- ✓ 下痢は急性か慢性かで原因や対処法が大きく異なり、適切な鑑別が重要です。
- ✓ 脱水症状の予防が最も重要であり、経口補水液などで水分・電解質を補給しましょう。
- ✓ 市販薬は症状を和らげる効果が期待できますが、原因によっては使用を避けるべき場合もあります。
下痢は、便の水分量が増加し、泥状または水様便が頻繁に排泄される状態を指します。日常的によく経験する症状の一つですが、その原因は多岐にわたり、適切な対処法も異なります。特に「下痢が止まらない」という状況は、身体に大きな負担をかけ、脱水症状や栄養不足を引き起こす可能性もあるため、注意が必要です。この記事では、下痢の主な原因から、ご自身でできる応急処置、市販薬の選び方、そして医療機関を受診すべき目安まで、専門医の立場から詳しく解説します。
急性の下痢(数日〜1週間)とは?その主な原因と対処法

急性の下痢とは、通常、数日から1週間以内に治まる下痢のことで、突然発症することが多いのが特徴です。その多くは感染症によるものですが、食中毒や薬剤の影響も考えられます。
- 急性下痢
- 発症から数日〜1週間程度で改善が見られる下痢の総称です。主に感染性胃腸炎や食中毒、薬剤性などが原因となります。
急性の下痢、主な原因は?
急性の下痢の最も一般的な原因は、ウイルスや細菌による感染性胃腸炎です。ノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルスなどのウイルス性胃腸炎は、嘔吐や発熱を伴うことが多く、冬場に流行しやすい傾向があります。細菌性胃腸炎では、サルモネラ菌、O-157などの腸管出血性大腸菌、カンピロバクターなどが原因となり、激しい腹痛や血便を伴うこともあります。これらの病原体は、汚染された食品や水を摂取すること、または感染者との接触によって感染が広がります。
- ウイルス性胃腸炎: ノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルスなど。
- 細菌性胃腸炎: サルモネラ菌、カンピロバクター、病原性大腸菌(O-157など)など。
- 食中毒: 毒素型(黄色ブドウ球菌、セレウス菌など)と感染型(サルモネラ菌、腸炎ビブリオなど)があります。
- 薬剤性: 抗生物質や一部の降圧剤、糖尿病治療薬などが原因となることがあります。
また、旅行先での水や食事による「旅行者下痢」も急性の下痢の一種で、大腸菌などが主な原因となります。日常診療では、特に冬場になると「急な嘔吐と下痢で家族全員がダウンした」といったウイルス性胃腸炎の患者さんが多く見られます。食品を介した感染や、接触による感染が広がりやすいことを実感します。
急性の下痢に対する具体的な対処法
急性の下痢の場合、最も重要なのは脱水症状の予防です。下痢によって体内の水分と電解質が大量に失われるため、経口補水液やスポーツドリンクなどで積極的に補給する必要があります。水分補給の際は、一度に大量に飲むのではなく、少量ずつこまめに摂取することが推奨されます。また、消化管を休ませるために、下痢がひどい間は食事を控えるか、おかゆやうどん、すりおろしたリンゴなど、消化の良いものを少量ずつ摂取しましょう。刺激物や脂っこい食事、乳製品、アルコール、カフェインは避けるべきです。
自己判断で市販の下痢止め薬を使用する際は注意が必要です。特に細菌性胃腸炎の場合、下痢を止めることで病原菌や毒素の排出が妨げられ、症状が悪化する可能性があります。発熱や血便、激しい腹痛を伴う場合は、早めに医療機関を受診してください。
筆者の臨床経験では、感染性胃腸炎で受診された患者さんには、まず十分な水分補給の重要性を説明し、食事内容のアドバイスを徹底します。特に乳幼児や高齢者では脱水が進みやすいため、ご家族への指導も丁寧に行うよう心がけています。下痢が止まらないと訴える方には、整腸剤を処方し、経過を観察することが多いです。
感染性下痢は、世界的に公衆衛生上の重要な問題であり、特に小児における持続性下痢は重篤な結果を招く可能性があります[1]。適切な水分補給と栄養管理が予後を左右するため、軽視せずに対応することが求められます。
慢性の下痢(数週間以上続く)とは?その複雑な原因と診断
慢性の下痢とは、通常、2週間から4週間以上持続する下痢を指します。急性の下痢とは異なり、感染症だけでなく、様々な消化器疾患や全身疾患が原因となることが多く、診断には詳細な問診と検査が必要です。
慢性の下痢を引き起こす主な病気とは?
慢性の下痢の原因は多岐にわたります。代表的なものとしては、過敏性腸症候群(IBS)、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)、甲状腺機能亢進症、糖尿病性神経障害、膵外分泌不全、セリアック病、乳糖不耐症、薬剤性などが挙げられます。特に過敏性腸症候群は、検査では異常が見られないにもかかわらず、腹痛を伴う下痢や便秘を繰り返す機能性疾患であり、ストレスが症状を悪化させることが知られています[2]。
- 過敏性腸症候群(IBS): 腹痛を伴う下痢や便秘が慢性的に続くが、器質的な病変がない。
- 炎症性腸疾患: 潰瘍性大腸炎、クローン病など。血便や発熱、体重減少を伴うことがある。
- 内分泌疾患: 甲状腺機能亢進症、糖尿病など。
- 吸収不良症候群: 膵外分泌不全、セリアック病、乳糖不耐症など。栄養吸収障害を伴う。
- 薬剤性: 慢性的に服用している薬剤の副作用。
日常診療では、「もう何ヶ月も下痢が続いていて、仕事中も不安になる」と相談される方が少なくありません。特に若い世代では過敏性腸症候群の診断に至るケースが多いですが、高齢者では基礎疾患や服用薬剤の影響を慎重に評価する必要があります。
慢性の下痢の診断と治療アプローチ
慢性の下痢の診断では、まず詳細な問診が重要です。下痢の頻度、便の性状(水様便、泥状便、脂肪便、血便など)、随伴症状(腹痛、発熱、体重減少、食欲不振など)、既往歴、服用中の薬剤、食生活、ストレスの有無などを詳しく聞きます。次に、血液検査、便検査(細菌培養、寄生虫検査、便潜血検査など)、腹部超音波検査、大腸内視鏡検査、胃内視鏡検査などが行われることがあります。これらの検査によって、炎症性腸疾患や腫瘍、吸収不良症候群などの器質的な疾患を除外し、適切な診断へと導きます[3]。
治療は原因によって大きく異なります。例えば、過敏性腸症候群であれば、食事指導(FODMAP食など)、ストレス管理、生活習慣の改善、薬物療法(整腸剤、消化管運動機能改善薬、抗不安薬など)が中心となります。炎症性腸疾患であれば、抗炎症薬や免疫抑制剤が用いられます。膵外分泌不全の場合は、消化酵素補充療法が有効です[2]。乳糖不耐症であれば、乳製品の摂取制限が推奨されます。
| 項目 | 急性下痢 | 慢性下痢 |
|---|---|---|
| 持続期間 | 数日〜1週間 | 2週間〜4週間以上 |
| 主な原因 | 感染症(ウイルス・細菌)、食中毒、薬剤性 | 過敏性腸症候群、炎症性腸疾患、内分泌疾患、吸収不良症候群、薬剤性 |
| 随伴症状 | 嘔吐、発熱、腹痛 | 腹痛、体重減少、貧血、倦怠感、発熱 |
| 受診の目安 | 高熱、血便、激しい腹痛、脱水症状 | 2週間以上続く下痢、体重減少、血便、貧血 |
臨床現場では、慢性の下痢の患者さんに対しては、問診で症状のパターンや生活習慣を詳細に把握することから始めます。特に、食事内容やストレス状況、睡眠の質などが症状にどう影響しているかを確認し、必要に応じて大腸内視鏡検査などを提案します。患者さんの中には、長期間にわたり原因不明の下痢に悩まされ、精神的な負担も大きい方が多いため、丁寧な説明と継続的なサポートが重要になります。
下痢の応急処置・市販薬・受診先とは?自宅でのケアと医療機関の判断基準

下痢の症状が出た際、自宅でどのように対処すればよいのか、またどのような場合に医療機関を受診すべきかを知っておくことは非常に重要です。
自宅でできる応急処置とセルフケア
下痢の応急処置として最も大切なのは、脱水症状の予防と消化管の安静です。水分補給は、経口補水液やスポーツドリンク、薄めた野菜スープなどが適しています。カフェインやアルコール、乳製品は下痢を悪化させる可能性があるため避けましょう。食事は、下痢が落ち着くまで消化の良いものを選び、少量ずつ摂取することが基本です。具体的には、おかゆ、うどん、白身魚、鶏むね肉、すりおろしリンゴなどが良いでしょう。また、体を冷やさないように温かくして安静にすることも大切です。
- 水分補給: 経口補水液、スポーツドリンク、薄めた野菜スープなどを少量ずつこまめに。
- 食事: おかゆ、うどん、白身魚、鶏むね肉、すりおろしリンゴなど消化の良いものを。
- 避けるべきもの: 脂っこいもの、刺激物、乳製品、アルコール、カフェイン。
- 安静: 体を冷やさず、十分な休息を取る。
筆者の臨床経験では、下痢の初期段階で「何を飲んだらいいですか?」「何を食べたらいいですか?」と質問される患者さんが多いです。その際には、経口補水液の選び方や、消化に良い食事の具体例を丁寧に説明し、無理に食事を摂ろうとせず、まずは水分補給を優先するようアドバイスしています。
市販薬の選び方と注意点
市販の下痢止め薬には、腸の動きを抑えるもの、腸内の水分吸収を促進するもの、腸内環境を整える整腸剤などがあります。ロペラミド塩酸塩などの成分は、腸の蠕動運動を抑え、下痢の回数を減らす効果が期待できます。しかし、細菌性胃腸炎や食中毒の場合、下痢を止めることで病原菌や毒素が体内に留まり、症状が悪化する可能性があるため、安易な使用は避けるべきです。発熱、血便、激しい腹痛を伴う場合は、下痢止め薬の使用は控えて医療機関を受診しましょう。
一方、乳酸菌やビフィズス菌などの生菌製剤である整腸剤は、腸内環境を改善し、下痢の症状を和らげる効果が期待できます。これらは比較的安全に利用できるため、急性の下痢の回復期や、慢性の下痢で腸内環境の乱れが疑われる場合に選択肢となります。
市販薬を使用する際は、必ず添付文書をよく読み、用法・用量を守ってください。特に小児や高齢者、妊娠中の方は、薬剤師や医師に相談してから使用するようにしましょう。
医療機関を受診すべきタイミングとは?
以下のような症状が見られる場合は、速やかに医療機関を受診してください。
- 高熱(38℃以上)を伴う下痢: 感染症の可能性が高いです。
- 血便や黒色便: 消化管からの出血が疑われます。
- 激しい腹痛や嘔吐が続く: 重篤な疾患の可能性があります。
- 脱水症状の兆候: 口の渇き、尿量の減少、めまい、意識の混濁など。
- 下痢が2日以上続く場合(特に乳幼児や高齢者): 脱水のリスクが高まります。
- 慢性的な下痢(2週間以上続く): 基礎疾患の鑑別が必要です。
- 海外渡航歴がある場合: 特殊な感染症の可能性があります。
外来診療では、「下痢が止まらないだけでなく、なんだか体がだるくて力が入らない」と訴えて受診される患者さんが増えています。これは脱水症状のサインであることが多く、点滴による水分補給が必要になることもあります。特に乳幼児や高齢者は、脱水が急速に進行し重症化しやすいため、注意深く観察し、早めの受診を促すことが重要です。
症状の掛け合わせ(下痢+〇〇)でわかることとは?
下痢は単独で現れることもありますが、他の症状と組み合わさることで、その原因や重症度を推測する重要な手がかりとなります。ここでは、下痢に加えてよく見られる症状とその意味について解説します。
下痢と発熱が同時に起こる場合、何が考えられる?
下痢と発熱が同時に現れる場合、最も一般的に考えられるのは感染性胃腸炎です。ウイルス性胃腸炎(ノロウイルス、ロタウイルスなど)や細菌性胃腸炎(サルモネラ菌、カンピロバクター、病原性大腸菌など)が原因で、腸管内で炎症が起きていることを示唆します。発熱は体が病原体と戦っている証拠であり、特に高熱の場合は細菌感染の可能性が高まります。また、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)の急性増悪期にも、下痢と発熱が同時に見られることがあります。
実臨床では、発熱を伴う下痢で受診された患者さんには、感染症の可能性を念頭に、便培養検査や血液検査を検討します。特に、海外渡航歴がある方や、生肉や生魚の摂取歴がある方には、特定の細菌感染症を疑い、適切な抗菌薬治療が必要となる場合があります。発熱が続く場合は、脱水症状の進行にも注意が必要です。
下痢と腹痛が強い場合、どのような病気が疑われる?
下痢と強い腹痛が同時に起こる場合、その原因は多岐にわたります。感染性胃腸炎では、病原体が腸管を刺激することで激しい腹痛を伴うことがあります。特に細菌性食中毒では、毒素によって腸管が強く収縮し、差し込むような痛みが特徴的です。また、過敏性腸症候群(IBS)の下痢型では、排便によって痛みが和らぐという特徴的な腹痛を伴うことが多いです。炎症性腸疾患でも、腸管の炎症が強いと激しい腹痛が生じます。その他、虚血性腸炎(腸への血流が悪くなる病気)や、大腸憩室炎なども強い腹痛と下痢を引き起こすことがあります。
日々の診療では、「お腹がねじれるように痛くて、トイレから離れられない」と訴える患者さんの話を聞くことがあります。このような場合、まずは感染症の有無を確認しつつ、過敏性腸症候群の可能性も考慮に入れ、食事内容やストレス要因についても詳しく問診するようにしています。痛みが非常に強い場合は、鎮痛剤の処方も検討しますが、原因疾患の特定が最も重要です。
下痢に血が混じる場合(血便)は緊急性が高い?
下痢に血が混じる、いわゆる血便は、消化管からの出血を示唆しており、緊急性の高い症状の一つです。鮮血が混じる場合は、大腸からの出血(痔、大腸炎、大腸がん、憩室出血など)が考えられます。黒っぽいタール状の便(タール便)の場合は、胃や十二指腸など上部消化管からの出血が疑われます。血便は、炎症性腸疾患の活動期、O-157などの腸管出血性大腸菌感染症、虚血性腸炎、大腸がんなど、重篤な疾患のサインである可能性があります。
診察の場では、「便器が真っ赤になるほどの出血があった」「便がドス黒い」と質問される患者さんも多いです。血便を認めた場合は、自己判断せずに速やかに医療機関を受診することが極めて重要です。特に、多量の出血、めまいや立ちくらみなどの貧血症状を伴う場合は、緊急性が高いため、すぐに救急医療機関を受診してください。筆者の臨床経験では、血便を主訴に受診された患者さんには、緊急で内視鏡検査を検討し、出血源の特定と止血処置を行うことが少なくありません。早期の診断と治療が、重篤な合併症を防ぐ上で非常に重要となります。
後感染性下痢(Post-infective diarrhoea)は、感染性胃腸炎の後に腸の機能が一時的に低下し、下痢が続く状態を指します[4]。これも下痢が長引く原因の一つですが、血便や発熱を伴う場合は、別の原因を疑う必要があります。
まとめ

下痢は誰もが経験する一般的な症状ですが、その原因は多岐にわたり、急性のものから慢性のもの、感染性のものから非感染性のものまで様々です。数日で治まる急性の下痢の多くは感染性胃腸炎ですが、脱水症状の予防が最も重要です。一方、2週間以上続く慢性の下痢は、過敏性腸症候群や炎症性腸疾患など、より複雑な原因が潜んでいる可能性があり、専門医による詳細な検査と診断が不可欠です。発熱、血便、激しい腹痛、脱水症状の兆候が見られる場合は、自己判断せずに速やかに医療機関を受診しましょう。適切な対処と早期の診断が、健康維持のために非常に重要です。
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オンライン診療を予約する(初診料無料)よくある質問(FAQ)
- R L Riveron Corteguera. [Persistent diarrhea].. Archivos dominicanos de pediatria. 1996. PMID: 12290553
- Darren M Brenner, J Enrique Domínguez-Muñoz. Differential Diagnosis of Chronic Diarrhea: An Algorithm to Distinguish Irritable Bowel Syndrome With Diarrhea From Other Organic Gastrointestinal Diseases, With Special Focus on Exocrine Pancreatic Insufficiency.. Journal of clinical gastroenterology. 2023. PMID: 37115854. DOI: 10.1097/MCG.0000000000001855
- B Müllhaupt. [Diarrhea].. Praxis. 2003. PMID: 12426943. DOI: 10.1024/0369-8394.91.42.1749
- J A Walker-Smith. Post-infective diarrhoea.. Current opinion in infectious diseases. 2002. PMID: 11964877. DOI: 10.1097/00001432-00010
- ロペミン(ロペラミド)添付文書(JAPIC)

