肺血栓塞栓症(肺塞栓症)の症状と受診目安
急な息切れや胸痛を「疲れ」だけと決めず、緊急度を先に判断するための案内です。
肺血栓塞栓症は、主に足の深い静脈にできた血栓が肺動脈へ流れ、肺の血流を妨げる病気です。突然の息切れ、胸痛、失神が起こり得ますが、症状だけでは診断できません。強い呼吸困難、失神、意識の変化があれば119番を考え、安定していても急な症状は速やかに対面で評価を受けてください。
強い息切れ・胸痛・失神は原因を調べる前に救急対応
急に息苦しくなった、強い胸痛が続く、倒れた・意識がはっきりしない、唇が青紫色、会話が難しい場合は、記事を読み続けず119番を考えてください。自分で運転しないでください。
緊急時は119番へ肺塞栓症以外にも、心筋梗塞や気胸など緊急治療が必要な病気があります。症状から自分で病名を選ぶより、急な発症と全身状態を伝えることが重要です。急な息切れや失神は肺塞栓症を疑う手掛かりですが、単独で確定はできません。[1][2][3]
会話はできても急に息切れや胸痛が始まった場合は、通常の予約日を待たず、当日対応できる医療機関に連絡してください。移動方法も相談し、運転中や外出先なら安全な場所で助けを求めてください。[1][2]
足などの静脈血栓が肺へ届き、血流を妨げる
深部静脈血栓症(DVT)は、足の深い静脈などに血の塊ができる状態です。その一部が流れて肺動脈に詰まると肺血栓塞栓症になります。血流の障害が大きいほど心臓の右側に負担がかかり、血圧低下や失神につながることがあります。ただし血栓の大きさだけで重症度を決めません。[1][2]
「エコノミークラス症候群」は長時間の着座に関連する呼び名ですが、飛行機に乗った人だけの病気ではありません。手術や入院後、けがで動けない時、がん治療中、妊娠・産後などにも起こり得ます。逆に、危険因子が一つ見当たらなくても症状があれば評価が必要です。[1][2]

診察では、息切れが「いつ、どの動作で、どれほど急に」始まったかと、片脚の腫れ・痛み、最近の手術や入院、服薬を一緒に確認します。これらは検査の優先順位を決める手掛かりですが、症状や背景だけで肺塞栓症とは確定できません。
知りたいことに合わせて詳しい解説へ進む
いま症状がある人は、まず救急の目安を確認してください。落ち着いている人は、仕組み、起こりやすい背景、診断、治療のうち必要な内容を選べます。各ページは同じ説明を繰り返すのではなく、判断場面ごとに詳しく説明しています。
診断は起こりやすさを見積もり、必要な画像検査へ進む
医療機関では症状、脈拍、血圧、酸素化、脚の所見、手術・がんなどの背景から臨床的な可能性を評価します。可能性が低いか高くない場合はDダイマーという血液検査で除外できるか検討し、必要なら造影CTで肺動脈を確認します。Dダイマー高値だけでは確定できず、強く疑う場合は陰性の自己判断も危険です。造影剤が使いにくい場合は別の検査を検討します。[1][2][4][5]
- 問診・診察
- 発症時刻、血圧・脈拍・酸素化、脚の状態、最近の手術・入院を確認
- Dダイマー
- 発症可能性が高くない場合に、適切な基準と組み合わせて除外を検討
- 画像・心臓の評価
- 造影CTなどで肺動脈を確認し、重症度に応じ心エコーも検討
造影CTは有用ですが、全員が同じ検査を受けるわけではありません。腎機能、造影剤への懸念、妊娠、循環の安定性によって、検査の順番や代替法が変わります。[1][2]
抗凝固療法を基本に、循環が不安定なら別の治療を検討する
診断後は血栓の広がりや再発を抑える抗凝固療法が基本です。血圧低下や心臓への強い負担がある場合は、出血の危険を見ながら血栓を溶かす治療やカテーテル治療などを専門チームで検討します。治療期間は発症のきっかけ、再発歴、がん、出血リスクにより個別に決めます。薬を自己判断で中止・追加しないでください。[1][2][6]
入院が必要かどうかも、血圧や酸素化だけでなく、右心への影響、ほかの病気、出血の危険、自宅で安全に治療を続けられるかで判断します。治療を始めた後は、症状が軽く見えても指示された再診と服薬を続けてください。[1][2]
退院後も再発・出血・残る息切れを確認する
通院では抗凝固薬の飲み方、出血、再発を疑う症状、息切れの回復を確認します。何か月も息切れや運動時の負担が残る場合は、肺血管や心臓への影響を含め再評価します。日常生活の活動量や旅行の予定を医師に伝え、予防策は個人のリスクに合わせて相談してください。[1][2][7]
受診前には、どの動作で息切れするか、以前と比べて改善しているか、薬の飲み忘れや出血があったかをメモすると相談しやすくなります。突然また強く苦しくなった場合は、再診日を待たず救急対応を優先します。[1][2]
- 受診時に伝えること
- 症状の開始時刻、胸痛・失神、片脚の腫れ・痛み
- 背景
- 最近の手術・入院・長時間移動、がん、妊娠・産後、ホルモン薬
- 持参するもの
- お薬手帳、過去の血栓症や出血の記録、可能なら検査結果
よくある質問
肺塞栓症とエコノミークラス症候群は同じですか?
長時間座ることが関係する血栓症をそう呼ぶことがありますが、肺塞栓症のきっかけは手術・入院・がんなど多様です。飛行機に乗っていなくても起こります。
症状が軽ければ肺塞栓症ではありませんか?
軽い症状やはっきりしない症状でも否定できません。急に始まった息切れや胸痛は、背景も含めて対面で評価を受けてください。
Dダイマーが高いと確定ですか?
確定ではありません。感染、妊娠、手術後などでも上昇します。医師が症状と発症可能性を評価し、必要な画像検査を選びます。
治療後に息切れが残ったらどうしますか?
回復に時間がかかることもありますが、再発や肺血管・心臓への影響なども考えるため、症状の経過を記録して主治医に相談してください。
参考文献
- 日本循環器学会ほか:2025年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン
- Creager MA, et al. 2026 AHA/ACC guideline for the evaluation and management of acute pulmonary embolism in adults. Circulation. 2026. PMID: 41712677
- West J, et al. The value of clinical features in the diagnosis of acute pulmonary embolism: systematic review and meta-analysis. QJM. 2007. PMID: 18089542
- Patel P, et al. Systematic review and meta-analysis of test accuracy for the diagnosis of suspected pulmonary embolism. Blood Adv. 2020. PMID: 32915980
- Stals MAM, et al. Safety and efficiency of diagnostic strategies for ruling out pulmonary embolism: individual-patient data meta-analysis. Ann Intern Med. 2022. PMID: 34904857
- Meyer G, et al. Fibrinolysis for patients with intermediate-risk pulmonary embolism (PEITHO). N Engl J Med. 2014. PMID: 24716681
- Cimini LA, et al. Pulmonary perfusion defects or residual vascular obstruction and persistent symptoms after pulmonary embolism: systematic review and meta-analysis. Eur Respir J. 2024. PMID: 39076522
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