- ✓ 機能性疾患は身体的な異常がないにも関わらず症状が現れる病態で、てんかんもその一つです。
- ✓ てんかんは脳の神経細胞の過剰な興奮によって引き起こされ、多様な発作症状を呈します。
- ✓ 正確な診断と適切な治療計画が、症状の管理と生活の質の向上に不可欠です。
機能性疾患とは、身体的な検査や画像診断では異常が見つからないにもかかわらず、様々な身体症状が現れる病態の総称です。その中には、脳の機能的な問題によって引き起こされるてんかんや、神経系の機能異常が関与する片頭痛などが含まれます。これらの疾患は、患者さんの日常生活に大きな影響を与えることが多く、適切な理解と治療が求められます。
片頭痛とは?その特徴と治療法

片頭痛は、頭の片側または両側に脈打つような強い痛みが繰り返し起こる慢性的な頭痛の一種です。吐き気や嘔吐、光や音に過敏になるなどの症状を伴うことが多く、日常生活に支障をきたすことがあります。
片頭痛の原因とは?
片頭痛の正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、脳の血管や神経の機能異常が関与していると考えられています。特に、三叉神経血管系と呼ばれる部位の活性化や、セロトニンなどの神経伝達物質の関与が指摘されています。遺伝的要因も大きく、家族に片頭痛の人がいる場合、発症リスクが高まる傾向にあります。ストレス、特定の食品、睡眠不足、ホルモン変動(特に女性の月経周期)などが誘発因子となることも知られています。
片頭痛の診断と分類
片頭痛の診断は、主に患者さんの症状の聞き取り(問診)に基づいて行われます。国際頭痛分類(ICHD-3)の診断基準が用いられ、特徴的な頭痛発作のパターンや随伴症状の有無を確認します。前兆を伴う片頭痛(例えば、目の前にギザギザした光が見える閃輝暗点など)と、前兆を伴わない片頭痛に大別されます。
- 国際頭痛分類(ICHD-3)
- 世界的に用いられている頭痛の診断基準。頭痛の種類や特徴に基づいて詳細に分類されており、正確な診断と適切な治療方針の決定に役立ちます。
日常診療では、「頭痛がひどくて仕事や家事が手につかない」「市販薬が効かなくなってきた」と相談される方が少なくありません。問診では、頭痛の頻度、持続時間、痛みの性質、随伴症状、誘発因子などを詳細に確認し、他の頭痛との鑑別を行います。
片頭痛の治療戦略
片頭痛の治療は、発作時の痛みを和らげる「急性期治療」と、発作の頻度や重症度を減らす「予防治療」の2つの柱で構成されます。
- 急性期治療: 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やトリプタン製剤が主に用いられます。トリプタン製剤は、脳の血管収縮作用や神経伝達物質の放出抑制作用により、片頭痛特有の痛みに効果を発揮します。
- 予防治療: β遮断薬、カルシウム拮抗薬、抗てんかん薬などが用いられてきましたが、近年ではCGRP関連抗体薬という新しいタイプの注射薬が登場し、高い有効性が報告されています。これらの予防薬は、頭痛の頻度を月あたり数回減らす効果が期待できます。
筆者の臨床経験では、CGRP関連抗体薬の導入により、長年片頭痛に苦しんできた患者さんが「頭痛で寝込む日が格段に減った」と生活の質の改善を実感されるケースを多く経験しています。治療開始後、数ヶ月で効果を実感される方が多い印象です。
片頭痛の治療薬は、症状や体質によって適応が異なります。自己判断せずに、必ず医師の診察を受け、適切な診断と処方を受けることが重要です。
てんかんとは?その多様な症状と最新治療
てんかんは、脳の神経細胞の過剰な電気的興奮によって引き起こされる発作を特徴とする慢性的な脳の病気です。世界中で約5000万人が罹患しているとされ、年齢や性別に関わらず誰にでも起こりうる疾患です[4]。
てんかんの原因とメカニズム
てんかんの原因は多岐にわたります。脳卒中、頭部外傷、脳腫瘍、脳炎、先天性脳奇形、遺伝的要因などが挙げられます。しかし、約半数のケースでは原因が特定できない「特発性てんかん」と診断されます。発作のメカニズムとしては、脳内の神経細胞が異常に同期して過剰な電気活動を起こすことが知られています[2]。この異常な電気活動が脳のどの部位で発生するかによって、発作の症状は大きく異なります。
- 神経細胞の過剰な電気的興奮
- 脳内の神経細胞は普段、規則的な電気信号をやり取りしていますが、てんかんではこの電気信号が一時的に乱れ、過剰かつ無秩序な放電が起こります。これがてんかん発作の直接的な原因となります。
てんかんの症状は多様?
てんかんの発作症状は非常に多様で、全身のけいれんを伴う「全般発作」だけでなく、意識がぼんやりする「欠神発作」、体の一部がピクつく「焦点発作」、突然意識を失い倒れる「脱力発作」など、様々なタイプがあります[4]。発作のタイプは、脳のどの部位から異常な電気活動が始まるかによって決まります。例えば、側頭葉てんかんでは、意識が混濁し、口をモグモグさせる、手をまさぐるなどの自動症が見られることがあります。
外来診療では、「意識が飛ぶ瞬間がある」「急に体が硬直して倒れてしまう」といった訴えで受診される患者さんが増えています。特に、発作が非けいれん性である場合、本人や周囲の人がてんかん発作と認識しにくいこともあり、診断が遅れるケースも少なくありません。正確な診断のためには、発作時の状況を詳細に聞き取ることが非常に重要です。
てんかんの診断と評価
てんかんの診断には、詳細な問診、脳波検査(EEG)、MRIなどの画像診断が用いられます。脳波検査では、脳の電気活動を記録し、てんかん特有の異常波形(てんかん性放電)の有無を確認します。MRIでは、脳の構造的な異常(脳腫瘍、脳奇形など)がないかを調べます。また、発作のタイプや頻度、認知機能への影響なども総合的に評価されます[1]。
てんかん治療の進歩
てんかんの治療は、主に抗てんかん薬による薬物療法が中心となります。現在、様々な種類の抗てんかん薬があり、患者さんの発作タイプや年齢、合併症などに応じて最適な薬剤が選択されます。約7割の患者さんは、適切な薬物療法によって発作を抑制できるとされています。
| 治療法 | 主な特徴 | 期待される効果 |
|---|---|---|
| 薬物療法 | 抗てんかん薬の内服 | 発作の抑制(約7割の患者で効果あり) |
| 外科治療 | 発作焦点の切除、迷走神経刺激療法など | 薬物療法で効果不十分な難治性てんかん |
| 食事療法 | ケトン食療法 | 小児の難治性てんかんの一部 |
薬物療法で発作が十分に抑制できない「難治性てんかん」の場合、外科治療(発作焦点の切除や迷走神経刺激療法など)や、ケトン食療法といった代替療法が検討されることもあります。近年では、てんかんの認知機能への影響も注目されており、発作のコントロールだけでなく、生活の質の維持・向上を目指した包括的なアプローチが重要とされています[3]。臨床現場では、抗てんかん薬の副作用で眠気やふらつきを訴える患者さんもいるため、薬剤の選択や用量調整は慎重に行う必要があります。定期的なフォローアップで、効果と副作用のバランスを見ながら最適な治療を継続していくことが、てんかん治療の重要なポイントになります。
その他の機能性疾患にはどのようなものがある?

機能性疾患は、身体的な異常が見つからないにも関わらず、様々な症状が現れる病態の総称です。片頭痛やてんかん以外にも、多種多様な機能性疾患が存在し、患者さんの生活の質に大きな影響を与えています。
機能性消化管疾患
消化器系の機能性疾患は非常に多く、代表的なものに過敏性腸症候群(IBS)や機能性ディスペプシア(FD)があります。これらの疾患は、腸や胃の動き(蠕動運動)の異常、内臓の知覚過敏、脳腸相関の乱れなどが原因と考えられています。
- 過敏性腸症候群(IBS): 腹痛や腹部の不快感を伴う下痢や便秘が慢性的に続く疾患です。ストレスや食事内容が症状に影響を与えることが多いです。
- 機能性ディスペプシア(FD): 胃もたれ、早期満腹感、みぞおちの痛みや灼熱感などが慢性的に続くにもかかわらず、内視鏡検査などで異常が見つからない病態です。
日々の診療では、「お腹の調子が悪いのに、検査では異常なしと言われて困っている」と相談される方が少なくありません。このような場合、症状のパターンを詳細に聞き取り、食事内容や生活習慣、ストレス要因などを総合的に評価し、適切な薬物療法や生活指導を行います。プロバイオティクスや低FODMAP食などの食事療法が有効なケースもあります。
機能性神経症状症(FND)
機能性神経症状症(Functional Neurological Disorder: FND)は、手足の麻痺、けいれん、歩行障害、視覚障害、嚥下障害など、神経学的な症状が現れるにもかかわらず、神経系の器質的な病変が見つからない状態を指します。かつては「ヒステリー」などと呼ばれていましたが、現在は脳の機能的なネットワークの異常が関与していると考えられています。
- 診断: 身体診察で特定の身体所見(例えば、ホーバー徴候など)を確認し、器質的疾患を除外することで診断されます。
- 治療: 精神療法(特に認知行動療法)、理学療法、作業療法、薬物療法(抗うつ薬など)が組み合わせて行われることが多いです。
臨床経験上、FNDの患者さんでは、症状に対する不安やストレスが症状を悪化させる悪循環に陥りやすいと感じています。そのため、患者さん自身が病態を理解し、治療に積極的に参加できるよう、丁寧な説明と心理的なサポートが非常に重要になります。
線維筋痛症
線維筋痛症は、全身の広範囲にわたる慢性的な痛みと、こわばり、疲労感、睡眠障害、うつ症状などを特徴とする疾患です。検査では異常が見つからないことが多く、診断が難しい場合があります。脳の痛みの処理経路の異常や、神経伝達物質のバランスの乱れが関与していると考えられています。
- 診断: 身体診察で圧痛点を確認し、広範囲にわたる慢性的な痛みの病歴に基づいて診断されます。
- 治療: 薬物療法(プレガバリン、デュロキセチンなど)、運動療法、認知行動療法、温熱療法などが組み合わせて行われます。
これらの機能性疾患は、いずれも患者さんのQOL(生活の質)を著しく低下させる可能性があります。正確な診断と、多角的なアプローチによる治療が重要であり、患者さん一人ひとりの状態に合わせたオーダーメイドの治療計画が求められます。
最新コラム・症例報告から見る機能性疾患とてんかん
機能性疾患やてんかんに関する研究は日々進展しており、新たな知見や治療法が報告されています。ここでは、最新のコラムや症例報告から、特に注目すべきトピックをいくつかご紹介します。
てんかんと認知機能障害の関連性
てんかんは発作そのものだけでなく、認知機能にも影響を与えることが知られています。記憶障害、注意力の低下、思考速度の遅延などが報告されており、特に側頭葉てんかんでは記憶障害が顕著に見られることがあります[1]。最新の研究では、てんかん発作が脳の神経回路に長期的な変化をもたらし、認知機能障害を引き起こすメカニズムが解明されつつあります。また、抗てんかん薬の副作用としても認知機能への影響が指摘されており、治療においては発作の抑制と認知機能の維持の両面を考慮したアプローチが重要視されています[3]。
実臨床では、「発作が減っても、以前より物忘れがひどくなった気がする」「集中力が続かなくて困っている」という患者さんが多く見られます。このような訴えに対しては、神経心理学的検査を用いて認知機能の状態を客観的に評価し、必要に応じて抗てんかん薬の種類や用量の調整、認知リハビリテーションの導入などを検討します。患者さんの生活の質を総合的に向上させるためには、発作のコントロールだけでなく、認知機能への配慮も欠かせません。
機能性疾患における脳腸相関の重要性
過敏性腸症候群(IBS)などの機能性消化管疾患において、脳と腸の密接な関係、すなわち「脳腸相関」が注目されています。腸内細菌叢のバランスの乱れが脳機能に影響を与え、不安やストレスが消化器症状を悪化させるという双方向のメカニズムが明らかになってきています。最新のコラムでは、プロバイオティクスやプレバイオティクスを用いた腸内環境の改善が、IBSの症状緩和に寄与する可能性が報告されています。また、マインドフルネスや認知行動療法といった心理療法も、脳腸相関を介して症状改善に効果を示すことが示唆されています。
AIを用いたてんかん診断支援の可能性
近年、医療分野におけるAI(人工知能)の活用が進んでおり、てんかんの診断支援においてもその可能性が探られています。特に、脳波(EEG)データは膨大であり、熟練の医師でも異常波形の検出には時間と経験を要します。AIは、大量の脳波データを学習することで、てんかん性放電の自動検出や、発作の予測、さらには発作焦点の特定を支援できる可能性があります。これにより、診断の迅速化や客観性の向上が期待されています。まだ研究段階ではありますが、将来的にAIがてんかん診療の現場で重要な役割を果たす日が来るかもしれません。
最新の研究や治療法は常に更新されています。個々の患者さんへの適用には、専門医による慎重な判断と、エビデンスに基づいた評価が必要です。
まとめ

機能性疾患とてんかんは、身体的な異常が見えにくいにもかかわらず、患者さんの日常生活に大きな影響を与える病態です。片頭痛は脳の血管や神経の機能異常が関与する慢性頭痛であり、てんかんは脳の神経細胞の過剰な電気的興奮による発作を特徴とします。これら以外にも、過敏性腸症候群や機能性神経症状症など、多岐にわたる機能性疾患が存在します。診断には詳細な問診と専門的な検査が必要であり、治療は薬物療法を中心に、外科治療や食事療法、心理療法などを組み合わせた多角的なアプローチがとられます。最新の研究では、認知機能への影響や脳腸相関、AIによる診断支援など、新たな知見が日々報告されており、患者さんの生活の質の向上を目指した治療法の開発が進められています。症状に悩む場合は、早めに専門医に相談し、適切な診断と治療を受けることが重要です。
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- Julie K Janecek, Sara J Swanson, Sara Pillay. Epilepsy and Neuropsychology.. Neurologic clinics. 2024. PMID: 39343479. DOI: 10.1016/j.ncl.2024.05.009
- S Engelborghs, R D’Hooge, P P De Deyn. Pathophysiology of epilepsy.. Acta neurologica Belgica. 2001. PMID: 11233674
- C Helmstaedter, Z Sadat-Hossieny, A M Kanner et al.. Cognitive disorders in epilepsy II: Clinical targets, indications and selection of test instruments.. Seizure. 2021. PMID: 33172763. DOI: 10.1016/j.seizure.2020.09.031
- T P Bleck. Epilepsy.. Disease-a-month : DM. 1988. PMID: 3319463. DOI: 10.1016/0011-5029(87)90015-0

