。確実な投与経路になる一方、挿入時の出血・気胸、血栓、カテーテル関連血流感染などの危険があります。必要性、留置期間、挿入部位、無菌管理を継続的に見直します。[12]
経口・経腸経路
消化管が使えるなら、飲水、食事、経口補水液、内服薬、経管栄養が候補になります。腸管を使うことは生理的ですが、誤嚥、吸収不良、消化管閉塞などで安全に使えない場合があります。経路は「点滴の方が強い」といった印象で決めず、必要成分を安全に届けられるかで選びます。
電解質製剤の全体像:数値ではなく原因と症状を治療する

電解質は体液量、神経、筋肉、心臓、骨、酸塩基平衡に関わります。異常値を見つけたら、嘔吐・下痢、食事量、利尿薬や下剤、腎機能、内分泌疾患、酸塩基平衡、採血誤差などの原因を考えます。補正の緊急度は数値だけでなく、意識、けいれん、筋力、心電図、変化の速さで決まります。
| 電解質 | 主な役割 | 異常時に確認すること |
|---|---|---|
| ナトリウム | 体液の浸透圧、水分分布 | 血糖、体液量、尿、薬、変化速度、神経症状 |
| カリウム | 筋肉・心臓の電気活動 | 心電図、腎機能、酸塩基、マグネシウム、薬 |
| カルシウム | 神経・筋収縮、骨、凝固 | アルブミン、イオン化Ca、Mg、腎・副甲状腺 |
| マグネシウム | 酵素反応、神経・心筋機能 | 下痢、薬、腎機能、K・Ca、心電図 |
| リン | エネルギー代謝、筋・赤血球機能 | 栄養再開、アルコール、腎機能、呼吸・筋力 |
静脈補正が必要とは限らない
軽度で症状がなく、消化管から安全に吸収できる場合は、食事・内服・経管投与で補えることがあります。重い症状、著しい異常、吸収不能、迅速な補正が必要な状況では静脈投与を検討します。静脈投与は速く確実である分、過量や急速投与の影響も大きいため、投与計画と監視が必要です。
ナトリウム異常の補正:体液量と変化の速さを確認する
低ナトリウム血症
低ナトリウム血症は、体内のナトリウム総量が単純に不足しているとは限らず、水分が相対的に多い状態でも起こります。血糖、血清・尿の浸透圧、体液量、薬、心・腎・肝機能などを評価します。頭痛、嘔吐、意識障害、けいれんなど重い神経症状がある場合は緊急対応が必要です。慢性的な低下を急速に補正すると神経障害を起こし得るため、目標と再検査間隔を個別に設定します。
高ナトリウム血症
高ナトリウム血症は水分喪失、飲水不能、尿からの水分喪失、過剰なナトリウム負荷などで起こります。循環不全があれば先に循環を支え、その後に水分不足を段階的に補います。発症の速さ、意識、血糖、尿量を見ながら計画し、急な変化を避けます。
ナトリウム異常は、飲水制限が必要な場合と水分補給が必要な場合があり、見た目だけでは区別できません。検査値だけを見て大量の水・塩・経口補水液を摂ると悪化することがあります。原因と具体的な指示を確認してください。
カリウム補正:急速静注を避け、心電図と腎機能を確認する
低カリウム血症
嘔吐・下痢、利尿薬、インスリン作用、アルカローシス、マグネシウム不足などで低下します。筋力低下、麻痺、便秘、不整脈が起こることがあり、重症度と症状に応じて経口または静脈から補正します。マグネシウム不足が併存するとカリウムが上がりにくいことがあるため、同時に評価します。
カリウム注射は必ず希釈し、管理された速度で投与する
濃厚なカリウム製剤の急速静注は、致死的な不整脈や心停止につながるため禁止されています。専用手順に従って希釈し、輸液ポンプ、投与経路、心電図や再検査を含めて管理します。患者本人が滴下速度を変えたり、バッグやポンプを操作したりしてはいけません。[5][6]
高カリウム血症
腎機能低下、カリウムを上げる薬、組織障害、酸塩基異常などで起こります。心電図変化、筋力低下、動悸などがあれば緊急治療が必要です。採血時の溶血による偽高値もあるため、状態に応じて迅速に再確認します。腎機能が低い人は、市販のカリウムサプリや塩化カリウムを含む代替塩を自己判断で使わないでください。
動悸や不整脈については不整脈の概要も参照してください。
カルシウム・マグネシウム・リンの補正
カルシウム
総カルシウム値は血中アルブミンの影響を受けるため、必要に応じてイオン化カルシウムや補正値を確認します。低下では口周囲のしびれ、筋けいれん、テタニー、けいれん、心電図変化が起こり得ます。高値では脱水、意識変化、便秘、不整脈などに注意します。カルシウム製剤は血管外へ漏れると組織障害を起こすことがあるため、投与部位を観察します。
マグネシウム
低マグネシウム血症は下痢、アルコール関連問題、利尿薬、プロトンポンプ阻害薬などと関係し、低カリウム・低カルシウムを伴うことがあります。補正時は腎機能を確認し、過量による血圧低下、徐脈、呼吸抑制などに注意します。腎機能低下では体外へ排泄しにくくなります。
リン
リンはエネルギー産生や筋機能に関わります。重い低リン血症では呼吸筋力低下、意識変化、溶血などが問題になり得ます。長く食べられなかった人へ栄養を再開すると、リン、カリウム、マグネシウムが細胞内へ移動して急低下する再栄養症候群に注意します。高リン血症では腎機能やカルシウムとの関係を確認します。[2]
製剤同士の配合に注意する
カルシウムとリンなどは、濃度、pH、混合順、温度によって沈殿を生じる可能性があります。見た目に変化がなくても配合可能とは限りません。医療者は添付文書や配合変化情報を確認し、患者側は持参薬・サプリメントを申告してください。
ビタミン製剤:欠乏の原因・投与経路・過量を確認する
ビタミン製剤は、欠乏の予防・治療、吸収障害、経口摂取不能、静脈栄養への添加など、目的を定めて使います。「疲れているから」「美容に良さそうだから」という理由だけで、注射が必要とは限りません。食事・内服で補えるか、欠乏を疑う背景があるか、検査や症状で効果を確認できるかを整理します。
ビタミンB1(チアミン)
長期間の摂取不足、アルコール関連問題、持続する嘔吐、栄養再開などではB1欠乏に注意します。糖質投与で需要が高まるため、再栄養リスクが高い人では栄養開始前からの補給が検討されます。注射薬ではショックなどの重い過敏反応が報告され、添付文書は静脈内注射時の緩徐投与を求めています。[2][7]
水溶性ビタミンでも過量に注意する
水溶性ビタミンは尿へ排泄されやすいものが多い一方、すべてが無制限に安全という意味ではありません。腎機能、長期の大量投与、他製品との重複で有害事象が起こり得ます。尿が黄色くなるなど予想される変化と、発疹・呼吸困難など中止して評価すべき症状を分けて確認します。
脂溶性ビタミンは蓄積しやすい
ビタミンA、D、E、Kなどは脂溶性で、長期間の過量摂取では蓄積による有害事象が問題になります。処方薬、一般用医薬品、サプリメント、栄養飲料、静脈栄養の内容を合算します。妊娠中、肝・腎機能低下、抗凝固薬使用時は個別の確認が必要です。
必要な成分、欠乏の有無、吸収できるか、適切な量かが重要です。注射には即効性を期待しやすい一方、過敏反応、感染、血管損傷など経路固有の危険があります。目的と代替手段を確認してください。
静脈栄養と再栄養症候群:必要量を段階的に満たす

末梢静脈栄養と中心静脈栄養
末梢静脈栄養は投与できる浸透圧とエネルギー量に制限があり、短期の補助に使われます。中心静脈栄養は高濃度の糖・アミノ酸等を投与できますが、中心静脈カテーテルと厳密な管理が必要です。消化管を使えるか、予想期間、必要量、感染リスクを検討して経路を選びます。[3][12]
栄養は糖質だけでは完結しない
静脈栄養では、エネルギー源、アミノ酸、脂質、電解質、ビタミン、微量元素、水分を総合して設計します。薬剤を溶かす輸液や糖質液が入っていても、必要な栄養を満たしているとは限りません。飲食や経管栄養が併用されている場合は、その分も合算します。
再栄養症候群
長期間ほとんど食べられなかった人、著しい体重減少がある人、アルコール関連問題がある人などで栄養を急に再開すると、リン、カリウム、マグネシウムの低下、体液貯留、心・呼吸・神経の障害が起こることがあります。高リスクでは栄養量を慎重に開始し、チアミンと電解質を補い、状態と検査値を頻回に確認します。[2][8]
長期の高カロリー輸液とビタミンB1
ビタミンB1を含まないまま高カロリー輸液を続けると、重いB1欠乏症が起こり得るため、PMDAは注意喚起しています。意識障害、眼球運動の異常、歩行の異常、乳酸アシドーシスなどを疑う場合は、投与内容を確認して速やかに対応します。[8]
投与中のモニタリング:効いたか、過剰でないかを再評価する
ベッドサイドで確認する項目
- 血圧、脈拍、呼吸数、酸素飽和度、意識、体温
- 口渇、呼吸困難、浮腫、嘔吐・下痢、筋力・しびれ
- 尿量、飲水・食事・経管栄養、他の点滴を含む水分出納
- 毎日の体重変化と、必要に応じた胸部・頸静脈・皮膚の所見
- 刺入部の痛み、発赤、腫れ、漏れ、固定と接続状態
検査で確認する項目
ナトリウム、カリウム、塩化物、重炭酸、尿素窒素、クレアチニン、血糖を基本に、病態に応じてカルシウム、マグネシウム、リン、肝機能、血液ガスなどを確認します。検査頻度は異常の重さ、補正速度、腎機能、投与内容で変わります。異常が大きいほど短い間隔で確認します。[1]
処方は一日単位で見直す
NICEは静脈輸液について、投与中は少なくとも毎日の計画と再評価を求めています。体調が良くなり飲食が戻った、尿量が変わった、新しい薬を始めた、手術や検査が終わった、といった変化で必要量は変わります。前日の処方を理由なく続けず、不要なルートは抜去を検討します。[1]
退院・外来へ情報をつなぐ
補正後も再検査が必要な場合は、次の採血日、受診先、薬やサプリの変更、飲水・食事の指示、再受診症状を確認します。入院中に正常化しても、原因となる薬や病気が残れば再発する可能性があります。
輸液・注射の主な副作用と合併症
| 問題 | 気づく手がかり | 主な対応 |
|---|---|---|
| 水分過剰・肺うっ血 | 息苦しさ、横になると苦しい、浮腫、急な体重増加、酸素低下 | 直ちに報告し、投与量・速度、心腎機能を再評価 |
| 電解質・血糖の変動 | 意識変化、けいれん、筋力低下、動悸、口渇、多尿 | 投与を見直し、再検査・心電図・原因治療 |
| 静脈炎・血管外漏出 | 刺入部の痛み、発赤、硬さ、腫れ、冷感、皮膚色の変化 | 流量を触らずスタッフへ伝え、薬剤別に処置 |
| カテーテル感染 | 発熱、悪寒、刺入部の発赤・膿、原因不明の全身悪化 | 培養、抗菌薬、カテーテル対応を評価 |
| 過敏反応 | 全身じんましん、顔・喉の腫れ、喘鳴、血圧低下 | 投与を止めて緊急対応。重症なら119番 |
水分過剰
輸液量が排泄能力を上回ると、浮腫、血圧上昇、肺うっ血、低酸素などが起こります。心不全、腎機能低下、高齢、他の水分投与が多い場合は特に注意します。呼吸状態、体重、尿量を見て投与を調整します。[10]
静脈炎と血管外漏出
針先が血管外へずれたり、刺激性の薬が血管壁へ影響したりすると、痛み、腫れ、発赤が起こります。薬剤によっては組織障害を起こすため、早く発見することが重要です。違和感を我慢せず知らせ、揉んだり温冷罨法を自己判断で行ったりしないでください。
カテーテル関連感染
中心静脈カテーテルは血流感染の入口になり得ます。挿入・接続時の無菌操作、刺入部の観察、不要になったカテーテルの抜去などで危険を減らします。原因不明の発熱や悪寒がある場合は、刺入部がきれいに見えても評価が必要です。[12]
併用薬・サプリ・配合変化:すべての投与源を共有する
電解質に影響する薬
利尿薬、ACE阻害薬・ARB、アルドステロン拮抗薬、NSAIDs、下剤、インスリン、ステロイドなどは、水分やナトリウム、カリウム、マグネシウムに影響します。腎機能低下がある場合は変化が大きくなることがあります。処方薬だけでなく、市販薬、漢方薬、サプリ、代替塩も含めて伝えます。
同じルートへ混ぜられるとは限らない
薬剤には、pH、濃度、溶媒、光、温度、接触時間による配合変化があります。沈殿、変色、力価低下が起こる可能性があり、同時投与できない組み合わせもあります。医療者は添付文書、インタビューフォーム、配合変化情報を確認し、専用ルートや前後のフラッシュを検討します。
持参薬を自己判断で続けない・止めない
絶食、腎機能変化、造影検査、手術、感染などにより、普段の薬を一時調整することがあります。一方、急に中止すると危険な薬もあります。お薬手帳、薬袋、現物や写真を提示し、入院中・検査日・退院後の扱いを確認してください。
薬全般の安全な確認方法は薬・医薬品の総合ガイドも参照してください。
点滴を受ける前後の確認リスト
医療者へ伝えること
- 心臓病、腎臓病、肝臓病、糖尿病、透析、過去の電解質異常
- 飲水・食事量、嘔吐・下痢、発熱、出血、尿量、最近の体重変化
- 処方薬、市販薬、漢方薬、サプリ、代替塩、最終使用時刻
- 注射・薬・食物のアレルギーと、過去に起きた具体的な症状
- 妊娠・授乳、アルコール摂取、長期間食べられなかった状況
確認したい質問
- この点滴の目的は何ですか。水分、電解質、薬、栄養のどれですか。
- 飲水、食事、内服、経管投与に切り替えられますか。
- バッグに何が入り、どのくらいの時間で投与しますか。
- 次に何を見て、増減・終了を決めますか。
- 痛み、腫れ、息苦しさなど、すぐ伝える症状は何ですか。
自分で操作しない
輸液ポンプ、クレンメ、三方活栓、接続部、針やカテーテルを自分で操作しないでください。落ちる速度が変わった、アラームが鳴る、液が漏れる、血液が逆流して見える場合はスタッフを呼びます。トイレや移動の前にも、ルートを引っ張らない方法を確認します。
緊急受診の目安:点滴の予定より原因評価を優先する
| 症状・状況 | 考える問題 | 行動 |
|---|---|---|
| 急な息苦しさ、胸痛、冷汗、横になれない | 肺うっ血、心血管疾患、重いアレルギー等 | 重い場合は119番。投与中なら直ちにスタッフへ |
| 意識がぼんやり、けいれん、急な激しい頭痛 | 重いナトリウム・血糖異常、脳疾患等 | 119番を検討し、飲食やサプリで様子を見ない |
| 強い筋力低下、麻痺、動悸、失神 | カリウム・Mg・Ca異常、不整脈等 | 当日中の緊急評価。失神・持続症状は119番 |
| 顔や喉の腫れ、喘鳴、全身じんましん | アナフィラキシー | 投与中止と緊急対応。院外では119番 |
| 点滴部位の急な腫れ、強い痛み、水疱、色の変化 | 血管外漏出・組織障害 | 直ちにスタッフへ。揉む・温冷却は指示後に |
| 高熱、悪寒、震え、刺入部の膿 | カテーテル関連感染等 | 当日評価。全身状態が悪ければ救急要請 |
厚生労働省は、急な息切れ・呼吸困難、突然の激しい頭痛、突然の片側麻痺、意識障害、けいれんなどを、迷わず119番を考える症状として示しています。点滴を受ける予定があっても、自家用車で点滴施設を探すより救急要請を優先する場面があります。[13]
受診判断は救急受診を考える症状、救急での検査は救急外来の検査ガイドでも確認できます。
輸液・電解質・ビタミン製剤ガイドの全体マップ
このピラーでは、輸液を始める理由、経路と製剤の選択、ナトリウム・カリウム等の補正、ビタミン、静脈栄養、再評価、副作用、緊急症状を一つの流れで整理しました。各領域を詳しく確認するときは、次の三つに分けて考えると目的を見失いにくくなります。
水分・循環・糖質を補う製剤の目的と、病態に応じた選択を整理します。
ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リンの補正と監視を整理します。
欠乏が疑われる状況、投与経路、過量や注射時の注意を整理します。
未公開の子記事へ架空のURLは設定しません。公開済みの記事は本文と関連記事から確認できます。糖質輸液と血糖の関係は糖尿病治療ガイドも参照してください。
輸液・電解質・ビタミン製剤に関するよくある質問(FAQ)
参考文献・公的資料
- NICE「Intravenous fluid therapy in adults in hospital: Recommendations」
- NICE「Nutrition support for adults: Recommendations」
- 日本臨床栄養代謝学会「静脈経腸栄養ガイドライン クイックリファレンス」
- PMDA「生理食塩液 電子化された添付文書・製品情報」
- 厚生労働省「カリウム製剤投与時の医療安全に関する注意」
- PMDA「塩化カリウム注射液 電子化された添付文書」
- PMDA「チアミン塩化物塩酸塩注射液 電子化された添付文書」
- PMDA「高カロリー輸液施行時のビタミンB1投与について」
- 輸液製剤協議会「輸液の目的」
- PMDA「乳酸リンゲル液 電子化された添付文書」
- PMDA「糖質・電解質補給輸液剤 電子化された添付文書」
- 厚生労働省「医療機関における院内感染対策マニュアル」
- 厚生労働省「こんな時は迷わず119へ」
- Self WH, et al. Balanced Crystalloids versus Saline in Noncritically Ill Adults. N Engl J Med. 2018. PMID: 29485926.
- Semler MW, et al. Balanced Crystalloids versus Saline in Critically Ill Adults. N Engl J Med. 2018. PMID: 29768150.

