【コラム】ヒアルロン酸の「溶かす」施術、ヒアルロニダーゼの実際|医師が解説
最終更新日: 2026-05-12
📋 この記事のポイント
- ✓ ヒアルロニダーゼはヒアルロン酸を分解する酵素であり、ヒアルロン酸注入の修正や合併症治療に用いられます。
- ✓ 治療効果は注入されたヒアルロン酸の種類や量、注入部位によって異なり、複数回の施術が必要な場合もあります。
- ✓ アレルギー反応などのリスクがあるため、事前のパッチテストや専門医による適切な診断・施術が不可欠です。
※ 本記事は医療に関する情報提供を目的としています。個別の症状については、かかりつけの医療機関にご相談ください。
ヒアルロン酸注入は、しわの改善やボリュームアップなど、美容医療の分野で広く用いられている施術です。しかし、時に「注入したヒアルロン酸を溶かしたい」というニーズが生じることがあります。そのような場合に用いられるのが、「ヒアルロニダーゼ」という薬剤です。本記事では、ヒアルロニダーゼの作用機序から、具体的な施術の流れ、注意点まで、専門医の視点から詳しく解説します。
📑 目次
ヒアルロニダーゼとは?その作用機序を解説

ヒアルロン酸とヒアルロニダーゼの基本的な関係
ヒアルロン酸は、私たちの体内に元々存在するムコ多糖類の一種で、皮膚の真皮層や関節液などに豊富に含まれ、水分を保持し、組織の弾力性や潤滑性を保つ重要な役割を担っています。美容医療で用いられるヒアルロン酸フィラーは、このヒアルロン酸を人工的に精製し、架橋処理を施すことで、体内で分解されにくく、形を保ちやすいように加工したものです。 一方、ヒアルロニダーゼは、ヒアルロン酸のN-アセチルグルコサミンとグルクロン酸の結合を切断する酵素です。これにより、高分子のヒアルロン酸が低分子に分解され、体内に吸収されやすくなります。つまり、ヒアルロニダーゼは、ヒアルロン酸フィラーを「溶かす」作用を持つ、いわばヒアルロン酸の解毒剤のような存在と言えます。- ヒアルロン酸フィラー
- 美容医療で用いられる、しわの改善やボリュームアップを目的とした注入剤。ヒアルロン酸を主成分とし、架橋処理により持続性を高めている。
- ヒアルロニダーゼ
- ヒアルロン酸を分解する酵素。ヒアルロン酸注入の修正や合併症治療に用いられる医薬品。
ヒアルロニダーゼ治療が選択されるのはどんな時?
ヒアルロニダーゼによる治療は、ヒアルロン酸注入後に生じた様々な問題や、患者さんの希望に応じて行われます。主なケースとしては、以下のような状況が挙げられます。ヒアルロン酸注入の修正目的
最も一般的なのは、注入後の仕上がりが患者さんの希望と異なる場合や、不自然に見える場合の修正です。例えば、「思ったより盛り上がりすぎた」「左右差が気になる」「不自然な膨らみがある」といったケースです。日常診療では、「以前入れたヒアルロン酸が硬く残ってしまい、見た目が不自然なので溶かしたい」と相談される方が少なくありません。特に、目の下や唇など、デリケートな部位への注入では、わずかな量や位置の違いで印象が大きく変わるため、修正のニーズが生じやすい傾向にあります。合併症への対応
ヒアルロン酸注入は比較的安全な施術ですが、ごく稀に合併症を引き起こすことがあります。ヒアルロニダーゼは、これらの合併症に対する有効な治療法として用いられます。- 過剰注入や不適切な位置への注入: ボリュームが出すぎたり、希望しない部位にヒアルロン酸が移動してしまったりした場合に、ヒアルロニダーゼで分解します。
- しこりや結節の形成: 注入されたヒアルロン酸が一部で固まり、しこりや結節として触れるようになることがあります。特に、架橋密度の高いヒアルロン酸で起こりやすいとされています[2]。
- チンダル現象: 目の下など皮膚の薄い部位にヒアルロン酸が浅く注入されると、光の散乱によって皮膚が青っぽく見えることがあります。これをチンダル現象と呼び、ヒアルロニダーゼで分解することで改善が期待できます。
- 血管閉塞: 最も重篤な合併症の一つで、ヒアルロン酸が血管内に誤って注入され、血流が阻害されることで、皮膚壊死や失明に至る可能性があります。この場合、ヒアルロニダーゼを緊急で注入し、ヒアルロン酸を分解することで血流の再開を図ります[4]。血管閉塞の疑いがある場合は、迅速な診断と治療が極めて重要です。
- 遅発性炎症反応: 注入後数週間から数ヶ月経ってから、注入部位に赤み、腫れ、痛みなどの炎症反応が生じることがあります。これもヒアルロニダーゼの適応となる場合があります。
ヒアルロニダーゼ治療の具体的な流れと効果

治療前のカウンセリングと診察
まず、患者さんの悩みや希望、ヒアルロン酸注入の履歴(いつ、どこに、どのような種類のヒアルロン酸を注入したかなど)を詳しく伺います。注入部位の状態を視診・触診で確認し、ヒアルロニダーゼ治療が適切かどうかを判断します。この際、アレルギー歴の確認も重要です。パッチテストの実施
ヒアルロニダーゼは、蜂毒アレルギーのある方や、過去にヒアルロニダーゼでアレルギー反応を起こしたことがある方には使用できません[5]。そのため、治療に先立ち、腕の内側などに少量注射してアレルギー反応の有無を確認するパッチテストを行うことが推奨されます。約30分程度様子を見て、赤みや腫れ、かゆみなどの反応がないことを確認してから本施術に進みます。筆者の臨床経験では、パッチテストで陽性反応が出る方は稀ですが、万が一に備え、必ず実施しています。ヒアルロニダーゼの注入
治療部位を消毒した後、ヒアルロン酸が注入されている層に、ヒアルロニダーゼを少量ずつ丁寧に注入していきます。注入量や回数は、溶かしたいヒアルロン酸の量や種類、注入部位、そして患者さんの状態によって調整します。注入時には、チクッとした痛みを感じることがありますが、麻酔クリームの使用や冷却で緩和できます。治療後の経過と効果
ヒアルロニダーゼは注入後すぐにヒアルロン酸の分解を開始します。早ければ数分から数時間で効果が現れ始め、数日かけて徐々にヒアルロン酸が分解・吸収されていきます。注入されたヒアルロン酸の種類や架橋の程度によって分解速度は異なり、架橋密度の高いヒアルロン酸ほど分解に時間がかかる傾向があります[2]。実臨床では、治療開始から数日〜1週間ほどで明らかな変化を実感される方が多いです。場合によっては、一度の注入では完全に溶かしきれないこともあり、その場合は数週間後に再度注入を行うことがあります。日常診療では、「一度で全部溶けると思っていたのに」と質問される患者さんも多いですが、ヒアルロン酸の種類や量によっては複数回に分けて慎重に注入することが、より自然な仕上がりにつながることを丁寧に説明しています。ヒアルロニダーゼ治療の注意点とリスク
ヒアルロニダーゼは非常に有用な薬剤ですが、使用にあたってはいくつかの注意点とリスクがあります。アレルギー反応
前述の通り、ヒアルロニダーゼはアレルギー反応を引き起こす可能性があります。軽度であれば発赤、腫脹、かゆみなどですが、重篤な場合にはアナフィラキシーショックを起こすこともあります。そのため、事前のパッチテストは非常に重要です。また、治療中や治療後も患者さんの状態を注意深く観察し、異変があればすぐに対応できる体制が整っている医療機関で施術を受けるべきです。過剰な分解と自己組織への影響
ヒアルロニダーゼは、注入された人工的なヒアルロン酸だけでなく、体内に元々存在する自己のヒアルロン酸も分解する可能性があります[3]。そのため、適切な量を適切な深さに注入することが重要です。過剰に注入したり、不適切な部位に注入したりすると、注入部位の皮膚が一時的に凹んだり、たるんだりする可能性があります。しかし、自己のヒアルロン酸は体内で常に生成されているため、通常は一時的なもので、時間とともに回復することがほとんどです。臨床現場では、患者さんの皮膚の状態や注入部位の解剖学的構造を考慮し、慎重に注入量を決定することが重要なポイントになります。効果の予測と複数回治療の可能性
ヒアルロン酸の種類や架橋の度合い、注入量、注入部位などによって、ヒアルロニダーゼによる分解効果には個人差があります。そのため、一度の治療で完全に希望通りの結果が得られないこともあります。特に、架橋密度の高いヒアルロン酸や大量に注入されたヒアルロン酸は、分解に時間がかかったり、複数回の治療が必要になったりする傾向があります[1]。治療計画を立てる際には、これらの可能性について十分に説明を受け、理解しておくことが大切です。⚠️ 注意点
ヒアルロニダーゼ治療は、専門知識と経験を持つ医師によって行われるべきです。安易な自己判断や、不適切な施設での施術は、予期せぬ合併症や不自然な仕上がりにつながる可能性があります。必ず信頼できる医療機関で相談し、適切な診断と治療を受けるようにしましょう。
ヒアルロニダーゼ治療後のアフターケアと経過観察

治療直後の注意点
注入直後は、軽度の赤み、腫れ、内出血が生じることがあります。これらは通常、数日〜1週間程度で自然に治まります。冷却することで、腫れや痛みを軽減できます。注入部位を強く擦ったり、マッサージしたりすることは避けましょう。また、飲酒や激しい運動は、血行を促進し、腫れや内出血を悪化させる可能性があるため、治療後数日間は控えることが推奨されます。実際の診療では、注入部位に触れないようにお願いし、メイクも翌日からにするなど、具体的な指示を患者さんに伝えています。経過観察の重要性
ヒアルロニダーゼの効果は、注入後すぐに現れることもありますが、完全に分解されるまでには数日かかることがあります。そのため、治療後数日〜1週間後に再診し、注入部位の状態を確認することが重要です。この際、ヒアルロン酸の分解状況、腫れや内出血の有無、アレルギー反応などの異常がないかを確認します。もし、まだヒアルロン酸が残っている場合や、分解が不十分な場合は、追加のヒアルロニダーゼ注入を検討することもあります。筆者の臨床経験では、フォローアップの際に「まだ少し残っている気がする」とおっしゃる患者さんもいらっしゃるため、必要に応じて追加注入の判断を慎重に行います。ヒアルロニダーゼ治療と再注入のタイミング
ヒアルロニダーゼでヒアルロン酸を溶かした後、再度ヒアルロン酸を注入したいと考える方もいらっしゃるでしょう。ヒアルロニダーゼの効果が完全に切れるまでには個人差がありますが、一般的には数週間から1ヶ月程度期間を空けることが推奨されます。これは、ヒアルロニダーゼの残存効果によって、せっかく注入した新しいヒアルロン酸がすぐに分解されてしまうのを防ぐためです。再注入のタイミングについては、必ず担当医と相談し、適切な時期を判断するようにしてください。ヒアルロン酸の種類によるヒアルロニダーゼの効果の違いとは?
ヒアルロン酸フィラーには様々な種類があり、それぞれ架橋の度合いや粒子の大きさが異なります。これらの違いが、ヒアルロニダーゼによる分解効果に影響を与えることが知られています。架橋の度合いと分解速度
ヒアルロン酸フィラーは、体内で分解されにくくするために「架橋」という化学処理が施されています。架橋の度合いが高いほど、ヒアルロン酸は硬く、持続性が高くなります。しかし、その反面、ヒアルロニダーゼによる分解にも時間がかかる傾向があります[2]。逆に、架橋の度合いが低いヒアルロン酸は、比較的早く分解されます。| 項目 | 架橋密度の低いヒアルロン酸 | 架橋密度の高いヒアルロン酸 |
|---|---|---|
| 持続性 | 短い | 長い |
| 硬さ | 柔らかい | 硬い |
| ヒアルロニダーゼによる分解速度 | 速い | 遅い |
| 適応部位の例 | 目の下、唇など | あご、鼻、頬など |
事前に注入されたヒアルロン酸の特定は可能か?
患者さんが過去にどの種類のヒアルロン酸を注入したか不明な場合でも、ヒアルロニダーゼ治療は可能です。しかし、注入されたヒアルロン酸の種類が分かっていると、より効果的なヒアルロニダーゼの量や注入方法を計画しやすくなります。例えば、特定のヒアルロン酸フィラーに対するヒアルロニダーゼの分解効率に関する研究も進められています[2]。そのため、もし可能であれば、過去の施術情報を医療機関に伝えることが、より良い治療結果につながるでしょう。実際の診療では、他院で注入されたヒアルロン酸の修正依頼も多く、その際には注入されたヒアルロン酸の種類が不明なことも少なくありません。そのような場合でも、触診でヒアルロン酸の硬さや深さを確認し、経験に基づいて適切なヒアルロニダーゼの濃度や量を判断しています。まとめ
ヒアルロン酸の「溶かす」施術であるヒアルロニダーゼは、ヒアルロン酸注入後の不満や合併症を修正するための有効な手段です。ヒアルロニダーゼはヒアルロン酸を分解する酵素であり、注入されたヒアルロン酸を体内に吸収されやすい形に変化させます。治療は、事前のカウンセリング、パッチテスト、そして慎重な注入によって行われ、多くの場合、数日以内に効果を実感できます。しかし、アレルギー反応や過剰な分解のリスクも存在するため、専門知識と経験を持つ医師による適切な診断と施術が不可欠です。ヒアルロン酸の種類によって分解のしやすさが異なるため、過去の施術情報も重要となります。ヒアルロニダーゼ治療を検討する際は、必ず信頼できる医療機関で相談し、十分な説明を受けた上で治療に臨むようにしましょう。よくある質問(FAQ)
📖 参考文献
- Gi-Woong Hong, Hyewon Hu, Jovian Wan et al.. How Should We Use Hyaluronidase for Dissolving Hyaluronic Acid Fillers?. Journal of cosmetic dermatology. 2025. PMID: 39811886. DOI: 10.1111/jocd.16783
- Jimmy Faivre, Kevin Wu, Mélanie Gallet et al.. Comparison of Hyaluronidase-Mediated Degradation Kinetics of Commercially Available Hyaluronic Acid Fillers In Vitro.. Aesthetic surgery journal. 2024. PMID: 38366708. DOI: 10.1093/asj/sjae032
- Rodrigo Moraes Ferraz, Ulrika Sandkvist, Björn Lundgren. Degradation of Hylauronic Acid Fillers Using Hyaluronidase in an In Vivo Model.. Journal of drugs in dermatology : JDD. 2018. PMID: 29742187
- Claudio DeLorenzi. Transarterial degradation of hyaluronic acid filler by hyaluronidase.. Dermatologic surgery : official publication for American Society for Dermatologic Surgery [et al.]. 2014. PMID: 25022707. DOI: 10.1097/DSS.0000000000000062
- ヒアルロニダーゼ 添付文書 – PMDA(医薬品医療機器総合機構)
この記事の監修
👨⚕️
丸岩裕磨
美容皮膚科医

