腹痛の原因と治し方|専門医が解説する対処法
最終更新日: 2026-05-12
📋 この記事のポイント
- ✓ 腹痛は痛む場所、痛みの種類、随伴症状によって原因を推測できます。
- ✓ 自己判断せず、危険なサインを見逃さずに適切なタイミングで医療機関を受診することが重要です。
- ✓ 市販薬は一時的な症状緩和に有効ですが、根本治療にはならず、医師の診断が不可欠です。
※ 本記事は医療に関する情報提供を目的としています。個別の症状については、かかりつけの医療機関にご相談ください。
腹痛は、誰もが一度は経験する身近な症状ですが、その原因は多岐にわたり、軽度のものから命に関わる重篤な疾患まで様々です。この記事では、腹痛の原因、対処法、市販薬の選び方、そして医療機関を受診すべきタイミングについて、専門医の視点から詳しく解説します。
📑 目次
痛む場所でわかる腹痛の原因とは?

| 痛む場所 | 考えられる主な原因 | 関連臓器 |
|---|---|---|
| みぞおち(上腹部中央) | 胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、逆流性食道炎、機能性ディスペプシア[4]、急性膵炎[2]、胆石症 | 胃、十二指腸、膵臓、胆嚢、食道 |
| 右季肋部(右上腹部) | 胆石症、急性胆嚢炎、肝炎、肝膿瘍 | 胆嚢、肝臓 |
| 左季肋部(左上腹部) | 急性膵炎[2]、脾腫、胃炎 | 膵臓、脾臓、胃 |
| へその周囲(臍周囲) | 急性胃腸炎、腸閉塞[1]、虫垂炎初期、過敏性腸症候群 | 小腸、大腸 |
| 右下腹部 | 急性虫垂炎、大腸憩室炎、卵巣疾患(女性)、尿路結石 | 虫垂、大腸、卵巣、尿管 |
| 左下腹部 | 大腸憩室炎、潰瘍性大腸炎、クローン病、過敏性腸症候群、卵巣疾患(女性)、尿路結石、顕微鏡的大腸炎[3] | 大腸、卵巣、尿管 |
| 下腹部全体 | 膀胱炎、子宮内膜症(女性)、便秘、過敏性腸症候群 | 膀胱、子宮、大腸 |
| 腹部全体 | 腹膜炎、腸閉塞[1]、重症胃腸炎、虚血性腸炎 | 腹腔全体、小腸、大腸 |
上腹部の痛み:胃や膵臓、胆嚢の疾患
みぞおちや上腹部の痛みは、胃や十二指腸、膵臓、胆嚢といった消化器系の臓器に起因することが多いです。胃炎や胃潰瘍、逆流性食道炎は比較的よく見られる疾患で、食後に痛みが増したり、胸やけを伴ったりすることがあります。急性膵炎は、みぞおちから背中にかけて激しい痛みが放散し、吐き気や嘔吐を伴うことが特徴です[2]。胆石症による痛みは、右季肋部に起こり、脂っこい食事の後に出現しやすい傾向があります。下腹部の痛み:大腸や婦人科系の疾患
下腹部の痛みは、大腸の疾患(過敏性腸症候群、大腸憩室炎、潰瘍性大腸炎など)や、女性の場合には子宮や卵巣といった婦人科系の疾患が原因となることがあります。特に右下腹部の痛みは急性虫垂炎が有名ですが、女性では卵巣嚢腫の破裂や茎捻転、子宮外妊娠なども鑑別に入れる必要があります。左下腹部の痛みでは、大腸憩室炎や炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病など)が考えられます。臨床現場では、女性の患者さんで下腹部痛を訴える場合、消化器疾患と婦人科疾患の両面からアプローチすることが重要になります。痛みの種類と危険なサインとは?
腹痛の診断において、痛みの性質や程度、そして随伴する症状は、原因を絞り込む上で非常に重要な情報となります。特に、緊急性の高い病態を示す「危険なサイン」を見逃さないことが、迅速な治療開始につながります。痛みの種類からわかること
腹痛の表現は患者さんによって様々ですが、いくつかの特徴的な痛みの種類があります。- ズキズキ、キリキリ、シクシクする痛み(内臓痛): 胃や腸などの内臓が痙攣したり、炎症を起こしたりしている場合に感じやすい痛みです。周期的に強くなったり弱くなったりすることがあります。急性胃腸炎や過敏性腸症候群、胆石発作などでよく見られます。
- 差し込むような激しい痛み(疝痛): 臓器が詰まったり、強く収縮したりすることで起こる痛みです。尿路結石や胆石発作、腸閉塞[1]などで特徴的です。七転八倒するような激痛を伴うことがあります。
- 持続的な重い痛み、鈍痛(体性痛): 腹膜や腹壁に炎症が及んでいる場合に感じやすい痛みです。急性虫垂炎や腹膜炎などで見られ、体を動かすと痛みが強くなる傾向があります。
- 焼けるような痛み: 胃酸の逆流による逆流性食道炎や、胃潰瘍などで感じられることがあります。
見逃してはいけない危険なサイン
以下の症状が腹痛に加えて見られる場合は、速やかに医療機関を受診する必要があります。これらは重篤な疾患の兆候である可能性が高いです。⚠️ 危険なサイン
- 突然発症する激しい痛み: 虫垂炎、急性膵炎[2]、腸閉塞[1]、消化管穿孔、腹部大動脈瘤破裂など、緊急手術が必要な疾患の可能性があります。
- 痛みが徐々に増強し、持続する: 急性虫垂炎や腹膜炎などで見られます。
- 発熱を伴う: 感染症(急性胃腸炎、虫垂炎、胆嚢炎、憩室炎など)や炎症性疾患の可能性が高いです。
- 吐血、下血、タール便: 消化管からの出血を示唆します。胃潰瘍、十二指腸潰瘍、大腸炎、消化管悪性腫瘍などが考えられます。
- 嘔吐が止まらない、または胆汁性・便臭の嘔吐: 腸閉塞[1]や重度の胃腸炎の可能性があります。
- お腹が硬い、板状硬(腹膜刺激症状): 腹膜炎の典型的な兆候で、緊急性が高いです。
- 意識障害、顔面蒼白、冷や汗、呼吸困難など全身状態の悪化: ショック状態に陥っている可能性があり、非常に危険です。
- 黄疸(皮膚や白目が黄色くなる): 肝臓や胆道の疾患を示唆します。
- 体重減少: 慢性的な腹痛に体重減少が伴う場合、悪性腫瘍や炎症性腸疾患などの可能性も考慮が必要です。
腹痛の応急処置・市販薬・受診先とは?

腹痛時の応急処置とセルフケア
軽度の腹痛であれば、自宅でできる応急処置やセルフケアで症状が和らぐことがあります。- 安静にする: 横になって体を休ませることが大切です。無理に動くと痛みが悪化することがあります。
- 体を温める: 腹部を温めることで、血行が促進され、筋肉の緊張が和らぎ、痛みが軽減されることがあります。温かいタオルやカイロを当てる、温かい飲み物を飲むなどが有効です。ただし、炎症が原因の腹痛(虫垂炎など)の場合、温めると悪化することもあるため注意が必要です。
- 消化の良いものを摂る: 胃腸に負担をかけないよう、おかゆやうどん、スープなど、消化の良いものを少量ずつ摂取しましょう。刺激物や脂っこいものは避けてください。
- 水分補給: 下痢や嘔吐を伴う場合は、脱水症状を防ぐために、経口補水液などでこまめに水分を補給しましょう。
市販薬の選び方と注意点
市販薬は、一時的な腹痛の緩和に有効な場合がありますが、原因を治療するものではありません。症状や痛みの種類に応じて適切な薬を選びましょう。- 鎮痛鎮痙薬
- ブスコパンA錠(成分:ブチルスコポラミン臭化物)など。胃腸の過剰な動きを抑え、痙攣性の痛みを和らげます。下痢や生理痛に伴う腹痛に有効な場合があります。緑内障や前立腺肥大症のある方は使用できません。
- 胃腸薬
- H2ブロッカー(ガスター10など)や制酸剤(太田胃散など)。胃酸の分泌を抑えたり、中和したりすることで、胃炎や胃酸過多によるみぞおちの痛みを和らげます。
- 整腸剤
- ビオフェルミン、エビオス錠など。腸内環境を整えることで、下痢や便秘に伴う腹痛の改善に役立ちます。
⚠️ 市販薬使用時の注意点
自己判断で市販薬を使い続けると、重篤な病気の発見が遅れる可能性があります。特に、痛みが強い、発熱や嘔吐を伴う、症状が改善しない、悪化するといった場合は、市販薬に頼らず速やかに医療機関を受診してください。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、胃腸に負担をかけることがあるため、胃痛がある場合は避けるべきです。
適切な受診先は?
腹痛の原因は多岐にわたるため、まずはかかりつけ医や内科を受診するのが一般的です。必要に応じて、消化器内科、外科、婦人科など、専門の診療科を紹介されることがあります。- 内科・消化器内科: 胃腸炎、胃潰瘍、過敏性腸症候群、胆石症、膵炎など、消化器系の疾患全般に対応します。
- 外科: 急性虫垂炎、腸閉塞[1]、消化管穿孔など、手術が必要となる可能性のある疾患に対応します。
- 婦人科: 女性の場合、子宮や卵巣の疾患(子宮筋腫、卵巣嚢腫、子宮外妊娠など)による下腹部痛に対応します。
- 泌尿器科: 尿路結石や膀胱炎など、泌尿器系の疾患による腹痛に対応します。
症状の掛け合わせ(腹痛+〇〇)でわかることとは?
腹痛は単独で現れるだけでなく、他の様々な症状と組み合わさることで、特定の疾患を強く示唆する手がかりとなります。これらの「随伴症状」を把握することは、正確な診断に不可欠です。腹痛+発熱
腹痛に発熱が加わる場合、体内で炎症や感染が起きている可能性が高いです。- 急性胃腸炎: 腹痛、発熱、下痢、嘔吐が同時に起こることが多いです。ウイルス性(ノロウイルス、ロタウイルスなど)や細菌性(サルモネラ、カンピロバクターなど)があります。
- 急性虫垂炎: 初期はみぞおちの痛みで始まり、徐々に右下腹部に移動し、発熱を伴うことが多いです。
- 急性胆嚢炎: 右季肋部の激しい痛みと発熱、吐き気を伴います。胆石が原因となることが多いです。
- 大腸憩室炎: 左下腹部痛と発熱が典型的な症状です。
- 急性膵炎: みぞおちから背中への放散痛、発熱、吐き気、嘔吐を伴う激しい痛みです[2]。
腹痛+下痢・便秘
排便習慣の変化を伴う腹痛は、大腸の疾患を示唆することが多いです。- 腹痛+下痢:
- 急性胃腸炎: 感染性胃腸炎では、腹痛、下痢、嘔吐が主な症状です。
- 過敏性腸症候群 (IBS): 慢性的な腹痛と下痢(または便秘、あるいは両方)が特徴で、排便によって症状が改善することが多いです。ストレスが関与すると言われています。
- 炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病): 慢性的な腹痛、下痢(血便を伴うことも)、体重減少などが特徴です。
- 顕微鏡的大腸炎: 水様性の下痢と腹痛が慢性的に続く疾患で、内視鏡では異常が見られにくいですが、生検で診断されます[3]。
- 腹痛+便秘:
- 機能性便秘: 便が停滞することで腹痛や腹部膨満感が生じます。
- 腸閉塞[1]: 腹痛、嘔吐、腹部膨満感、排便・排ガスの停止が特徴です。緊急性が高く、速やかな診断と治療が必要です。
腹痛+吐き気・嘔吐
腹痛に吐き気や嘔吐が伴う場合、胃や十二指腸、膵臓、胆嚢などの上部消化管の疾患や、腸閉塞[1]などが考えられます。- 急性胃腸炎: 腹痛、吐き気、嘔吐、下痢が同時に起こることが多いです。
- 急性膵炎[2]: 激しい腹痛と共に、吐き気や嘔吐が高頻度で現れます。
- 胆石症・急性胆嚢炎: 右季肋部痛と共に、吐き気や嘔吐を伴うことがあります。
- 腸閉塞[1]: 腹痛、嘔吐、腹部膨満感、排便・排ガスの停止が特徴です。嘔吐物が便臭を帯びることもあります。
- 機能性ディスペプシア[4]: 慢性的なみぞおちの痛みや胃もたれ、吐き気などを伴いますが、内視鏡検査では異常が見つかりません。
まとめ

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📖 参考文献
- Patrick Jackson, Mariana Vigiola Cruz. Intestinal Obstruction: Evaluation and Management. American family physician. 2019. PMID: 30215917
- Vikesh K Singh, Dhiraj Yadav, Pramod K Garg. Diagnosis and Management of Chronic Pancreatitis: A Review. JAMA. 2020. PMID: 31860051. DOI: 10.1001/jama.2019.19411
- Stephan Miehlke, Bas Verhaegh, Gian Eugenio Tontini et al. Microscopic colitis: pathophysiology and clinical management. The lancet. Gastroenterology & hepatology. 2020. PMID: 30860066. DOI: 10.1016/S2468-1253(19)30048-2
- Gregory S Sayuk, C Prakash Gyawali. Functional Dyspepsia: Diagnostic and Therapeutic Approaches. Drugs. 2021. PMID: 32691294. DOI: 10.1007/s40265-020-01362-4
🏛️ ガイドライン・公的資料
この記事の監修
👨⚕️
樋口泰亮
消化器内科医

