- ✓ 予防接種は、感染症から身を守るために免疫を獲得する重要な医療行為です。
- ✓ 定期接種と任意接種があり、それぞれ対象疾患や費用負担が異なります。
- ✓ 正しい知識を持ち、適切な時期に接種することで、個人と社会全体の健康を守ることができます。
予防接種は、特定の感染症から体を守るために、人工的に免疫を獲得させる医療行為です。感染症の流行を未然に防ぎ、重症化を抑制する上で極めて重要な役割を果たします。この記事では、予防接種の基本的な仕組みから、定期接種と任意接種の種類、さらには最新の知見まで、専門医の視点から詳しく解説します。
定期接種とは?種類と対象、費用について

定期接種とは、国や自治体が国民に接種を強く推奨し、接種費用の一部または全額を公費で負担する予防接種のことです。特定の年齢や期間に接種が義務付けられているわけではありませんが、感染症予防のために重要であるとされています。
定期接種の目的と対象疾患
定期接種の主な目的は、乳幼児期に感染すると重症化しやすい感染症や、社会全体での流行を抑制すべき感染症から国民を守ることです。対象となる疾患は、感染症の発生状況やワクチンの開発状況に応じて見直されます。
実臨床では、お子さんの保護者の方から「どの予防接種を受けさせたらいいですか?」「定期接種と任意接種の違いは何ですか?」といったご質問をよくいただきます。定期接種は、感染すると重症化するリスクが高い、あるいは集団感染を引き起こしやすい疾患が対象となっているため、積極的な接種が推奨されます。
- 定期接種
- 国が定める予防接種法に基づき、特定の感染症の予防のために、対象者に対して接種が強く推奨され、公費助成が行われる予防接種。主に乳幼児期に接種するものが多く、集団免疫の獲得にも寄与します。
主な定期接種の種類と接種スケジュール
日本では、以下のような予防接種が定期接種として位置づけられています。接種対象年齢や回数、間隔はワクチンによって異なります。
| ワクチン名 | 対象疾患 | 主な対象者 |
|---|---|---|
| ヒブワクチン | インフルエンザ菌b型感染症(髄膜炎など) | 生後2ヶ月から |
| 小児用肺炎球菌ワクチン | 肺炎球菌感染症(肺炎、髄膜炎など) | 生後2ヶ月から |
| B型肝炎ワクチン | B型肝炎 | 生後2ヶ月から |
| ロタウイルスワクチン | ロタウイルス胃腸炎 | 生後6週から |
| 四種混合ワクチン(DPT-IPV) | ジフテリア、百日せき、破傷風、ポリオ | 生後3ヶ月から |
| BCG | 結核 | 生後5ヶ月から8ヶ月未満 |
| MRワクチン(麻しん風しん混合) | 麻しん、風しん | 1歳、小学校入学前 |
| 水痘ワクチン | 水痘(水ぼうそう) | 1歳、2歳 |
| 日本脳炎ワクチン | 日本脳炎 | 3歳から |
| HPVワクチン(子宮頸がん予防ワクチン) | ヒトパピローマウイルス感染症(子宮頸がんなど) | 小学6年から高校1年相当の女子 |
これらのワクチンは、決められた期間内に接種することで公費助成の対象となります。接種スケジュールは複雑なため、母子健康手帳や自治体からの案内をよく確認し、かかりつけ医と相談しながら進めることが重要です。日常診療では、特に乳幼児期の接種漏れがないか、保護者の方と一緒にスケジュールを確認するよう心がけています。接種時期を逃してしまうと、全額自己負担になるケースもあるため、注意が必要です。
任意接種とは?その種類と重要性
任意接種とは、定期接種以外の予防接種で、接種を受けるかどうかを個人の判断に委ねられているものです。費用は全額自己負担となることが多いですが、感染症予防の観点から非常に重要な役割を果たします。
任意接種の必要性とメリット
任意接種は、定期接種ではカバーしきれない多様な感染症から身を守るために必要です。例えば、海外渡航時に必要なワクチンや、特定の職業に就く人が感染リスクの高い病気から身を守るためのワクチンなどがこれに該当します。また、高齢者や基礎疾患を持つ方にとっては、重症化予防のために特に推奨されるワクチンもあります。
日々の診療では、「インフルエンザワクチンは毎年受けた方がいいですか?」「帯状疱疹ワクチンは必要ですか?」と相談される方が少なくありません。任意接種であっても、個人の健康状態や生活環境、流行状況に応じて、その必要性は大きく変わります。例えば、高齢者や慢性疾患を持つ方にとって、インフルエンザや肺炎球菌のワクチンは重症化リスクを大幅に低減する効果が期待できます。
主な任意接種の種類
主な任意接種には以下のようなものがあります。
- インフルエンザワクチン: 季節性インフルエンザの感染予防や重症化予防に有効です。毎年接種が推奨されます。
- おたふくかぜワクチン: ムンプスウイルスによるおたふくかぜ(流行性耳下腺炎)を予防します。合併症として難聴や膵炎、男性では睾丸炎のリスクがあります。
- A型肝炎ワクチン: A型肝炎ウイルスによる感染症を予防します。海外渡航者や食品を扱う職業の方などに推奨されます。
- B型肝炎ワクチン(成人): 定期接種の対象外となる成人で、感染リスクがある場合に推奨されます。
- 狂犬病ワクチン: 狂犬病発生地域への渡航者や動物を扱う職業の方に推奨されます。
- 帯状疱疹ワクチン: 帯状疱疹の発症予防や、発症した場合の神経痛の重症化予防に有効です。50歳以上の方に推奨されます。
- 髄膜炎菌ワクチン: 髄膜炎菌による重症感染症を予防します。特定の地域への渡航者や、寮生活を送る学生などに推奨されることがあります。
これらのワクチンは、個々のライフスタイルや健康状態に合わせて選択することが重要です。海外渡航前の予防接種については、渡航先の感染症リスクを考慮し、専門機関で相談することをお勧めします。
任意接種は自己負担となるため、費用と効果、リスクを総合的に考慮し、医師と十分に相談した上で接種を検討してください。特に複数のワクチンを同時に接種する場合は、接種部位や副反応について事前に確認することが大切です。
予防接種の基礎知識: 免疫の仕組みとワクチンの種類

予防接種がどのようにして体を守るのか、そのメカニズムとワクチンの種類について理解することは、接種の重要性を認識する上で不可欠です。
免疫の仕組みとは?
私たちの体には、病原体から身を守る「免疫」という防御システムが備わっています。一度感染した病原体に対しては、その病原体を記憶し、次に侵入してきた際に素早く排除する能力があります。これを「免疫記憶」と呼びます。
予防接種は、この免疫の仕組みを利用したものです。病原体そのもの、あるいは病原体の一部を体内に取り込むことで、実際に病気にかかることなく免疫記憶を形成させます。これにより、将来その病原体に遭遇した際に、体が速やかに対応し、発症を抑えたり、重症化を防いだりすることが可能になります。
予防接種に対する人々の知識、態度、信念は、強制接種に対する受容度にも影響を与えることが報告されています[1]。正確な情報を提供し、理解を深めることが、予防接種率の向上につながると考えられます。
ワクチンの種類と特徴
ワクチンは、その製造方法や免疫のつけ方によっていくつかの種類に分けられます。
- 生ワクチン: 弱毒化した病原体そのものを使用します。体内で病原体が増殖することで、自然感染に近い形で強い免疫を獲得できます。例: 麻しん風しん混合(MR)ワクチン、水痘ワクチン、BCG、ロタウイルスワクチン。
- 不活化ワクチン: 病原体を殺して毒性をなくしたものや、病原体の一部を使用します。生ワクチンに比べて免疫獲得までの回数が多く必要になることが多いですが、安全性が高いとされています。例: インフルエンザワクチン、日本脳炎ワクチン、B型肝炎ワクチン、ポリオワクチン、百日せきワクチン。
- トキソイド: 細菌が産生する毒素(トキシン)を無毒化したものです。毒素に対する免疫を獲得します。例: ジフテリアトキソイド、破傷風トキソイド。
- mRNAワクチン: 病原体の遺伝情報の一部(メッセンジャーRNA)を投与し、体内でその病原体の一部を作ることで免疫を誘導します。例: COVID-19ワクチン。
ワクチンの種類によって、接種回数や間隔、副反応の傾向が異なります。臨床現場では、患者さんの状態や既往歴を詳しく確認し、最適なワクチンの選択と接種計画を立てるようにしています。特に複数のワクチンを接種する際には、接種間隔や同時接種の可否について、最新のガイドラインに基づいた判断が求められます。
最新コラム(予防接種):COVID-19ワクチンと腎臓病患者、薬剤師の役割
予防接種に関する研究は日々進展しており、新たな知見が次々と報告されています。ここでは、COVID-19ワクチンに関する最新の話題と、予防接種における薬剤師の役割についてご紹介します。
COVID-19ワクチンに関する新たな知見
COVID-19パンデミックは、ワクチンの開発と接種の重要性を改めて世界に示しました。特に、妊婦や慢性腎臓病(CKD)患者など、特定の集団におけるワクチンの安全性と有効性に関する研究が進められています。
- 妊婦へのCOVID-19ワクチン接種: 妊婦におけるCOVID-19ワクチン接種は、母体と新生児の転帰に悪影響を及ぼさないことが体系的レビューで示されています[2]。むしろ、妊娠中のCOVID-19感染による重症化リスクを考慮すると、接種のメリットが大きいと考えられます。外来診療では、『妊娠中にワクチンを打っても大丈夫ですか?』と不安を訴える妊婦さんもいらっしゃいますが、最新のエビデンスに基づき、安全性を説明し、接種を推奨しています。
- 慢性腎臓病(CKD)患者へのCOVID-19ワクチン接種: 慢性腎臓病患者は、免疫機能が低下している場合があり、COVID-19感染時に重症化しやすい傾向があります。COVID-19ワクチン接種は、CKD患者においても有効性が確認されており、重症化予防に寄与することが示唆されています[4]。腎臓病の患者さんからは、『持病があるからワクチンは避けた方がいいのか』という質問もよく受けますが、専門医として、むしろリスクが高いからこそ接種を検討すべきであることを説明しています。
これらの知見は、特定の健康状態を持つ人々が予防接種を受ける際の意思決定を支援する上で非常に重要です。個々の患者さんの状態に応じた適切な情報提供が、医療従事者には求められます。
予防接種における薬剤師の役割
予防接種の普及とアクセス向上において、薬剤師が果たす役割は拡大しつつあります。薬剤師は、ワクチンに関する正確な情報提供、接種スケジュールの管理支援、副反応に関する相談対応など、多岐にわたるサポートを提供できます。
薬剤師が予防接種に関わることの有効性と課題について、体系的なレビューが実施されています[3]。多くの国で薬剤師によるワクチン接種が許可され、予防接種率の向上に貢献していることが示されています。臨床現場では、医師だけでなく、薬剤師もチームの一員として患者さんへの情報提供や相談対応を行うことで、より包括的な予防医療を提供できると考えています。特に、ワクチンの保管や供給管理、接種後の経過観察に関するアドバイスなど、薬剤師の専門知識が活かされる場面は多いです。
将来的には、薬剤師がより積極的に予防接種のプロセスに関わることで、医療機関の負担軽減と国民全体の予防接種率向上に繋がることが期待されます。
まとめ

予防接種は、感染症から私たち自身と社会全体を守るための重要な医療行為です。定期接種と任意接種の二つの種類があり、それぞれ対象疾患や費用負担が異なりますが、どちらも感染症予防に不可欠な役割を担っています。
予防接種の仕組みは、体が病原体に対する免疫記憶を形成することにあり、生ワクチン、不活化ワクチン、トキソイド、mRNAワクチンなど、様々な種類のワクチンが存在します。COVID-19ワクチンに関する最新の知見や、薬剤師の役割の拡大など、予防接種に関する情報は日々更新されており、常に最新の情報を得ることが重要です。
個人の健康状態やライフスタイルに合わせて、適切な予防接種を選択し、計画的に接種することで、感染症のリスクを低減し、健康な生活を送ることができます。不明な点があれば、かかりつけ医や医療機関に相談し、専門家のアドバイスを受けるようにしましょう。
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- M R Gualano, E Olivero, G Voglino et al.. Knowledge, attitudes and beliefs towards compulsory vaccination: a systematic review.. Human vaccines & immunotherapeutics. 2020. PMID: 30633626. DOI: 10.1080/21645515.2018.1564437
- Christos-Georgios Kontovazainitis, Georgios N Katsaras, Dimitra Gialamprinou et al.. Covid-19 vaccination and pregnancy: a systematic review of maternal and neonatal outcomes.. Journal of perinatal medicine. 2023. PMID: 36800343. DOI: 10.1515/jpm-2022-0463
- Arjun Poudel, Esther T L Lau, Megan Deldot et al.. Pharmacist role in vaccination: Evidence and challenges.. Vaccine. 2020. PMID: 31474520. DOI: 10.1016/j.vaccine.2019.08.060
- Mattia Rossi, Giuseppina Pessolano, Giovanni Gambaro. What has vaccination against COVID-19 in CKD patients taught us?. Journal of nephrology. 2023. PMID: 37140817. DOI: 10.1007/s40620-023-01640-w





































